8話 アテナと嵐の予感
ドラゴンの死骸に見向きもせず聖王国に向かって空を飛ぶ。
あれから約1時間がたった。そろそろ王都が見えてくるころだろう。
いやー快適、快適。
馬車が揺れることもないし、天気がいいから、船を漕いでしてしまった。
「ゼウス様、到着いたしました。」
扉の向こうから声が聞こえてくる。着いたみたいだ。
扉が開く。
「うわ、すごいなこれ」
馬車から出て開口一番がそれ。
目の前には、学園と同等かそれ以上に大きい立派な宮殿。随所にある石柱は太く迫力がある。
「お待ちしておりました。ゼウス様」
宮殿の中から人が降りてきた。金髪に天使と同じゆったりとした白い服。
体内に秘めている力は強大であり、ユキやユウをも超える。
彼女こそ、ここ、ミネルヴァ聖王国の神であり、俺がサプライズを仕掛けようとして、失敗した相手・・・
アテナだ。
俺たちは今、宮殿の中の応接室にいる。
アテナに会った後、中でゆっくり話したいということで、雑談もそこそこに場所を移動していた。
宮殿内は、外見に見合うような豪華絢爛の一言だった。
白で統一された家具や壁は手入れが行き届いているのが分かる。
そうこうしているとアテナが部屋に入ってきた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いやいや、大丈夫だよ。それにしても、ずいぶんこの国も発展したようで、さすがアテネだな」
この国も、ウィスドン王国もそうだが、俺が天界から見ていた時よりも随分発展していた。
やはり、ラグナロクの影響が強いだろう。
神は自分の信仰者を大切にする。
これは全ての神に共通する常識だ。
何故なら、信仰が自分の力に直結するから。
もちろん信仰だけが力のすべてではない。
しかし、信仰心に占める力の増幅量は決して無視できる者ではないのだ。
だから民を大切にする。
国を発展させ、豊にさせる。
そうすることで、自身への信仰を揺るがぬ強固なものにするのだ。
それが、自分も民も幸福になる手段なのだ。
話が逸れてしまったが、とにかく、天界の時では考えられないほど発展していたのだ。
天界にいるときが発展してなさすぎってのもあるけどね。
「様々な課題にぶつかりましたが、民のためお思うと不思議と苦ではありませんでした」
「そこがお前のすごい所だな。勤勉で優しい。流石だよ」
「いいえ、これもすべてあなた様のおかげでございます」
「え、そうかな?」
いかんいかん。
みんなの前だというのに、褒め慣れしてないから、ついつい頬が緩んでしまう。気を付けないとな。
前置きはこのくらいにして、世界情勢について聞き出していく。
まずはラグナロク後のことから。
天界を閉じた後、アテナは当時のミネルヴァ聖王国にある大聖堂に転生したらしい。
そこはアテナが信者と交信する唯一の場所であり、とても馴染みのあるところだった。
これは、交信する際に微量の神力を使うからであり、何度も交信することで神力にその場が染まっていくからだ。
次に周りの情勢。
アテネと同様に他神も転移していった。
神が降りたことにより、土地が豊かになった。
そうなると起こるのが領土を巡った戦争。
神の力を盾に次々と戦争を仕掛けていく。
しかし、それは相手国もできるわけで、神の力を使った戦争が相次いで起こることになる。
神の力は大きく一時期は地図を大幅に書き換える事態に陥ったとか。
その戦争は大国同士が連盟を作り周りの国を取り込んでいったことにより終結する。
その連盟は今でも残っていて他国に対して絶大な影響力と発言力を持っている。
ちなみに、このミネルヴァ聖王国も連盟に加入している。
そんなこんなで落ち着いた世の中は数十年後、今度は領土問題と別の理由で戦争熱が再加熱し慌ただしい時代になる。
その内容はまた今度にするとして、とにかく今は戦乱の世なのだ。
実は色々な点においてかなり厳しい時期に転生していたゼウス。
タイミングが最悪だった。
「ここの国は大丈夫なのか?」
こんな話を聞かされたら心配になるのは当たり前。
いくら連盟に加盟してるからと言って、狙われてないと思ったら大間違いだ。
むしろ、アテナは温厚だから、足元を狙われてもおかしくない。
「この国には天使が居りますので、他国への抑止力になります。ですので、狙われる可能性はほとんどないと言っていいでしょう」
そっか。
迎えに来てくれたように、天使は全てこの国にいるらしい。
総数は300と他の騎士団などと比較するとやや少ないが、個々の力は軍隊に匹敵する。
これを踏まえると、狙う方が愚かだ。
そうすると、この国はかなりの発言力がありそうだ。
「まだお話したいことはございますが、今日はこの辺でお開きに致しませんか」
おっと。アテナに言われて気づいたが、外はいつの間にか暗くなっていた。
時間を忘れるほど熱中してたようだ。
「そうだな。この続きはまた明日にして今日は疲れたし、ここらへんにしとくか」
最後にアテナに挨拶をして応接室をあとにする。
部屋を出ると待機していた従者に案内されて、客室へと通された。
部屋に入ったはいいが、寝るにはまだ時間があるので、少し宮殿内を探索するとしよう。
えー、迷いました。
いや、ね?気を付けてたんだよ?でも、気づいたら迷ってた。
今俺は、聖堂の中みたいなところにいる。
絶対来ちゃいけない場所だよね。
辺りは真っ暗闇であり、窓から差し込む光が余計に不気味さを醸し出している。
怖いの苦手なんだよね。
素直に練ればよかったと、少し後悔したゼウスであった。
「おや?こんな時間に何の用ですかな?」
不意に前方からシワ枯れた声が聞こえてきた。
ヒィ!?
思わず身構えてしまった。
「これはこれは、偉大なる神王様。こんな時間に何か用がお在りでしょうか」
目の前に現れたのは全身を祭服に身を包んだ老人だった。
驚くことに、この老人、俺の名前を知っている。
アテナの側近かその近くにいる人だろう。
「誰ですか?」
「申し遅れました。私、ヘレテス・ヘレシー・ベレゴットと申します。普段は、アテナ教の教皇をしております」
アテナ教。
それは名前の通り女神アテナを崇めている宗教である。
当たり前だけど、この国の主教だ。
世界で1・2を争うほど大きな勢力で、その影響力は凄まじいものがある。
ちなみに、俺はアテナと同程度に扱われている。
つまり、主神みたいなもの。
アテナと俺の二大主神って変だが、彼女の父ということで、崇められているのだ。
そんな組織のトップがこんな時間に何をしているんだろう?
俺が言うのも変だが、今の時間帯は普通の人は寝ている時間だ。
さらに、ラグナロクがあってから、それぞれの宗教のトップは飾りになっていて、やることなどほぼ無いに等しいだろう。
だから尚更この時間にこの場所にいるのはおかしいことになる。
まさか、こんな時間までお祈りをしている狂人じゃあるまい。
「やあ、教皇さん。いやー、何?そのー、実は道に迷っちゃってね。気づいたらここに来ていたんだ。」
「それは、災難でしたな。よろしければ、お部屋まで案内させていただけませんか」
「それはありがたい。ぜひ、よろしく頼むよ」
結局、俺は何も考えないことにした。
教皇さんだってやることがあったのだろう。
それから俺は、教皇に案内されて、部屋まで戻ってきた。
俺が居ないことに気づいたユキとユウの二人がアテナをたたき起こして、大規模な捜索をしよとしてたとこだったらしい。
「ごめんなみんな。少し道に迷っちゃって」
「なんで一人でどっか行っちゃうんですか!次から出かけるときは、必ず誰かを付けてから出かけてください!」
それだと俺のプライベートが消える気が・・・
それに、どっか行ったのは時間が空いていたからだし、一人だったのは君たちがどっか行ってたからだと思うんだけど・・・。
それを言うのは藪蛇だろう。余計な事は言わない方がいいと、天界で痛いほど知ったのだ。
教訓は生かしてこそ意味があるのだ。
「それでは、私はここで」
「あ、ありがとな、送ってくれて」
空気を読んでくれたのか、会話が途切れた時に教皇がそう切り出してくれた。
「おや?教皇と何かあったのですか?」
あれ、言ってなかったっけ?
「ああ、ここまで案内してもらったんだよ」
少し神妙な面持ちで質問してきたアテナに対して適当に返す。
答えを聞いたアテナはそうですか、と吐きながら、教皇の方を見つめていた。
その瞳には疑念の色が宿っていた。
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「くそが!あの、いまいましい神め。危うくバレるとこだったわい。あと少しじゃ、もう少しなんじゃ。誰にも邪魔させんわい」
暗い部屋で一人の老人が悪態をつく。
白く長い髭と祭服。
そう、この老人は教皇ベレゴットであった。
しかし、ゼウスと会った時と違うのは子もしだすオーラだ。
今のベレゴットは神聖さとは正反対の邪悪は雰囲気を纏っている。
その邪気は服をところどころ黒に変色させているほど強力だ。
ゼウスは気にするべきだった。アテナにベレゴットに会った場所を教えるべきだった。
そうすれば、この後に訪れるであろう災害を未然に防げただろう。
ゼウスが迷い込んだ場所。それは、邪神が祀られている場所だったのだ。
厄災はすぐそこまで迫っている。




