10話 神の力
戦闘が始まった。
爆発音があちこちで聞こえてくる。
しかし、ある一か所だけは静けさが支配していた。
その場所には磁力場が働いているかのようだ。
ゼウスと伊吹の場所である。
ふーむ、どうしようか。
さっきの咆哮から察するに、もうほとんど理性は残ってないだろう。
どうやって伊吹をこんな状態にしたのか気になるところではあるが、今は早く暴走を止めないと。
さて、伊吹を正常に戻すにはいくつか方法がある。
一つは俺のスキルで支配すること。
俺の持っているスキルには、生き物を支配できる力がある。
それを使えば、暴走を止めることもできるだろう。
でも、これには致命的な欠点がある
それは、俺の力が完全じゃないところだ。
どうやら俺は転生してから力を大きく減少させてしまったらしいんだよね。
今ならそこらへんの神といい勝負ができるだろう。
そんな今の状態で伊吹を支配しようとしたらどうなるだろう。
逆に支配されてしまうかもしれない。
だからこの案はダメだ。
二つ目の案は力で押し切ること。
力こそ正義という言葉があるように、殴って伊吹を気絶させれば暴走が収まるかもしれない。
ここで疑問になってくるのが、力衰えてるんじゃないの?だろう。
だが、安心してほしい。
魔力や神力は衰えたが身体能力はそのままだ。
天界では書類仕事ばかりだったし、ブランクもあるかもしれないが、伊吹を抑えるぐらいはできるはず。
そのうちにユキ辺りが来てくれるだろうから、そのあとに伊吹を気絶させればいい。
よし、この案で行こう。
作戦が決まったゼウスは今一度伊吹を見る。
ブモォォォォォォォォォォォォォ!
そろそろ我慢の限界が来たらしい。
雄叫びとともに、戦闘が始まった。
猪突猛進に突進してくる伊吹に計画通り、力で対抗するゼウス。
突っ込んできたところを正面から受け止める。
力比べは伊吹が優勢だ。
力を相殺できずに少しずつ後ろへ後退していく。
足元の地面はゼウスが移動していく度に深く削れる。
頭を振り上げ、ゼウスし、一度距離を取る二人。
どうする。
このまま同じことを続けても、優勢なのは伊吹の方だろう。
押す方と押される方。どちらが多く体力を消耗するかと問われれば、押される方だ。
いくら伊吹が直線的な動きしかしてこないとはいえ、パワーが凄い。
こっちが押し換えす度にゴリゴリ体力が削られていく。
この力比べで完全に俺れの方が不利だ。
持って10分といったところ。
「ブモォォォォ!」
再び突進してくる伊吹。
しかし、先ほどは感じなかった嫌な予感に受け止めるのではなく、横に回避する。
通り過ぎた場所には、抉り取られたような跡があった。
それも突っ込んだ場所より遠い位置に、だ。
あ、ヤバい。
ちょっとマズイかも。
あいつ本気出してきやがった。
今の攻撃、スキルを利用したのもだ。
スキル名『野勘亥進』
これが彼のスキルだ。
イノシシが元々持っている特性を強化するスキル。
今回の場合、その牙を、鋭利な牙を強化することにより、不可視の牙を作りだした。
それが嫌な予感の正体であり、遠い位置に跡を作った原因である。
危うく引き裂かれるところだった。
本気の伊吹は拳だけじゃキツイ。
俺が本調子じゃない今、暴走は止められない。
ユウたちが駆け付けてくれるまで、持つといいけど。
スキルを全開に発揮し、理性が完全に崩壊している伊吹。
その目は真っ赤に色づき、俺を睨む。
時間稼ぎの時に大切なことは、攻撃を受けないことだ。
一回の攻撃がそのまま連撃につながり、最終的に負けてしまうことはよくあることだ。
だから、今はとにかく回避に徹する。
全神経を相手の攻撃に向けるのだ。
幸い、単調な攻撃がほとんどだ。気を抜かなければ当たることもない。
その後も、直線的な攻撃に当たるスレスレで避けることにより、体力を温存しつつ回避していく。
しかし、戦場とは常に目まぐるしく変化するものだ。
今回も例外ではない。
均衡を保っていたゼウスと伊吹の戦いも、新たな乱入者によって崩れ去る。
それが現れたのは牙を避けた時だった。
前述の通り最小限の動きで横に跳ぶと、突然の後ろからの衝撃により吹っ飛ばされる。
え、え?
何が起こった?
俺が知らないスキルを使った攻撃か?!
「ブモォォォォォォ!」
後方から聞こえる雄叫び。
その声色は少し高く、伊吹のと違うのが分かる。
おいおい、二体一かよ!?
後ろを振り返ると、伊吹より小さくかと言って普通よりは数段大柄なイノシシがそこに佇んでいた。
ここに来ての援軍。
ユキたちが漏らしたとは考えにくいから、潜んでいたんだろう。
ただでさえ体力を温存して、時間稼ぎに徹しようとしてたのに、流石に二体一は厳しい。
しかも、あのイノシシ、保有魔力量がガブリエル越えなんだけど。
まさか、側近じゃないよね?
できることをしてみるが、稼げる時間が少なくなっただけだろう。
猫の手も借りたい状況だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゼウスが危機に瀕していたころ。
ユキの周りには複数体のイノシシがいた。
「あーもう!しつこい!」
イノシシは実力で及ばない相手に対し、長期戦を選択していた。
伊吹のところに行かせないためだ。ユキを格上と分かった上で取れる最善策だ。
連携し、上手く時間を稼いでいた。
どうしようかな。
ゼウス様には傷つけるなって言われてるけど、流石に限度がある。
伊吹の眷属は基本的に硬いから、多少傷を負っても大丈夫だろう。
ゼウス様は久しぶりの戦闘を楽しんでるようだし、私もゆっくりやるとしますか。
この瞬間からゼウスへの援軍は来なくなった。
まだユウがいるが、彼女もユキと同じような考えだ。
「少し遊んであげる。背中を借りたつもりでかかってきな!」
「「「ブモォォォォォォォォォォ!」」」
魔法を展開していくユキ。
周囲は氷点下まで温度が下がっていく。
「凍れ、氷河世界!」
この技は空気中のありとあらゆるものを凍らせる。
今回はイノシシの足の周りだけを凍らせて、身動きを封じる。
「痛いの我慢してね?」
身動きが取れないイノシシに対し、ゆっくり近づくユキ。
目の前に来ると、腹目掛けて渾身のストレートを繰り出す。
モロに食らったやつは耐えれるわけがない。
次々に気絶していった。
傷つけずに倒す方法。
それはゼウスと同じく殴って気絶させることだった。
それも時間をかけるために、わざわざ動けない状態にしてから行う。
ここに二人目の脳に筋肉が詰まった存在が現れた。
しかし、その残忍性は比べるまでもない。
この事を後で聞いたゼウスは教育の仕方を間違えたと後悔するのだった。
戦場は激化していく・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
攻撃を避ける。
先ほどから回避に徹しているゼウス。
もはや反撃のハの字もないくらい必死だ。
新たに加わった伊吹配下との連携により、攻撃がさらに鋭くなっている。
すでに体力の限界が近い。
無傷だったからだにも少しずつ傷が増えていった。
本当にヤバい。
流石にパワーだけで解決するのは無謀だったか・・・。
仕方ない、覚悟を決めろ。
一度大きく後退し、距離を取る。
深呼吸し呼吸を整える。
「ふぅ、見ないうちに強くなったな伊吹。暴走しても着いて来てくれる仲間もいるようだし。でも、やられっぱなしは良くないからな。反撃させてもらうよ!」
自身の魔力を高めていく。
溢れる魔力の元、『マナ』はその濃さゆえに視認できるまでになる。
まるで共鳴しているかのようだ。
自身のマナが最高潮に達したとき、そのスキルを繰り出す。
「神の箱庭!」
その技が繰り出されたとき、ゼウスを中心に円状の結界が張られる。
この技は結界内を自分が支配できる。
法則から規律、現象までありとあらゆるのもを自分の好きなようにできるのだ。
相手の行動制限や状態管理は朝飯前。
これで伊吹を支配し元の状態を無理やり戻す!
え?
スキルで支配するのは無理なんじゃないかって?
あれはあくまで「かも」だから、成功する可能性もある。
それに、もう一匹の方は止められるはずなので、効果はある。
この結界はかなりの広さがあるから、流石の伊吹も避けられないだろう。
広いし、意外と魔力量あるし、大丈夫だな。
楽観視してる時もありました。
なんと伊吹さん、俺が展開してるときに真上に跳躍したんです。
度肝抜いたよね。
あの巨体からあんなに、それこそ結界の外に出れるぐらい跳ぶなんて思わないでしょ。
俺も知らないことだったんでけど、この円、外側からの衝撃に弱いみたい。
着地した伊吹が突進したら簡単に割れちゃった。
振り出しに戻った。
なんかユキたちはイノシシ相手に遊んでるみたいだし、相変わらずマズイのは変わらない。
まったく、辟易しちゃうよね。
そんな風に尻込みしていた時・・・
「お困りですかな、ゼウス様」
不意に後ろから声が聞こえてきた。




