12話 ケアと勘違い
暗くて視界が悪い森の中。
しかし、辺りは神聖さ醸し出している。
今俺はいつもの二人を連れて伊吹の守護領域があるバスモット大樹林に来ている。
来る途中で通った場所がミネルヴァ聖王国の右端に位置するとすると、ここは中央。
この森は三日月型に広がっており、真ん中に行けば行くほど深くなっていく。
神々しい雰囲気が漂う中、ユキさんは鼻歌を歌いながら呑気に歩いている。
いつもはそろそろ愚図るころだけど、今日は気分がいいみたい。
「これが終わったら町を散策できる!」
どうやら、終わった後のことを考えてるから気分がいいみたい。
そうこうしている内に回りが開けてきた。
目の前に映るのは巨岩とそれに寄り添う一匹のイノシシ。
彼女はアテナの説明にあった亥王だろう。
「やあ、亥王。伊吹の様子はどうだい?」
「ゼ、ゼウス様?!」
突然の訪問に甲高い声を上げ動揺する亥王。
あ、女の子だったんだ。
てっきりゴリゴリの筋肉達磨なのかと思っていた。
「伊吹様は昨日からあのようにお眠りになられております。何度か声を掛けてみたのですが、一切反応しません・・・。」
「とりあえず俺が話しかけてみるよ」
「よろしくお願いいたします・・・。それと、申し訳けありませんでした」
ん?
なんか謝られることあったっけ?
「伊吹様の為とはいえ、ゼウス様に牙を向けてしまいました。この罰はどのようなものでも受ける所存でございます」
あー、乱入した件か。
「いいよいいよ、気にしないで。寧ろ、伊吹の為を思っての行動だったんだろ?すごいじゃないか。」
主の為に命を懸けることができるのは、配下の鏡だと思うね。
うちのやつは自分のことばっかりだから。
主がピンチの時に自分は遊んでるようなやつだよ?
最近はちょっと本当に俺に忠誠を誓ってるのが嘘なんじゃないかと疑心暗鬼になってる。
「ありがとうございます」
亥王と話した後、少し進み不動の巨岩と対峙する。
一切動かないその大岩は、どこか愁傷のような暗く悲しい雰囲気を醸しだしていた。
「おーい、起きてるー?」
明るく明るい声で呼んでみる。
こちらは気にしてない感を出すことで、口を開きやすくするのだ。
「・・・」
反応しない。
若干動いたので、聞こえてないわけではなさそうだ。
「昨日の件、俺は全然気にしてないから元気を出してくれないか?」
顔がこちらを向く。
足で半分隠れているが、確かにこちらを見ているのが分かる。
「我は取返しのつかないことを・・・」
取返しのつかないことって、ちょっと俺と戦っただけだよね?
「心配すんなって」
「しかし、我は崇高なるゼウス様に牙を向けてしまいました・・・」
真面目過ぎる。
ユウも伊吹ももう少しユキを見習ってほしい。
流石にあそこまで自由奔放で我が儘にはなってほしくないけど、真面目過ぎるのもよくない。
伊吹の場合は真面目な性格すぎて、失敗や過ちを犯したときの衝撃や落ち込みが極端だ。
性格は簡単に変われるのもじゃないけど、思考は変えられると思うんだよね。
俺も紆余曲折してきたから分かる。
「いいかい?すぐに気持ちを切り替えるのは無理だ。だから、すぐ切り替えろとは言えないし、強要もしない。だけど、切り返す努力はできると思うんだ」
先ほどより顔を上げた伊吹に対して、話しを続ける。
「伊吹は俺に牙を向けたのが許せないんだろ?」
間を空けながらゆっくり話していく。
「けど、俺としては全然牙を向けられたと思わないし、寧ろ久々に体を動かせて楽しかったと思ってる。だから、伊吹は重く考えすぎなんだよ」
「重く考えすぎていた・・・?」
「そうだよ!私も色々やらかすことが多いけど、全然気にしないし。逆にね、段々とどうでもよくなってくるんだよね!」
「お前はもっと気にしろ!」
まったく。今度再教育した方がいいのかもしれない。
ユキなりの慰め方なのかもしれないけど。
「そうだったのですか・・・。我は勘違いをしていたのですね」
ある意味そうかもね。
伊吹の目に輝きが戻る。
いつもの伊吹が戻ったところで、少し気になることがあったから、聞いてみることにした。
「ところで、アテナには悪いとか思ってないの・・・?」
「ありません」
速攻返答来たよ。
光が戻った目に鋭い眼光が刺さる。
そうなんだ。俺的にはアテナに罪悪感を抱いてほしいけどね。
もしかして切換可能な真面目なのだろうか。
ケアが完了したところで、一番の功労者を紹介することにした。
「ところで、亥王はお前に付きっ切りで寄り添っていたみたいだぞ。労ってやれよ?」
唐突だけど、大事なことなので言いました。
「リコ・・・そうだったのか・・・」
リコ・・・そんな名前だったんだ。
本当に見た目だけ筋肉達磨なのか。
リコと伊吹が向き合う形になる。
空気を察して、スッと端による俺。
空気を読むのは天界では必須スキルだから。
役に立つ場面は多い。
「我はお前に多大なる迷惑をかけていたようだな・・・。気づけなくて悪かった。すまなかった」
鼻が地面につきそうになるほど頭を下げる伊吹。
「いえ・・・いいんです。私がやりたくてやったんです。伊吹様が大丈夫なら私はそれだけで・・・」
「ありがとう・・・」
途中から言葉に詰まりながら自分の気持ちを伝えるリコは目の端に涙を浮かべている。
生まれた時から主従関係にあった二人。
長い年月を一緒に居ながらも、今再び絆を深める。
最後にはお互い泣きながら、鼻を合わせていた。
その姿は主従を超えたものになっていた・・・。
やっぱり紅茶は美味しい。
応接室に帰ってきた俺たちは先ほどまでの冷めぬ余韻に浸りながら紅茶を嗜む。
「一仕事を終えた後の紅茶は美味しいね」
「そうですね~」
ユキの顔も頬が緩み切っている。
お前はなんもしてないだろ。とは言わない。
この雰囲気を壊したくない。
「この後、町に行きませんか?美味しいお菓子を売ってるお店をいくつかマークしていますので!」
なんか、既視感あるやり取りだ。
「いいね、行こうか」
しかし、そんなことは気にしない。
甘党の行く道は一つしかないのだ!
投稿頻度は落ちると思います。
気長に待ってまらえると嬉しいです。




