第10話 洞窟攻略
第10話 洞窟攻略
謎の馬鹿騒ぎに巻き込まれ、皆が寝静まった深夜。
ロイたちの天幕から音も無く出て来るのは、完全装備に身を包んだリムだ。
ここの連中はろくな索敵もできていないため、リムがそれなりに気配を消せば、見付けることなど絶対に不可能だろう。
だから、辺りを警戒することも無く、まるで散歩にも出掛けるような感覚で、リムが目的の場所まで足早に進む。
それは廃教会の内部で、そこが実際にカイルたちが謎の襲撃を受けた現場となる。
(簡単に見た限り、ここで争いがあった形跡は… 無い。でもこの場所、屋根は半分朽ちているけど、外に比べたら変化が少ない分、何かしらの痕跡は残っているはず…)
音も無く廃教会の中へと入り込むと、ロイとセラーナから聞いた話を参考に、内部の調査に入る。
とは言え、今は深夜の時間帯に加え、灯りが一切無い室内だ。
完全な漆黒の闇と言っても間違いではないほどに真っ暗闇なのだが、リムにしてみれば明るさなど関係なかった。
それは、カイルが何かしらの手掛かりを残していてくれているのなら、絶対に目で見て分かるようにはしないからだ。
(だから、私がすべきことは目で見るのではなく、闘気を使って探し出せばいい。カイル様なら魔法力ではなく闘気を使うはずだから)
リムは大きく深呼吸をすると、スッと目を閉じて穏やかに闘気を練り始める。
そして、練り上げた闘気を体から足に向けて巡らせ、そこから廃教会の床を覆うように闘気を流す。
すると、閉じたリムの瞼の裏に、この場で起きたであろう出来事が、まるでスローモーションのように映し出される。
それを、リムは一言も声を出すことも無く、一連の出来事を追体験すると、いつの間にか溢れていた涙を腕で拭い、自分たちの天幕へと戻っていくのだった。
その翌日。
慣れない魔法力の操作に苦戦して、疲弊してしまったセレスティーナとチェルシーも完全に復活し、いよいよ未登録の洞窟へのアタックを行うこととなった。
当初の予定では、初日だけ見学して王城へと戻るはずだったルーニーも、洞窟へのアタックだけは見ておかなければならないと、帰城を一日ずらしての参戦だ。
「さて、諸君。いよいよ我々は未登録の洞窟へのアタックを行うこととなった。全く手付かずの洞窟だからこそ、危険度も格段に上がっている。いつも以上に警戒し、任務に当たってもらいたい。決して無理をしないことを私からの命令とする。では、カノン」
「はっ! では、これより洞窟へと入り、アタックを行う」
ルーニーから説明を引き継ぎ、カノンが勢い良く立ち上がると、他のメンバーの前に立ち、これからの進め方について説明をする。
その内容とは、今回の洞窟へのアタックは二つのパーティーが参加しているので、片方のパーティーで進めるところまで進み、疲弊の度合いによってパーティーを交替しながらアタックを仕掛けていく、と言うものだ。
下手に全員参加型にしてしまうと、戦力のバランスが崩れてしまうし、一回の戦闘毎にパーティーの交替をしていては、ろくな休息を取ることもできなくなってしまう。
それならば、せっかく二つのパーティーがいるのであれば、片方が戦えるところまで戦い続ける方が効率がいい。
それに、メインで戦闘をするパーティーとそれを援護するパーティーに分けてしまえば、自分の役割も明確にできるため、戦闘における無駄を省くことにも繋がるのだ。
実質、戦闘後に倒した魔物の素材を剥ぎ取るのもかなりの重労働になるため、そう言う負担を下げる効果もあった。
「へぇ? なかなか良い案ですね」
「多少は考えたってことか。なら、俺たちも少しぐらいはお膳立てしてやらなきゃな」
これまでのカノンの行動を見てきたロイたちにとって、今回のカノンの提案はそれなりに的を得た内容になっている。
もちろん、王族の威信を掛けた案件でもあるため、失敗は許されないだろうし、明確なリーダーシップ見せなければならないのであれば、当然強烈なプレッシャーが掛かるだろう。
セラーナですら良いと言う案なのであれば、ロイとしても全面的に協力せざるを得ない。
そう思い、すかさず手を上げる。
「…何だ? ドラゴンナイト。俺の作戦に何か文句でもあんのかよ」
「あのなぁ、いちいち突っ掛かるな。 …その先陣、俺たちが切ってやるよ」
「あぁ?」
ロイの発言に、驚きを隠せないのは天雷のメンバーだ。
天雷のメンバーはカノンを含めて六名だが、ドラゴンナイトは半分の三名しかいない。
普通、一般的にも戦力の多いパーティーがある程度戦いを引っ張り、少数のパーティーはその間に敵の情報を集めて自分たちが戦いやすいように戦略を立てたり、素材回収などのサポートにまわるものだ。
魔物は地域によって出現する種類も変わるため、少数パーティーはいかに有利に戦闘をすることができるか、収集する前情報がカギとなる。
なのに、先陣を切ると言うことは、その情報収集を無視して戦闘を行うと言うことになり、無駄な動きと緊張感から、疲弊するのも早くなってしまう。
そうすれば、すぐに使い物にならなくなってしまうため、共同で戦闘している他のパーティーからの信頼も低くなる。
それくらいは誰だって分かることだし、誰も好き好んで未開拓地の先導などするはずも無い。
なのに、なぜそんな安易に判断をするのかとカノンがロイを睨むが、当の本人はその程度の睨みなど通用するはずも無く、逆に一言付け加えた。
「なに、別に問題は無いだろ? 今の内に言っておくが、お前たちが俺らを快く思ってないことぐらい初見で分かってる。だから、俺たちに先陣を切らせて、それで使えるかどうか判断すればいいさ。ダメならすぐに戦力外だって言って追放すりゃ良い。その方がお互い余計な手間も必要としないから楽だろ?」
「…その発言、後悔しないんだろうな?」
「問題ありません」
今のギスギスした状態では、お互いに足を引っ張るだけになってしまう。
そんな無駄なことをしている暇など無いと、ロイから確信を突くための提案が投げられる。
当然、カノンの眉が釣り上がりロイに最終確認をするが、セラーナが問題無いと一蹴する。
「よし。なら、それで行こうじゃないか。先陣はドラゴンナイトに任せ、今日は進めるところまで進もう。可能であればマッピングも一緒に済ませたいが、そっちはどうだ?」
「それも問題ありません。必要な道具も一式ありますので、私たちはマッピングも平行して進めましょう」
「よし! なら、行こうぜ!」
ルーニーからの言葉に“こいつ等本気か?” と言う天雷のメンバーを他所に、ロイたちは立ち上がると、ルーニーに出発の指示を仰ぐ。
それを見たルーニーが立ち上がると、拳を天に突き上げて出発を宣言する。
それに合わせるように、全員が声を上げて出発の雄叫びを上げた。
昨日、罠として敷いてあった隠し陣は既に発見して場所をマーキングしているため、進軍は順調に進むことができたので、現場となる洞窟への入り口にはすぐに到着することができた。
ロイたちは既に戦闘準備も済んでいるため、ルーニーに視線を送ると、三人はロイを先頭に、セラーナとリムを左右の後ろに下げて進み始める。
今回発見された洞窟への入り口は本来のものではないようで、入り口を入るとすぐに左右に伸びる分かれ道になっていることから、通路の側面が崩壊して地表に穴を空けたと言う表現が正しいのかも知れない。
その、緩やかに傾斜している入り口から入ると、やけに広い通路に出る。
ロイのハルバードですら天井に届かないところを見ると、相当な規模の洞窟なのだと思った。
差し当たり、周囲を窺ってみたが特に異常な点は見られなかったことから、ロイが左後ろにいるセラーナに視線を送ると、無言で頷いて前に出る。
そして、通路の真ん中で目を閉じると、セラーナの周りを緩やかな風が巻き始めた。
「おい。何してんだ? 早くしろよ」
「後で話す。すまないが、ちょっと黙っててくれるか?」
カノンがロイの隣りに並び、セラーナの分からない行動について問い掛けるも、ロイは顔を合わせることも無く、セラーナから目を離さない。
やがて、「ふぅ」と小さな息を吐いたセラーナがロイのところへと戻ると、不思議そうな顔をしている天雷のメンバーに向けて説明を始める。
「今、風の魔法を使ってこの洞窟の規模を確認しました」
「はぁ? 風? 規模を確認? 何だよそれ」
「まぁまぁ、その辺も含めてセラーナが説明してくれるよ」
セラーナの言葉に過剰に反応するカノンだが、これは至って普通の反応だ。
実際に、ロイとセラーナもドラゴンナイトのメンバーと一緒に活動するようになって、世の中は自分の知らないことばかりだと痛感した経験があるからだ。
それは、セラーナも同じ気持ちなのだろう。
だからこそ、カノンの言葉にも苛立ちを見せること無く、淡々と説明をする。
その内容としては、セラーナは周囲に巻いた風を洞窟内に送り込むことで、この洞窟がどれほどの規模かを把握することができた、と言うものだ。
「この孤島に収まらず、海底にも延びる規模の広さだと…?」
「それも、少なくとも五階層以上ある、堆積型の洞窟にゃ…?」
「冗談じゃねぇぞ! そんなん、踏破するだけでどんだけの日数が必要だっつーんだよ!」
「しかも、その間は洞窟に潜りっ放しなのであろう?」
「荷物も一杯になっちゃうけど、すぐにいろいろと足りなくなっちゃいそうだし、補給を考えるといろんな意味で疲れちゃうねー」
「さすがに、これは… 気持ちが萎えてきますね…」
天雷のメンバーが思わず口にしてしまうことも理解できる。
それほどまでに、セラーナからの話は突拍子も無いものだった。
しかも、未だに完全な洞窟の全貌が見えていないと言うのだから、天雷のメンバーも開いた口が塞がらない。
リアルに考えても、途方も無いことをしようとしているし、正直なところとしては終わりが見えないのではないかとさえ考えてしまう。
「だ、そうだぜ? どうすんだ? ルーニー」
「どうもこうも無いだろう? お前たちは何をしにここに来たんだ? 言っておくが、やらない選択肢なんて存在しないことも理解できなくなったのか?」
その言葉に、大きく反応したのは天雷のメンバーたちだ。
もしかしたら、数日レベルでの仕事だと、勝手に思っていたのかも知れない。
だが、蓋を開けてみると、途方も無い広さで、地下迷宮に匹敵するほどのものだったのだ。
しかも、その全貌を聞いてもやらないことは一切考えていないルーニーは、逆に天雷のメンバーを問い詰める。
「もう一度聞くぞ? お前たちは何をしにここに来たのだ? まさか遊びに来たとは言わないよな? 今後の国の繁栄に直結すると、ちゃんと理解しているのか? …まぁ良い。では、聞き方を変える。お前たちはどうするのか選べ。無論、今すぐに! さぁ! どうする!!」
「なっ!!」
まさか、実の姉からこれほどまでの問い詰めを受けることになるとは、少しも思っていなかったのだろう。
カノンが思わず体を硬直させる。
その後ろでは、天雷のメンバーが難しい顔で互いに意見を出し合っているが、聞こえてくる内容はどれもが消極的な言葉ばかりだ。
そんな不毛なやり取りに呆れているのはドラゴンナイトのメンバーで、これ以上の茶番に付き合っていられないと、ロイが手を上げる。
「なぁ。俺たちは、もう行ってもいいのか?」
「ロイ… お前は、空気を読むと言うことを知らんのか?」
「ルーニー様。ロイ様にとっては、それがとても難しいことなのです」
「はぁ… まぁいい。だが、もう少し待て」
困ったように手を頭に載せるルーニーだが、予想通りにロイたちは参戦してくれると分かり、内心ホッとしてしまったのも事実だ。
だが、一番の問題はそこではなく、目の前にいる実の弟とその仲間たちで、目の前で繰り広げられている不毛なやり取りを見ていると、本当にこの国最高の冒険者チームなのかと疑ってしまいたくなる。
しかし、ロイたちをダシに使うわけにもいかないため、敢えて睨みだけを利かせると、そのプレッシャーに耐えられなくなったのか、カノンが仕方無しに天雷のメンバーの方へと向き直って声を張った。
「ちきしょうっ!! こうなったら、俺は行くぞっ!! いつまでも舐められっ放しでいられるかっつーの!! お前らはどうすんだ!? …言っておくが、引くことも勇気だと思ってるから、お前らが何を選ぼうと俺はその判断を尊重する。安心して決めろ」
さすがに自分に言い聞かせている訳ではなく、他のメンバーの揺らぐ瞳を見てカノンが話をしたのだろう。
だが、自分たちの敬愛するカノンに檄を飛ばされ、次第にその瞳にも力が宿っていくのが見えた。
すると、全員を代表するようにアルテリオが一歩前に出る。
「すまねぇ、チビ兄貴。俺たちはビビッてたみてぇだ。あいつらは行く気満々だっつーのに、チビ兄貴に恥を掻かせられねぇだろ! 俺たちはチビ兄貴に一生ついて行くって決めてんだよ! なら! 俺らも行くに決まってんじゃあねぇかっ!!」
吼えるように、胸の前で強く拳を握り締めながらアルテリオが一歩前に出ると、続けて他のメンバーもカノンと共に行くと声高に訴える。
まるで決起集会のように拳を振り上げる天雷のメンバーに、ルーニーが思わず笑みを零す。
「まったく、悪ぃ顔してやがるぜ。俺たちは、どこまでアンタに踊らされるんだ?」
「ふん。人聞きの悪い事を言うな。私よりも、お前たちの可憐な姫様の方が悪い顔をしてるだろ?」
「うふふふ、そうですね。セシルは貴女よりも悪い顔をしますよ」
「だろう? …ところで、お前はリムなのだろう? こっちに来てから一言も話さないな」
リムの装備の中でひと際異様に感じるのは、その体には不釣合いなほどに大きい額当てと鼻まで覆い隠すようなマスクだ。
お陰でリムの表情は見えないし、全く口もきいていないため、機嫌が悪いと思われているのかも知れない。
やたらと挑戦的な視線を送るルーニーに、危機感を感じたセラーナがやんわりと釘を刺す。
「…ルーニー様。今のその子は、言い換えれば安全装置の外れた大規模殺戮兵器みたいなものです。必要な時以外話しませんし、無闇に威嚇すると火傷では済みませんよ?」
「ほぉ? …どうやらそのようだな。いや、失礼した。 …じゃあ、さっそく始めるとするか」
現場の雰囲気も良くなった頃合を見計らい、ルーニーが再び口を開く。
セラーナの言う洞窟の全貌を聞き、アタックするためのサポートについて提案する。
それは、踏破することを前提に全体のマッピングを進め、動線を確保していくと言う案だ。
つまり、面倒だが洞窟へのアタックは毎日入り口に戻り、進むべき道筋を付けてから前進していくと言うものだった。
もちろん、先陣を切るのはドラゴンナイトと決まっているので、ロイがセラーナに目配せをしてようやくアタックを開始する。
セラーナがロイに進む方向の指示を出しながら並んで先頭を歩き、天雷のメンバーがその後ろに続く。
リムは殿として最後尾に位置し、洞窟内を進み始めた。
現在、混成パーティーはこの洞窟の本来の入り口を目指して歩いている。
洞窟内の通路はある程度広く、横に五人くらい並んでも普通に歩けるような道幅で、天井も驚くほどに高い。
こんな巨大な通路がこの孤島いっぱいに縦横無尽に広がっていて、それが地下にも延びており、海底にまで侵食しているとしたら、その広さはこれまでロイたちですら経験したことが無いほどの規模だろう。
セラーナが歩きながらマッピングを行い、ロイが周囲を警戒しながら黙々と進んでいると、突然周囲の空気が変わり、正面の暗闇の中から謎の生物の咆哮が聞こえてきた。
「おい! 来るぞ! 凄ぇ速度でこっちに向かってきやがる! …って、リム!?」
正面から凄まじいまでの速度で近付いてくる謎の生物に対し、ロイがハルバードを構えようとすると、知らない内にリムがロイの前に来ていた。
しかも、その左手には鞘に収まったままのカイルの剣が一本握られており、謎の生物が前方から迫り、もう少しで視界に入るというところで、リムが前傾姿勢になって剣の柄を握る。
そして、向かって来た何かが目視できたと思った瞬間、リムの姿が掻き消えるのと同時に甲高い金属音が鳴り響き、カノンたちの横を何か重量のある物が、凄まじい速度で飛んでいき、地面をゴロゴロと転がっていく。
「なっ!!」
「あ、あれは…!?」
「…おいおい、マジかよ… ありゃあ何かのキメラだぜ? 山羊の頭部だけになっちまってるがな…」
アルテリオの言うように、山羊の頭部が地面をゴロゴロと転がっていき、体の部分は側面の壁に激突してめり込んでいる。
ロイの前にいたはずのリムはいつの間にか更に前に出ていたのだが、手に握る剣もそのまま納刀されたままなのだが、なぜか魔物の首が斬り飛ばされたように転がってきたのだ。
天雷のメンバーは何が起きたのか理解できず、状況に戸惑う中、突然リムの声が響く。
「敵の追撃です! 正面から三体、後方から四体! ロイとセラーナは正面を! 私が後ろを仕留めます!」
「承知!」
「任せろ!」
そして、リムの指示が飛ぶと同時に、カノンのすぐ横を目にも留まらない速度でリムが駆け抜けると、そのまま後方へとまるで宙を飛ぶように駆けて行く。
暗い洞窟の中、リムが飛んで行ったその先で、暫くすると再び甲高い金属音が数度鳴り響き、それと同時に耳をつんざくような何かの咆哮が複数回響いたのだが、それはすぐに消えていった。
カノンたちは、何が起きているのか理解することができずにいると、こちらに駆けているだろうリムの声が響く。
「天雷! 上に警戒!」
「なっ! えっ!?」
リムの声に、ほぼ条件反射で天雷のメンバーが上を見ると、そこには大きな口を開けて落下してくる巨大な蛇の魔物の姿が見えた。
天雷のメンバー全員が、すっかり油断してしまっていたこともあるのだが、それ以上に直面している現象に対して体が竦んでしまい、とてもではないが対応できる状態には無い。
これまで見たことも無いような魔物が襲撃してきており、今まさにカノンらをその口に収めようとしているのだが、天雷のメンバーは未だに呆然と立ち尽くしている。
このままではいけない、何とかしなくてはと思いつつ、巨大な蛇の口に飲み込まれると思った瞬間、またも甲高い金属音と共に巨大な蛇の頭がいきなり吹き飛んだ。
「う、うわっ!!」
「ち、チビ様っ!!!」
頭を飛ばされた巨大な蛇の死骸が落下してくる中、カノンたちのすぐ横に、鞘に納められたままの剣を握るリムの姿が現れた。
そして、カノンたちのすぐ横には斬り飛ばされた巨大な蛇の頭がゴロゴロと転がる。
よろめくカノンの側にセレスティーナが駆け寄ると、その肩越しに見えたリムの腕が一瞬霞むように動き、甲高い金属音と共に落下中の巨大な蛇の体が両断されて斬り飛ばされた。
「あ、ありゃあ… つ、鍔鳴り… なのか…?」
「チビ様?」
「あ、あいつ… 信じられねぇが、魔物を一撃で両断してやがる… あの金属音は鍔鳴りの音なのかよ…」
仮にも、自分たちはこのパーライト王国では最強と呼ばれている冒険者パーティーで、それは自他共に認められている。
冒険者ギルドでは指名依頼も数多く受けているし、どんな困難な依頼でも問題無くクリアしてきたこともあって、冒険者ギルドでも扱いに困るような依頼はすべて天雷に集まってくる。
自分たちは特別なのだと、多少は調子に乗っていたのかも知れない。
それなのに、この洞窟に入ってからと言うもの、起こる戦闘は全てが天雷にとって未知数のものばかりだった。
そもそも、これほどの巨大な魔物を一撃で斬り飛ばす技など、カノンは初めて見る。
しかも、自分と同じくらい小さい体の少女が神速で抜刀し、魔物を両断して納刀すると言う、見る者には甲高い鍔鳴りの音と斬られた魔物の断末魔の叫びしか聞こえない。
そんな神業をやってのけているのだ。
すると、前方で戦闘していたロイとセラーナが、負傷することなく戦闘を終えて戻ってくる。
「よーし、こっちは済んだぜ」
「手間を取らせられました。では、先を急ぎましょうか」
通路を進んだ先、カノンたちが目にしているのは、さっきロイとセラーナが仕留めた魔物の死骸だが、どう見ても国の騎士団が派遣されて討伐するような大きさのもので、間違っても個人で倒せるような魔物ではない。
それを三体も討伐しているし、リムも一人で五体の魔物を仕留めている。
たった三人が、僅かな時間の中で八体もの巨大な魔物を討伐しているのだ。
その信じ難い事実に衝撃を覚えるのは、カノンを含めた天雷のメンバーだ。
確実に自分たちよりも強いであろうこの三人の本来の目的は、洞窟をアタックするカノンたちのサポートなのだが、このままでは自分たちの方が足手纏いになってしまうのは間違い無い。
ルーニーに感じるものとは絶対的に異なる圧倒的な力の差を見せ付けられ、カノンの堅く握り締めた拳には、血が滲むのであった。




