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第20話 仕切り直し

第20話 仕切り直し



「…以上が、神殿並びにその周囲を調査した結果となります」

「うむ。ご苦労だったな。だが、それにしても…」


神妙な面持ちで女王陛下へと今回の件について報告したカノンに、女王陛下は大きく息を吐くと椅子の背もたれに体重を預ける。

今現在、この国では無視できない問題が起きているのだが、その影響による被害も発生していた。

その問題とは、戦の神を祀る神殿での出来事だ。

突如として闇の精霊が神殿内部より溢れ出し、それによる被害を避けるために神殿関係者は城へと避難してきた。

そして、現状を踏まえた実態を調査するためにカノンたちを送り込んだのだが、結果としては神官長との戦闘となり、戦いの最中に闇の精霊に取り込まれたであろう神官長は、カノンたちの善戦によって神殿内部へと逃げ込んでしまった。

更に、その時の影響として、神殿周囲には召喚用の魔法陣がいくつも展開され、そこから召喚された大量の魔物による襲撃が始まったのである。

幸い、カノンたちの素早い対応によって、確認できる範囲内にある召喚用の魔法陣は全て破壊され、出現した魔物も全て討伐されたのだが、その後のセラーナの調査した内容によればこの魔法陣はかなりの地下深くに刻まれていて、地表へは複写したものを再展開し、それを使って魔物を召喚することができるらしい。

つまり、地下深くに刻まれた魔法陣の本体を叩かない限り、相手の望むがままのタイミングで魔物を召喚し、延々と攻撃を仕掛けることが可能だと言うのだ。

そんな頭を悩ませるような状況の中、一番の被害はカノン率いる天雷のメンバーが一名、神官長との戦闘時に祟りを受けて戦闘不能に陥ってしまったのである。


「しかしまぁ、絵に描いたような用意周到さだな。前もって準備をしていたに違いないだろう。でなければ、召喚用とは言え大量の魔法陣を設置する準備だけでも相当な時間が掛かりそうだ。さて、まずは発端となった神殿だが…」

「はい。闇の精霊に取り込まれた元神官長が逃げ込んだ神殿ですが、結界によって内部への突入は難しいかと思われます」

「なに? 結界だと?」

「そうです。アレが逃げ込んだ後に、私とセラーナが後を追ったのですが、それなりに強力な結界が施されていたので、内部には入りませんでした。ちなみに、その結界は外側に向けて展開されていました」


セラーナとリムから神殿の状況についての報告を受け、女王とルーニーが顔を見合わせる。

二人の報告にある結界は、外側に向けて展開されていると言う報告だった。

それが何を物語るのかといえば一つしかない。


「つまり、内部で発生したものを外に出さないようにするわけでは無く、外から内部への侵入に備えてある、と言うことか。 …ふむ。言い換えれば、内部に入って欲しくないと言う事なのだろう?」

「その通りです」

「そうか。現状の知り得る情報をまとめると、神殿内部では何者かが大量の闇の精霊を召喚している。理由はまだ不明だが、想定し得る事案としては、周囲に何かしらの被害をもたらそうとしている、と言う事だろうな」

「私とリムも女王陛下と同意見です。更に付け加えるのであれば、アレに闇の精霊を呼び出すことは不可能でしょう。消去法で考えればそのような芸当ができるのは一人しかいないと思われます」

「…戦の神、アリアレイズ。ってぇことか」


その答えには返答はせず、小さく頷くだけに留めておく。

当初、神殿内部で突然発生した闇の精霊を、神殿の外に出さないように結界を張ったのだと思っていたのだが、実際にはその逆で、外から神殿内部への侵入を防ぐものだと分かった。

つまりは、神殿内部で闇の精霊が召喚されたと言う事になるのだが、闇の精霊を呼び出すには相当な魔法力と知識が必要となるため、あの神官長では絶対に無理だろう。

セラーナたちの考えでは、セレン並みの能力が無いと闇の精霊を召喚するなど不可能だと言う事で意見が一致している。


「闇の精霊に取り込まれるようなヤツでは話になりません。私とリムはカノンの意見に同意します。もちろん、消去法での結果が前提となりますが」


理由は分からないが、戦の神であるアリアレイズが神殿内部で大量の闇の精霊を召喚したのだろう。

しかも、神殿内部に入れないように結界を張っていると言う事は、闇の精霊の召喚は今も継続されていると考えた方が良いかも知れない。

いずれにしても、闇の精霊が王城のすぐ近くで大量に召喚されているのであれば、それをそのまま放置しておくことは出来ないし、早々に対処しなければいけないだろう。

なぜなら、神殿内部はもはや闇の精霊の産み出す魔素によって、魔界化している可能性が非常に高く、いつ結界を解いて周囲に大量の魔素を撒き散らすか分からないからだ。

人族にとって魔素は猛毒に等しいし、魔素に引き寄せられて魔物が集まってくることも十分にあり得る。


「…よし。女王として指示する」


そう言って勢いよく立ち上がると、集まった面々を見回し、口を開いた。


「まずは、町の安全の確保だ。カノン、セレスティーナ、アルテリオ。お前たちは冒険者ギルドへと赴き、ギルド長に指示して冒険者による巡回を手配しろ。無論、魔物討伐があれば都度報酬を支払え。全てを責任者であるカノンの判断で行動し、決して民が犠牲にならないようにするのだ!」

「「「はっ!!」」」


まず一つ目は、町の安全の確保だ。

最悪なことに、魔物を召喚する魔法陣は地下深くに刻まれているため、地表の魔法陣を破壊したとしても、それはあくまで複製されたものであるため、敵の好きなときに魔法陣を地表に転写していつでも魔物を召喚することができる。

今現在で確認できるのは神殿の周囲に限られているが、いつその範囲を拡大するかは分からないし、他の場所に同様の仕掛けがあるかは確認していない。

町の住人に被害が及ぶ前に魔法陣を破壊し、魔物がいれば討伐しなければいけないのだが、カノンたちだけでは全くもって手が足りない。

そこで、冒険者ギルドに協力を要請して冒険者による巡回・討伐を行うことにするのだ。

召喚されるのが魔物であれば、討伐後には素材を得ることもできるため、冒険者への報酬の資金源はそれで賄えるだろう。

不測の事態に備えて、カノンとセレスティーナ、アルテリオを冒険者ギルドに配置しておけばいい。

カノンを含めた三人も女王の指示を理解し、それを承諾した。


「よし。次はバイオレットだ。あいつら、余計な手間を掛けよって… とは言え、闇の精霊に捕まるようなヤツからの祟りならば何とかなるかも知れん。ガルマール、チェルシー。お前たちはそこにいるシェリオの協力を貰い、バイオレットの祟りを何とかするのだ」

「「はっ!!」」

「は、はいっ!」


二つ目はバイオレットへの祟りを何とかすることだ。

神が直接祟るのであれば、その神に許しを乞うしかないのだろうが、今回の場合に限って言えば、相手は神などではない。

どちらかと言えば、闇の精霊に取り込まれるようなヤツだ。

だが、神殿の元神官長と言うこともあって、人を祟ることもできたのだろう。

そう考えれば、神から直接受ける祟りよりも、ある程度は祓いやすいのかも知れない。

ならば、神殿関係者の力を借りられれば何とかなる可能性も高いと考えられる。

幸い、こちらには元神託の巫女であるシェリオがいる。

護衛としてガルマールとチェルシーがいれば問題は無いだろう。

何のことか未だに理解できていないシェリオを除き、二人は内容を理解し、承諾する。


「そして、これらの事案については、城門の外に天幕を用意してそこを拠点としよう。管理責任者としてルーニーを常駐させる。おそらくは神殿の件もあっていろんな奴らが押し寄せて来ることも想定されるだろう。そいつらの対応も踏まえて基本的なことはルーニーに一任するが、それでも手に負えないときは私のところへ通してくれ」

「はい」


三つ目は神殿の変化による住人への対処だ。

パーライト王国は、戦の神アリアレイズの加護を受けている大陸でも稀有な国だ。

なのに、その神を祀る神殿からは闇の精霊が溢れ出し、神官長が攻撃を仕掛けてきた挙句、バイオレットを祟って神殿内部へと逃げて行った。

更には、その神殿には外から入れないような結界まで施してある。

おまけに、元神官長との戦闘が神殿の外で派手に行われているため、それを見ていた住人がいても不思議では無いだろう。

神殿に結界が張られていて中に入れない信者や、元神官長との戦闘を目撃した住人たちが城へと説明を求めに来ることも容易く想像できることだ。

そんな輩のために、一人ひとり謁見にて対応していく訳にもいかないため、城の外でルーニーが対応し、その中でも対応し切れない相手だけを女王の元へと通すようにすることで、住民感情と城内の混雑を解消することができるだろう。

ルーニーもその内容を理解し、承諾した。


「そして、最後はあの神殿だが… 闇の精霊を何とかしなければいけない以上、神殿には入らなければいけないだろうな。それに、あの神官長も闇に捕らわれたままだとさすがに不憫だしな。だが、そう考えた時にどうしても人手不足なのと戦闘力が不安なのだが… ここはドラゴンナイトに協力をお願いできないだろうか?」

「ああ、いいぜ。任されよう」


そして、一番の問題点だ。

闇に捕らわれた神官長が逃げ込んだ神殿だが、これまでの現象の発生源であり、闇の精霊が溢れ出した元凶でもある。

それに、どれくらい関与しているのかは分からないが、戦の神が直接関わっている可能性も否めない。

最悪な場合、戦の神との戦闘になれば、命を落とす可能性が非常に高くなるだろう。

遠慮しない言い方をすれば、いわゆる「死に役」だ。

それなのに、ロイは考える素振りも見せずに即答した。


「な…!? おい! お前、即答したが本当にいいのか?」

「良いも何も、それが俺らの受けた依頼だからな」

「いや、いやいやいや。随分と簡単に言ってくれたが、分かっているのか? ある意味、敵の本拠地に乗り込めと言ったのだぞ?」

「平たく言えば、死にに行けと言っている事も存じ上げております。おそらく… いえ、確実に戦の神とやらが出てくるでしょうね」

「それに、強力な結界があったとは言え、神殿への突入は容易です。先ほどは報告を優先するために、結界を破壊して神殿内に入らなかったのです。私の見立てでは、動くのであれば早い方が良いと思いますし、それも踏まえて私たちが当たるのが適任でしょう」


女王の想定することですら、ロイたちには関係ないことらしく、セラーナに至っては戦の神が出て来ることも想定しているらしい。

つまりは、より強力な敵と戦闘になる可能性すら考慮していると言うことだろう。

カノンたちよりも強いだろうドラゴンナイトにしか頼めないこととは言え、あまりにも無茶なことを言っていることは女王ですら理解しているし、こんなお願いを他国から借り受けた冒険者パーティーにして良い訳でもない。

しかし、ロイはこのお願いですら依頼の範疇だと言い切り、リムも自分たちが適任だと言った。

それは、女王にとってとても助かる話でもあった。


「そ、そうか… いや、正直、助かる。とは言え、危険なことには変わりないからな。うーん… そうだな。まずは報告も兼ねて一度ベークライト王国へ戻るのが良いと思うぞ? 神殿のことは大至急の案件ではあるが、私はお前たちを優先したいし、アルバルトにも敬意を評したい。往復二か月の間は我らの方で守りを固めることで対応しようと思う」

「…分かりました。女王陛下のお気遣いに感謝します。とは言え、この件につきましては、本日一杯のお時間をいただけますか?」

「ああ、構わない。ゆっくりと考えてくれ」


女王としては、今後のベークライト王国との付き合い方のこともあるが、それ以上に国王のアルバルトはパーライト王国の女王にとって、この大陸の中でも数少ない味方の一人だ。

その味方を大切にする意味でも、一度は国に帰して状況の報告をすべきだと感じていた。

無論、報告を受けたベークライト王がロイたちの派遣を取り止めてしまうことだって十分に有り得る話だが、そこは彼らを信じるしか無いだろう。

セラーナが返答するのに一日の時間が欲しいと言う事だったので、女王もそれを容認する。


「よし。これで、現時点での問題に対して対処することができる。もともとは未登録の洞窟を調査するところから始まったのだが、不測の事態が発生してしまったため、洞窟の件は仕切り直しとせざるを得まい。まずは、目先の問題を解消するために、皆の力を借りたい。今日はゆっくりと休み、明日から行動を開始してくれ」


女王からの言葉に対し、その場にいる者たちが跪いて頭を垂れる。

そして、女王は立ち上がってその場を後にした。

会議室の扉が閉まると、ルーニーが立ち上がってみんなの方を向く。


「さて、聞いての通りだ。今日は自由時間として、明日からそれぞれの務めを果たそう。お前たちから特に無ければこれで解散とするが、構わないか?」

「あぁ、構わねぇぜ。だが、うーん… そうだなぁ… せっかくだし、皆で飲みにでも行かねぇか? もちろん、こんな状況だしバイオレットのことも気掛かりだけどよぉ、明日からはマジで命を張んねぇとやべぇだろ? だからよぉ、決起集会みてぇにやろうぜ。んで、バイオレットが復活したらもう一回だ。それも盛大にな」


ルーニーが解散しようと皆の意見を聞いた時、カノンが飲みに行かないかと皆を誘った。

それ自体が珍しいことなのか、天雷のメンバーがこれまで見たことが無いくらいに喜んでいる。

そして、次に天雷のメンバーが期待を浮かべた眼差しでロイたちの方を見る。

ロイとしては別に気にもしないことなのだが、一番の気掛かりは沸点が超低い女性二人だ。

見た目も良く温厚そうに見えるこの二人だが、実際のところかなり沸点が低い。

それは、その内容にもよるのだが、以前も冒険者ギルドで絡まれそうになった時点で薄く笑みを浮かべるほどだ。

ロイとしてみれば、どこかの個室でも借りて静かに飲みたいところなのだが、先ほどの天雷のメンバーの会話を聞く限り、既に幾つかの候補を挙げているようだった。

カノンとセレスティーナ以外は庶民であるため、酒を飲むのに個室など使う事は無いだろう。

つまりは、大衆向けの酒場で行われるとしか思えない。

どうしたものかとロイが二人を見ると、どうしたの? と言うような表情でこちらを見る。


「ロイ様。どうしてそんな顔をしているのです? 別に私たちは構わないのですよ? ねぇ、リム」

「もちろんですよ、セラーナ。むしろ、皆との親睦を深める良いチャンスですし、参加しない理由はありませんよね? 貴方は違うのですか? ロイ」

「あのなぁ… 俺が心配してるのはそこじゃないんだよ! でもまぁ、二人が良いなら俺たちも参加させてもらうとするか」


ロイの言葉に大喜びするのは天雷のメンバーだ。

例の洞窟の攻略の時には一緒にゴハンを食べたりしていたのだが、まるで友人同士のように遊びに行くようなことは無かったからだ。

今回、皆で飲みに行くと言うことで、天雷のメンバーとドラゴンナイトのメンバーは、ただの仕事上の付き合いだけにはならなくなりそうだ。

まぁ、たまにはそのようなこともいいだろうと判断し、三人は天雷のメンバーと共に冒険者ギルドに併設されている酒場へと移動するのであった。


「…で? 私たちを誘った挙句に、この様なのですか?」

「い、いやぁ… あははははは… 申し訳無いです。今回は、チビ様も大層ご機嫌過ぎたみたいでして…」


溜め息混じりに発したセラーナの言葉に、セレスティーナが申し訳無さそうにしている。

そのセレスティーナの太腿を枕にして、カノンが気持ち良さそうに寝息を立てていた。

他の天雷のメンバーは、本当に嬉しそうにお酒を飲み、話に華を咲かせている。

そして、次にチェルシーがテーブルに突っ伏してしまったことを切っ掛けに、飲み会はお開きとなり、天雷のメンバーもセレスティーナがカノンを、チェルシーをガルマールが抱え、まだ飲み足りなかったのか、アルテリオは酒を持って城へと戻っていった。


三人も、天雷のメンバーに軽く挨拶を済ませると、城に戻ろうとロイとセラーナが席を立ったのだが、珍しいことにリムがまだ難しい顔をしながらジョッキを傾けている。

そこで、何かがピンと来たセラーナは飲み物を頼み直して席に座った。

更に、それを見てピンと来たのか、ロイが気を利かせたように無言で片手を上げると冒険者ギルドを出て行った。


「…で? どうしたんです? リム。貴女にしては珍しいじゃありませんか」

「…これはあくまで、私の独り言です。別に、セラーナに相談する訳ではありませんよ?」

「構いませんよ? 女同士の秘密に乾杯ですね」


二人はちょっと微笑みながらジョッキをコツンとぶつけると、そのままジョッキを煽る。

そして、テーブルに置かずに両手で包み込むようにジョッキを覆うと、リムがポツリポツリと語り出した。

その内容とは、今日の元神官長との戦闘の時の話らしく、信じられないことにあの激しい戦闘の中、リムは白昼夢を見ていたと言う。

しかも、リムの感覚的にはほぼ一日だったと言うのだが、実際の実時間ではほんの一瞬の出来事だったらしい。

そして、極め付けなのが…


「フェアリー… ナイト? って、あの妖精騎士のことですよね? 確か、遥か前に滅んだと言われている種族に存在した騎士の呼称で、理由は分かりませんが記録にすら残されていないはずですね… しかし、なぜ、リムがそれを知っているのですか? ん? あぁ、すみません。言わば追体験したのでしたね」

「フェアリーナイトについていろいろと知っていることも驚きですが、セラーナ自身もそれなりにベールに包まれてますね。 …今は聞きませんが」

「私の場合、絶対に秘密と言うわけではありませんが、タイミング的には今では無いでしょう。それに、女性は謎が多いほど妖艶となるのです。リムも見た目はそんな感じですが、内面的にはかなり妖艶ですよ? …とは言え、その白昼夢はにわかには信じられませんね」

「では、セラーナについては追々、と言う事ですね。 …まぁ、私の体験はセラーナの認識が正しい反応でしょうね。言っている私ですら半信半疑なのですから。 …あくまで一部だけですけど…」


と、最後に思わず零してしまった言葉と表情に、セラーナが目を光らせる。

いつも無表情で淡々としている目の前の友人が、有り得ないことにセラーナから視線を外して頬をほのかに染めているのだ。

しかも、語尾にいくにつれ、だんだんと弱々しい声になっていた。

つまり、リムは今まさに恥ずかしさを感じているのだ。

初めて見るリムのその姿に、セラーナは思わず抱き締めたい衝動に駆られてしまうが、そんな事をしてしまえば、確実にリムが素に戻ってしまうため、その気持ちを抑えているのが分かるほどに声を震わせて、目の前の愛おしい友人に問う。


「り、リム? そ、その言葉から察するに、一部は半信半疑だけど、残りは信じたいと言うことになりますが… も、もちろん、その内容も教えてくれますよね?」

「…これも私の独り言になりますが…?」

「構いません。私は今、猛烈に飲みたい気分なのです。だから、気になさらずにどうぞ」


そう言うと、興奮気味のセラーナは鼻息を荒くしながら、手に持っていたジョッキを一気に煽ると、追加の飲み物を頼むためにわざとらしくリムから視線を外す。

すると、セラーナの正面に座り、さっきよりも頬を赤らめたリムが、これまた珍しく口をもごもごさせながらも、何とか言葉を紡ぎ出す。

その仕草にどうしようもないほどの愛おしさを感じながら、既に興奮最高潮のセラーナは耳を済ませてリムの言葉に耳を傾け、全てを聞き終えた時には思わず机を両手でバシバシと叩き、叫ぶように言葉を漏らしてしまった。


「何と… 何と素晴らしいことでしょう! 魂の楔、伴侶の絆、引き継がれる想い。ああ、どんな言葉すらも当てはまらない、純粋にして清らかな愛… もはや、今世での繋がりなど紙紐のように脆いものだと感じざるを得ません!!」


周りの客が何事かとこちらに注目しているにもかかわらず、セラーナは興奮に紅潮した表情を浮かべ、ただただ心から溢れてくる言葉を紡ぐ。

それほどまでにリムの話した内容は、清らかで純粋。

そして、言葉では表現し切れない二人の繋がりを示すような表情だった。


「なるほど! これで、なぜカイルがリムを特別視する理由が分かりました。リムは追体験したからこそ、その事実を知っているでしょう。だけどカイルはそれを知りません。でも、カイルの魂はしっかりと記憶しているのでしょう! それが、今のリムとカイルの関係なのです! リム!! …これは、思った以上に脈アリ、ですよ!?」

「じ、実は… 私も、そう思いました…」


と、つい顔を綻ばせてしまったリムを見て、とうとうセラーナは自分の中で溢れかえる気持ちを抑えることができなくなった。

無言のまま席を立ち、急ぎ足でリムの元へ行くと、驚くべき速さでリムを抱き締める。

そして、驚きもがくリムを抱き締めながら、セラーナが再び大きな声で叫んだ。


「皆さん! 今夜、私の大切な親友に良い光が見えました。私は今、例えようのないほど最高の気分ですっ!! だから、今夜は全て私の奢りです! 存分に飲んでくださいっ!! 我が親友に乾杯っ!!!」

『『『乾杯っ!!!!』』』


そこから、酒場内はここ数年で一番の盛り上がりを見せ、全員がセラーナの小さな親友に対し、感謝と激励の言葉を掛けながら、朝まで騒いで飲み明かすのであった。

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