87話 魔物が橋の下から現れた
「流石に揺れたりはしないね!」
慎重に石の橋を渡っている途中。それに飽きてきた妻が、突然その場でぴょんぴょんと数回ジャンプをした。
「見るからに頑丈な橋だからね。実際に跳んだりしなくてもわかるよ」
「見かけだけかもしれないから、念のためだよ~」
絶対に嘘だ。
ジャンプする前に明らかに動きたくてうずうずしているのが見て取れたからね。
「まぁ、そういうことにしておこっか。でも、あんまり騒ぐとどこかから魔物が現れるかもし――――ほらっ、きた」
気配察知にさっきからたくさんの魔物の存在が引っかかっている。だが、俺たちができるだけ静かに進んでいたおかげか狙われることもなかった。
そいつらがどうやら妻が橋の上でジャンプをした振動か音でも捉えたらしく、エサに釣られるようにこちらへと接近し始めた。
「えっ、もしかして魔物がくるの?」
「うん。それも3体くらい」
「うそでしょ!? これまで魔物って1体だけで出てたのに……」
妻の言う通り、これまでのフィールドでは魔物は1パーティーに対して1体のみで戦闘が始まっていた。
だが、今回の魔物はどう考えても3体が足並みを揃えてこちらを狙ってきている。あと数秒もすれば、全員で俺たちの元に辿り着くだろう。
「本当だよ。もうそろそろくると思うから準備してね」
こちらのパーティーメンバーは現在3名。数的には不利でも有利でもない。だが、連れてきた従魔がよりによって仲間になってから日が浅く、レベル上げが十分に行えていないスラミンだけなのが心配ではある。
とはいえ、今更どうしようもないので根性でどうにかするしかないだろう。
「えええええ!? 下から何か飛び出してきた!!!!!」
橋の下。つまりは大河から3体の魔物が飛び上がり、橋の端に着地した。俺は気配察知でどこから接近してくるか分かっていたので、出現の仕方もだいたい予想がついていたのだが……そういえば妻には敵が近づいているということしか伝えていなかった。そのせいでとても驚いたらしい。あらかじめ展開していた闇魔法の魔法陣もそのせいでキャンセルされてなくなってしまった。
「そこまで驚くことでもないと思うけど。あっ……魔法ってキャンセルされた後ってどうなるんだっけ?」
これまで魔法をキャンセルする機会もなかったので、その後どうなるのかは知らない。
「どうして知らないの!? 使った扱いになって再使用までのクールタイムが発生するんだよ……」
「なるほどね。逆にリーナが知ってることに驚いたよ。でも、それだと闇魔法は20秒近く使えないってことか」
「そうだよ――って、ゆっくり考えている場合じゃないよ! 魔物がこっちに向かってきてるもん!!」
相手が動き始めたのはスキルのおかげで把握していた。
なので右手は既に剣の柄を握っている。
「俺はもう戦えるから。こっちを気にするより次の魔法を唱える準備していいよ」
敵がついに俺たちの前に辿り着いた。ここから1歩でも詰めればすぐに戦闘が始まるだろう。
マーマンジュニア
全身が緑の鱗に包まれた魔物。魚のような見た目をしているが、なぜかヒュームのような腕が2本生えている。そして片手には槍のように尖らせた細長い石を武器として携帯している。
またマーマンジュニアとは親元を離れて一人前のマーマンを目指して武者修行中のモノを指す。基本的に同じ集落の同年代の子供マーマンを3~5体まとめて修行へと出すため、遭遇した際は複数体相手取ることになる。
どうやらこの魔物たちはマーマンの子供らしい。大人のマーマンよりは弱いんだろうし、なんとかなるかな?
まぁ、大人のマーマンの実力自体知らないので、正直鑑定に書いてある情報はなんの判断の足しにもならないんだけどね。
……それにしても普通のゲームだとマーマンに対して特に思うこともなかったけど、フリフロだと若干のキモさがあるね。
相手がいつ動いても対処できるように3体とも視界に入れているんだけど、なんとも微妙な気持ちになってきた。
「あっ、動き出した。やれるかわからないけど、こいつらの注意はできるだけ引きつけてみる! だからリーナは魔法の発動に集中して!!」
「わかった! スラミン、ハイトだけじゃきついかもしれないから一緒に前に出てあげて」
妻の指示を聞いたスラミンは俺の方へとぽよんぽよんと跳ねてくる。
――――初めての3対3の戦闘が始まった。




