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人の世に潜み生きるバケモノ

 この世界には、人を食らう化け物が人に紛れて生きている。

 妖怪。鬼。そんな存在が、この科学が発達した現代社会でも確かに残っていた。

 密かに人を襲い、食らい、痕跡すら闇に消す。たちの悪いホラーのような現実。

 だが全ての化け物が危険な訳ではない。

 人との共存を選び、人と協力して秩序を乱す同族を討ち果たす化け物もいるのだ。


 私も、その一人。




「所詮我らは人食いの化け物……貴様もいずれは無惨な最期を迎えよう……ハハハッ……」


 血塗れの化け物が地に崩れ落ち、息絶える。返り血に染まった私に呪いを残して。

 気持ちの悪い手応えと心を抉る言葉に、私はただ立ち尽くす。


 その背後から、淡々とした声が聞こえた。


「人食いの、化け物……」


 私が正体を隠して通う高校の、同級生。

 夜道で化け物に狙われ、危うく食われそうになったところを助けた。

 できれば正体を知らずに助けたかったけどそれは叶わず、バッチリ目が合ってしまっている。


 ズキン、と胸が痛んだ。

 私は、人とは違う。それを否応にも思い知らされて心が沈む。


 だけど、


「うん、じゃあ、小指の先ぐらいは我慢するよ」

「は?」


 意味不明な言葉に何もかもが吹っ飛んだ。


「人食いの化け物なんでしょ? だからお礼っていうかなんというか」

「食べねえよ? いや流れで分かんない? さっきの奴らが敵対派で、私らは共存派で、同じ存在でも立場が違うってさ」

「でも命に別状がない範囲で本人もいいって言ってるし」

「だからなんでいいんだよ。怖がれよ」

「助けてくれたんだから怖くはないよ」

「お、おう……」


 不意打ちに言葉が詰まった。

 ズレてるだけで良い奴なのか?


「だからはい、どうぞ」

「だから食べねえって! 人肉食ったらその時点で討伐対象だっての!」

「あー、そっか……」


 ようやく納得してくれたか。と、ほっと一息つく。

 やっぱり変な奴だ。

 なんだかさっきの戦いより疲れた。早く帰りたい。


「じゃ血は飲む?」

「吸血鬼じゃねえし」


 畜生、油断してた。終わってないのかよ。


「だって人肉が駄目なんでしょ。なら血はセーフかなって」

「そんなトンチ嫌だよ。もっと自分を大切にしろよ」

「あー、心配してくれてるのか」


 そうだったよ。さっきまではな。


「じゃ髪とか爪は?」

「要らねえよ」

「でも条件はクリアしてるし」

「普通動物の毛とか爪は食わねえだろ」

「でも人食いの化け物ならいけるかなって……」

「私らをなんだと思ってるんだ」


 意味が分からない。

 いや化け物だからって怖がらずに受け入れる、っていうアピールなのか?

 一応は優しさなのか?


 真意を読もうと、とぼけた顔をじっと見つめる。


「あ、やっぱり食べたくなった?」

「そんな視線じゃねえよ!」

「えー? 本当に要らない? 二度とないかもしれないチャンスだよ?」

「なんでそんなに食わせたいんだよ……」


 悪の道に誘惑する悪魔かな?

 やっぱり他意なく素で言ってる気がするな。

 よく思い出せば、襲われかけた時からずっと顔色一つ変えてない気がする。

 根本から感性がズレた奴なんだろう。


 ……じゃあ、こんな事考えるような奴とずっと同じ教室で勉強してたのか?

 平然な顔で社会に溶け込んでたのか?


 ゾクッと背筋が寒くなった。


「怖い怖い怖い怖い! なんだお前こっち来んなぁ!」

「ひどいなあ、人を化け物みたいに」

「うるせえサイコパス!」


 もう悲鳴をあげて逃げた。

 人の身ではあり得ない猛烈な速度で、ただの人間を置き去りにして。


 次学校で見かけた時どうしようと本気で悩む。馴れ馴れしく話しかけてくるんじゃないかと考えると恐ろしい。


 最悪の相手に秘密がバレてしまって、これからの未来に恐怖しかなかった。

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