表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

第14話 予想通りの襲撃

第14話 予想通りの襲撃



カノンたちが神殿に出発した後、パーライト王国の王城にある訓練場では、城の騎士たちに混じって神殿に行かなかった待機組が訓練に汗を流していた。

洞窟攻略の時と同じく、リム一人に対して天雷のメンバーが総攻撃を仕掛ける。

だが、今回はその中にセラーナも組み込まれて、天雷のメンバーたちと共にリムを追い込んでいた。

主にセラーナは、一定の距離を取ろうとするリムの動きを牽制し、足止めをする役割を果たしており、天雷のメンバーが実戦さながらに攻撃を仕掛けている。

バイオレットからの先制攻撃に始まり、アルテリオとガルマールが左右からの追撃を入れ、その隙を突いてチェルシーが魔法攻撃を仕掛けていく。

その間もセラーナからの足止めと言う名の猛攻が続いていて、さすがのリムもこの四人を相手取っては余裕の表情を浮かべることができない。

珍しく、天雷からの攻撃をまともに剣で受けるような形になっていた。


「さぁ! 木剣を使っているのですから、思いっ切り攻撃しても死にはしません! 遠慮は要りませんよ!」

「おうさっ!! いくぜっ!!」

「ぐっ! こ、このっ!! セラーナ! 後で覚えていなさい!!」

「良い声で囀りますねリム! 今日こそは一本取って見せますよっ!!」


そう言いながら姿を消したセラーナは、一瞬でリムの背後に姿を現すと反射的に反応したリムとお互いの剣を使って攻防を繰り広げている。

そんな激しい攻防の最中でも、リムの背後から幾つもの魔法弾が飛翔してくる。

セラーナの相手をしているために後ろを向けないリムは、魔法弾が着弾する前にセラーナの剣を強引に掻い潜り、そのままセラーナの背後へと駆け抜けるが、それを見越していたガルマールがリムの正面に現れ、互いの剣が激突する。

その背後でチェルシーの魔法弾を剣で弾き飛ばすセラーナを横目で見ながら、リムとガルマールの一騎打ちが始まった。

この二人の戦いに割り込めないほどの激しい剣の打ち合いを繰り広げながら、リムとガルマールは移動しながら戦闘している。


「ガルマールも良い眼をしてますね! 私の動きを読んで進路へ割り込んで来たのは正解です!」

「止してくれ! お主に褒められると、逆に背筋が凍り付きそうになる!」

「そして勘も良い。この負けを機に、尚更に精進しなさい」

「何故に我の負けが確定しているのか!?」

「これも成長するためです。受け入れなさい」


その直後、切り結んでいた剣の隙間をリムに呆気なくすり抜けられると、ガルマールは正面からリムに蹴り飛ばされてゴロゴロと地面を転がされる。

そして、ガルマールを蹴り飛ばすために足を地に着けて踏ん張ったのを逆手に取られ、飛び込んでくるタイミングを伺っていたアルテリオとバイオレットが左右から切り込んできた。


「捉えたぜっ!!」

「いざ、勝負にゃっ!!」

「来なさい」


そのまま動きを止めず、更に合流してきたセラーナの足止めをうまく利用して、アルテリオとバイオレットが右に左に動いてリムを揺さ振りながら攻撃を仕掛けてくる。

それを一本の木剣で上手に受け流しながら、背後から攻撃してくるセラーナの相手もしているのだが、リムほどの相手であればこれくらい何でもない。

更に、リムがわざと三人を相手に動き回ることで、チェルシーからの魔法攻撃も牽制している。

とは言え、それなりに力を増してきた二人であることからも、徐々にリムも一本の木剣では対応し切れなくなり、とうとう腰に差していたもう一本の木刀を抜き払うと、アルテリオとバイオレットに対して逆に攻撃を加えていく。

初めに、二刀の連撃でセラーナを徹底的に攻め上げ、一瞬体勢を崩したセラーナの剣を足で蹴り上げると、体勢を崩したリムに向かって振り下ろされるアルテリオの剣を一本の剣で受け、その衝撃を利用して体勢を落ち着かせる。

それを見て、しまったと言った表情をするアルテリオのすぐ脇を駆け抜けながら、もう一本の剣でアルテリオの胴に一撃を入れる。


「ぅぐぁっ!!」


短い呻き声と共に、その場に崩れ落ちて悶絶するアルテリオに視線が一瞬集まると、その隙を見逃すはずも無いリムが一気に駆け出し、バイオレットの後頭部へそれなりに強い一撃を入れると、駆け出した勢いのままセラーナへと斬り掛かる。


「ぎにゃっ!!!」

「行きますよ! セラーナ!!」

「来なさい! リム!!」


大きな木剣を構えるセラーナに対し、リムは二刀を逆手に構えると、先ほどまでの動きとは全く違い、速く鋭く剣を振るってセラーナを一気に攻め立てる。

さすがのセラーナも、最初の内はリムの動きに合わせて剣を弾いていたが、息もつかせぬ連撃を何度も受けている内に段々と追い詰められていく。


「まだまだぁっ!!」

「タイミングと魔法力の乗せ方はばっちりですが、更に精度を上げるともっと良いですね」


リムがセラーナに照準を合わせて突進する瞬間、それを見越していたチェルシーの魔法攻撃が襲い掛かる。

威力よりも速度を重視することで、リムの態勢を崩すのが目的なのだろう。

それに気付いたセラーナも、リムへと突進して攻撃を繰り出す。

チェルシーのさすがとも言える魔法の援護を褒めつつ、まずはセラーナを沈黙させるためリムがちょっとだけ本気を出す。

激しさを増した攻防戦は、最終的にセラーナの木剣を叩き折られてしまった。


「こ、降参です…」

「ふぅ… でも、さすがはセラーナです。ギリギリでしたね」

「これでも、魔族国家内では常に上位をキープしていたんですけどね。元ですけど」

「私の強さの秘密は貴女だけが知っている。それで構いませんよ」


リムの伸ばした手を掴んでセラーナが立ち上がると、お互いにポンポンと肩を叩いて闘いの健闘を讃え合う。

だが、最後のチェルシーの姿が見えないし、気配を消しているのかリムの索敵にも掛からない。

しばしの沈黙の後、リムが振り向き様に木刀を背後に向けて突き出すと、そこには気配を消したチェルシーが忍び寄っていて、今まさにリムに向けて振り被った杖を振り下ろそうとしているところだった。

その喉元に木刀が突き立てられると、チェルシーも両手を上げて降参する。


「ま、参りました…」

「魔法攻撃からの気配遮断が驚くほどスムーズでした。しかも、見事な穏行でしたね。私も、この距離になるまでは気付きませんでした」


やがて、リムにやられたガルマールとアルテリオ、バイオレットがやられたところを摩りながらやってきた。


「いたたたた… やっぱりリムは強過ぎるにゃ…」

「ってー… ったく、ウチの裏ボスは手加減ってものを知らねぇからたまんねぇぜ…」

「むぅ… リム殿の動きが前よりも鋭さを増しているように思えるのだが… まだまだ我らも精進が足りんか」

「いいえ、貴方たちは数を重ねる毎に間違いなく強くなっています。だから、私も強さの段階を幾つか上げました。瞬間的に本気を出していることもあります。これは誇れることですよ?」

「そうは言ってもねー… 瞬殺されちゃってるから、いまいち実力が上がった、って実感が湧かないんだよねぇ」


確かに、天雷のメンバーは例の洞窟攻略を経てからと言うもの、確実に強さを増している。

もちろん、ロイたちの指導があってのものではあるが、もともとの素質が高いために、戦うたびに強くなっていき、既に初期段階のリムの領域に達している。

そのため、リムは天雷のメンバーの実力に合わせて戦闘でのレベルを上げていた。

だから、天雷のメンバーがリムに敵わないと言っても、それは当然のことであり、むしろリムに戦闘レベルを上げさせているのは流石だと言える。

このまま行けば、そんなに期間を必要とせずとも十分にリムたちに付いていけるくらいの強さになるだろう。

そんな事を考えながら、天雷のメンバーとセラーナがへとへとになって座り込んでしまうくらいには模擬戦闘を繰り返し、そろそろ頃合かと思った頃、向こうから大きなざわめきが聞こえてきて、やがて口論をしているように騒ぎながら何者かが訓練場に入ってきた。


「あぁっ! 畜生っ! あいつら、絶対に何か隠してやがんぜ!」

「仕方無いんじゃないか? どっちかって言えば、向こうさんも状況を理解し切れて無いような気もするけどな?」

「んなこたぁ分かってんだよっ! っつーか! 人を呼んどいてありゃあねぇだろ!? 俺らのことをバカにしてんじゃねぇの!?」

「そんな。チビ様をバカにするなんてありえませんよ? それは誤解ですって!」

「いいや! 誤解もクソもあるもんかよ!! あぁっ! くそっ! 腹が立って仕方ねぇぜ!! …って、うわっ!! え? あ? 木剣だと!?」


ロイとセレスティーナが宥めていたようだが、それでも怒りが収まらないカノンが文句を言っていると、不意に何かが飛んできて、無意識に掴むとそれは木剣だった。

ハッとして、飛んできた方向を見ると、リムがこちらを見てニヤリと笑みを浮かべてる。

それを見たカノンの背中を急激に寒気が襲うと、あっと言う間に今度は冷や汗が流れてきた。


「…カノン? 貴方、随分と欲求不満みたいですねぇ? 何なら、私がスッキリさせてあげても構いませんよ?」

「は? …い、いや! ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺なら大丈夫だ! そ、そんな、リムの手を煩わせるほどのものじゃあねぇって! な!? ほら、もう大丈夫だ!!」

「いいえ。リム、お願いできますか? チビ様も少し暴れれば落ち着くと思うんですよね」

「せ、セレスっ!! てめぇ! 俺を売るってぇのか!?」

「何言ってんだよカノン。お前のためを思っての行動じゃねぇか。ホントにいい女だよな」


カノンは胸の前でギュッと木剣を握り締め、何とかリムとの模擬戦を回避しようとしても、セレスティーナとロイから煽られる。

確かに、頭に上った血を下げるには、リムに追い詰められて縮み上がるような恐怖心に狩られた方がいいかも知れない。

だが、カノンにしてみれば、絶対に勝てる見込みの無いリムと戦うと言うことは、完膚なきまでに叩きのめされることに繋がっている。

とは言え、全力を出し尽くした上で完敗することは、逆にスッキリするのもまた事実なのだが、今はそんな気になれないのが本音だった。

カノンが穏便に「またの機会に」と言い掛けた瞬間、突如リムが動き出す。

爆発的な瞬発力でカノン目掛けて飛び込んでくると、逆手に構えた剣で大きく振り被る。


「う! うわぁっ!! 本気でやるつもりかよぉっ!?」

「観念なさい」


そして、一瞬でカノンの懐に入り込み、振り被った木剣で思いっ切り胴を斬り付けると、そのままの勢いでカノンが吹き飛んでいく。

だが、その程度で終わるはずが無いのがリムのやり方で、カノンを追撃すべく後を追う。

リムからの追撃がくることは当然だと理解しているカノンは、吹き飛ばされながらも体勢を整えて正面にリムを見据える。


「痛ってぇー!! ってそんなことも言ってられねぇか! くそっ! なら、お望み通りにやってやんぜ!!」

「賢明です」

「いちいち単語だけで終わらせんなよっ! そっちの方が怖ぇだろ!?」

「無駄口を叩いている暇があるなら、どう攻撃するかを考えなさい。瞬時の閃きと判断、行動は平時においても養われます。常にそれを意識していけば、貴方はもっと強くなる」


そこからリムの攻撃が始まる。

逆手に構えた一本の木剣のみで、カノンを一気に追い詰めていく。

だが、リムからの攻撃を受けることで精一杯になっているため、そこから攻撃に転じる手段がカノンにはまだ無かった。

すると、断続的に鳴り響く木剣を打ち合わせる音の隙間を縫うように、いきなりリムの手が伸びてきて、不意にカノンの胸倉を掴んだかと思うと、そのまま訓練場の中心部へと投げ飛ばされた。


「くっそー。振り出しに戻っちまったぜ」

「さぁ、もっと力を振り絞りなさい。その方が貴方もいろいろとスッキリするのでしょう?」

「そりゃな。けどよぉ、コテンパンにやられる、って結果も付いてくんだよ」

「なら、セレスティーナに介抱してもらいなさい。それも貴方の望みなのでしょう?」

「あ、あのなぁっ!!」


渋々発した言葉とは裏腹に、明らかに顔が赤くなっているのはカノンとセレスティーナだ。

リムは、フフッと小さな笑みを浮かべると、問答無用でカノンへと攻撃を仕掛ける。

そして、カノンの健闘も虚しく数度の打ち合いの末、最後の一撃で見事に気を失ったカノンは、鼻息を荒くしたセレスティーナに抱えられると、いそいそとカノンの自室へと運ばれていくのであった。

それを見送りつつ、天雷のメンバーにも本日の訓練は終了と告げると、カノンの後を追うように天雷のメンバーも訓練場を出て行く。

最後に、リムとセラーナがロイの方を見ると、小さく溜め息を吐いてガリガリと頭を掻いた。


「あー… そうだよな。んじゃ、時間も時間だから、メシでも食いながら話すとしますかねぇ」

「そうしましょう。それほど重要な内容でも無いでしょうから、酒場にしますか」


セラーナの提案にリムが頷いて、三人は港町にある冒険者ギルドへと向かうのだった。



=====

==========

====================



「ふむ、そうか… しかし、その言葉は承服しかねるな」

「だろ? 俺も許せねぇよ。あいつら、平気な顔して民を犠牲にしようってんだぜ? 何かあるって知ってるくせに、そいつを見殺しにするってぇなら、そいつらは人殺しと何も変わんねぇよ」

「一理あるな。 …分かった。なら、こうしよう。今度は私が直々に話を聞きに行ってこよう。事と次第によっては神殿への援助の打ち切りも考えねばなるまい。民あっての国家なのだからな」


それなら、とカノンも一緒に行こうとするも、女王に手で制される。

女王と共に神殿への聞き取りに行くよりも、未確認ではあるものの災いが起こることは決定しているならば、冒険者ギルドでギルド長と内々に対策を練った方が良いと言う判断からの静止だった。

事前にできることはやっておくべきだろう。

その代わり、女王がルーニーを連れて行くと言うのを聞き、カノンが何かを察したように頷くと、大人しく冒険者ギルドへと向かって行く。

謁見の間の扉が閉まるのを確認すると、ルーニーが女王に問い掛けた。


「陛下。私も一緒に行くと言うことは… そう言うことだと認識しても?」

「無論。おそらくはお前の想像通りだと思うぞ?」

「そこまで相手もバカとは思えませんけどね… ところで、ターナーはどうします?」

「ターナーは待機させておけ。あいつにはまだ経験が足りんからな」


そう言うと、女王はゆっくりと立ち上がり、玉座の後ろに差してある剣を引き抜いて自分の腰に差す。

そして、ルーニーを引き連れて颯爽と神殿へと向かうのだが、王城を出て神殿までの道のりを歩いていると、不意に周りの音が聞こえなくなっていることに気付き、女王が足を止める。


「ふむ。いくら予想していたとしても、これは少々早過ぎやしないか?」

「それくらい向こうも焦っている、もしくは想定外なのでは?」

「そうかも知れんなぁ。だが、まぁ良いだろう。これはこれで好都合だからな」


すると、二人に気付かれたことで隠れるのを諦めたのか、周囲の影が幾つも集まって来て、それが人の形を作り上げていく。

どうやら、その影たちは既に女王とルーニーを取り囲んでいて、徐々にその包囲を狭めて来ているようだ。

だが、二人はそれに動じることすらせず、事の成り行きをただ見守っていると、影の一つが口を開く。


「ほぉ? さすがに気付くか」

「まさか、それで隠れていたつもりか? なら、我らとかくれんぼはできんだろうなぁ」

「ふざけやがって… これから何が起こるのか想像すらできんのか?」

「言葉を返すが、お前たちこそ想像すらできんのか? まぁ、できるものならやってみるが良いさ。ふふふふ… 無論、できれば、の話だがな」


ルーニーが小さく笑いつつ相手を煽ると、一瞬にしてその場の空気が凍り付く。

今現在、二人は十人を超える数の黒装束の者たちに囲まれていて、その全員が武器を抜いて戦闘態勢になっている。

しかも、相当殺気立っていて、いつ襲い掛かってきてもおかしくないほどなのだが、そうしないのは何かしらの目的があるからなのだろう。

しかし、そんなことはこちらにとってはどうでも良い事で、わざわざ相手に合わせることも無い。

だから、ルーニーは迷うこと無く、迅速に行動を開始した。

無言のまま正面に数本のナイフを投擲すると、意表を突かれた数人がその場に崩れ落ちる。

そして、反射的にそれを見てしまった数人が、突進してきたルーニーに斬り付けられてバタバタと倒れていく。

しかも、ルーニーは片手で剣を振るいながら、もう片手で遠くの敵にナイフを投擲すると、この場での戦闘は一瞬にして終了となる。

終わってみれば敵からの反撃は一切無く、文字通りルーニーに圧倒されるのであった。


「なんだなんだ。呆気無いにも程度と言うものがあるだろう? これでは準備運動にすらならんし、私の出番が無いままではないか」

「まったくだ。久し振りに陛下の剣の舞が見れるのかと期待したのだが… ここまで手応えが無いとさすがに虚しくなるなぁ。あいつらは何がしたかった… っ!!」


あまりにも襲撃してきた敵が弱過ぎたため、女王と共に文句を言っていると、急に一体の影がルーニーに飛び掛ってきた。

逆手に構えた二振りの剣で、あっと言う間にルーニーの懐に入り込むと間髪を入れずに斬り掛かってくる。

それをギリギリのところで剣で受けると、お返しと言わんばかりに影を斬り付け、二人はその場で足を止めての攻防を始める。

だが、パーライト王国内でも屈指の腕前を持つルーニーにはまだまだ及ばないようで、次第に敵はじりじりと後退りを始めてしまう。

敵は既にルーニーには敵わないと理解したようで、いつ離脱するかタイミングを伺いながらの攻防をしている。

それに気付いているルーニーがわざと隙を作ると、敵はその誘いに乗ってしまいルーニーから距離を取ろうと大きく後退をするが、それこそがルーニーの罠であり、爆発的な瞬発力から繰り出される刺突の技で、敵はその体に大きな風穴を開けてしまうのであった。

そして、その場に崩れ落ちる影を見ることも無く、最後の敵を倒したはずのルーニーは、とある一角の方に視線を向ける。


「さて、残すはお前だけだな。わざわざ最後まで手を付けずにいたのだから、多少は口を滑らせても良いんじゃないか?」


すると、ルーニーの睨む一角から姿を現したのは、先ほどまで相手をしていたような影ではなく、一見すれば高位の冒険者とも思えるような装備に身を包んだ一人の女だった。

まだ武器を手に持つことも無く、ルーニーの前へと涼しい顔で歩み寄ってくる。


「さすがは噂に名高いルーニー姫だ。影ごときが相手になるとは思わなかったが、まさかこれほどまでに強いとは… 我々も少々甘く見ていたかも知れないな」

「ほう? 我々と言うからには、お前にも飼い主がいると言うことだな?」

「無論だ。体の良い仕事の上に、払いの良い雇い主がいるんだよ」


お互いにニヤリと笑みを浮かべると、女は剣を抜きながら飛び出してきて、お互いに甲高い金属音を響かせながらの激しい攻防が始まった。

しかし、ルーニーですら両手で剣を握らないと弾き飛ばされてしまいそうな力で剣をぶつけてくる女は、剣技よりも力押しでくるタイプのようで、攻撃もワンパターンで読みやすい。

ある程度観察し、この女の動きが芝居ではないと分かってしまえば、もはやルーニーの敵ではない。

女の剣を受けた瞬間、ルーニーは自身の剣で女の剣を巻き込んで外に流してやる。

すると、女は大きく体制を崩し、それを好機と見たルーニーが剣を振り下ろそうとした瞬間、女はぐるりと体勢を変えてルーニーの胸を目掛けて剣を突き出した。


「ぐぅっ!!」

「ちっ!! 仕留め損ねたかっ!!」


無理矢理体を捻り、女の刺突をかわしたルーニーが、片手を地に突いて体勢を整えると、女も同じように片膝を突いてこちらを睨んでいた。

普通なら、ルーニーよりも早く攻撃できる位置取りをしているはずなのに、女はルーニーを睨むだけで一向に攻撃してくる気配が無い。

すると、その意図に気付いたルーニーがニヤリと笑みを浮かべた。


「あれが最後の切り札だったのか? なら、もう手詰まりのようだな。まぁ、予想通りの襲撃だったが、相手として力不足なところはこちらも想定外だったよ。で? どうするんだ? 逃げて飼い主に泣き付くのか?」

「くそっ! 黙って聞いていれば好き放題言いやがって… こうなれば奥の手を使うしかないか」

「なんだ。手があるなら、出し惜しみせずにすぐに出せばいいだろう? 何を勿体ぶっているんだ? 弱いくせに。ほら、やるならさっさとやれよ? じゃないと、できなくなってしまうぞ?」

「こ、この… クソ女が! 目に物を見せてやるから覚悟しろよっ!!」


そう言い放つと、女の体に周囲から魔素が集まってくる。

魔素を操る辺り、それなりの力がある冒険者なのだろうが、尋常ではないほどの魔素を取り込んだかと思うと、その魔素は形を変えて漆黒のフルプレートの鎧と化した。

そして、ルーニーの前に立ちはだかると、女は突進する姿勢で更に魔素を取り込んでいく。


「ほぉ? 私の技に似る、か。違うのは、取り込んだ魔素を武具変換するところだな」

「何を言っている? まぁいい。この漆黒の闇が、貴様の魂を貪り喰らうぞ」

「ならその鎧、貴様の鮮血で朱に染めてやろう」


そして、お互いに剣を構えると、突進するための姿勢となる。

女は、既に破裂してしまうのではないかと思われるほどに魔素を取り込んでいて、非常に危険な状態だ。

ルーニーは闘気を迸らせていき、互いに睨み合ったままの状態がもう少し続くかと思われたが、女の取り込んだ魔素が自身の理性を保つ限界を超えてしまったのだろう。

突然、獣のような咆哮を上げたかと思うと、ぎらぎらと血走った眼でルーニーに向かって突進してくる。

しかし、ルーニーはそれを待ち受けることも無く、闘気を纏って女に向けて突進する。

そして、お互いが激突し、まるで大爆発でも起こしたかのような爆音が鳴り響き、激しい衝撃波が辺りを通り抜けると、周囲は視界が利かないほどの凄まじい土煙が立ち込めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ