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夫婦で営むモンスターファーム~目指せ、まったりスローライフ~  作者: 三田 白兎
1章 ペットが飼いたいので、VRMMO始めました。

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21話 リベンジマッチ(2)


 スキル骨の牙の効果で、マモルの嚙みつく攻撃は常に与ダメージに+補正が入る。溶解液でのアシストがあったとはいえ、補正の入らない爪での攻撃でも怨嗟の大将兎は痛みで顔を歪ませたのだ。あれ以上の威力がある牙が体に突き刺さればただでは済まないだろう。ならば、その攻撃は必ず成功させたい。

 さっきの隙を狙った攻撃でヘイトはこちらに向いたままなので危険だが……もう1度攻撃をして他のメンバーへの警戒を少しでも減らすべきだ。


 全力で怨嗟の大将兎へ向かって走る。ヘイトが向いた状態でそんなことをすれば当然、相手は迎え撃とうとする。火傷していない方の拳を振りかぶり、赤い瞳をギラリと輝かせた。

 ヘイトを他へ向けないために行動した俺は攻撃するための剣ではなく、攻撃を受け流すための盾を構える。少しでもダメージを軽減させて俺が死ななければ、マモルの攻撃は通るんだ。絶対に耐えてみせる!


 丸太のような腕が風切り音を上げながら、眼前に迫る。火傷の状態異常で相手の速さが下がり、自身のレベルアップでステータスが以前より上昇してもなお、速過ぎる動き。

 拳と盾が正面からぶつかった。全身を巡る衝撃。ぶっ飛ばされまいと踏ん張る両の足。急速に減っていくHP。このまま耐え抜くことは不可能だと思い知らされる。しかし、そんなことは最初から分かっていた。


 盾を少し右へ傾ける。同時に己の体の運びに全ての集中力を向け、右半身を後ろへ引く。真正面からぶつけられていた強大な攻撃の進行方向が逸れた。


 踏ん張りが利かなくなったことで俺の体は易々と弾き飛ばされる。何度も何度も地面を跳ねながら、気がつけば妻の近くで転がっていた。


「……生きてる」


 ステータスをチラッと確認するとHPゲージはほとんど空になっていた。本当にギリギリの勝負だったようだ。

 極限の集中を要した攻防の後だからか、全身にどっさりと疲れがのしかかる。しかし、まだ戦闘は終わっていない。すぐにアイテムボックスから低級ポーションを取り出し、がぶ飲みする。


「ウォーターボール!!」


 隣に立っている妻の魔法を唱える声に釣られて、視線を前線へと向ける。そこには首元をマモルの牙で突き刺された怨嗟の大将兎の姿があった。距離があるので、傷口がどうなっているかまでは見えないが、少なくとも骨太で長さのあるマモルの牙の半分以上が兎の肉に埋まっていることだけはわかる。首にこれを受けては流石にユニークボスもかなりのダメージを受けたはずだ。


 更に追い打ちをかけるように妻が放った水弾が顔面へクリーンヒット。


 そしてついに奴はガクッと片膝を折った。


「勝った……の、かな?」


 動かなくなった相手を見て妻がそう呟いた瞬間、ドクンと心臓が大きく脈打ったような音がフィールドに響いた。

 怨嗟の大将兎が纏っていたおどろおどろしい赤のオーラが突然モヤモヤと動き始め、俺たちに襲いかかる。避けようと皆動いてみるも追跡されてあっさり囚われた。速さのステータスで唯一、このユニークボスと渡り合えるマモルのみがそれに捕まらず、逃げ続けている。


 足が動かない。気持ちの悪いずっしりとした重みが下半身を地面に縫い付ける。さっきの咆哮による怯み状態なんかとは比べ物にならない。呪いのような何かが俺を逃がさぬと絡みつく。


 どうにかこの呪縛から逃れる方法はないのかと足掻いていると、怨嗟の大将兎がゆっくりと立ち上がった。白目を剥いて意識を失ったような面。それでも俺の持つ気配察知がこいつはヤバいと訴えかけてくる。


「マモル、トドメを刺せ!」


 この状況でも自由に動けるマモルへ咄嗟に指示を出す。しかし、それでは遅かった。俺が叫び終わる前に怨嗟の大将兎は動き出したのだ。

 何度も見た、重そうな巨体から生み出されるとは到底思えぬ驚異的なスピード。白目を剥いた状態でどうしてそんなに動けるのだろうか。

 

 逃げることはできない。ならば、迎え撃つ。まだ半分程度までしかHPを回復できていないが関係はない。俺がこれを止められれば、少し後ろにいる妻は生き残る。そうすれば、おそらく最後であろうこの一撃も止められた怨嗟の大将兎は倒れてパーティーとしての勝利を掴めるはずだ。死んで勝利するのではリベンジとは言えないかもしれないが、これが唯一の勝ち筋だ。やるしかない。


 満身創痍なのか、怨嗟の大将兎は拳すら振り上げてはいない。ただの突進。だが、一角兎がすれば可愛らしいそれも黒の巨体がすれば脅威となる。


 彼我の距離はすぐに詰るだろう。急いで盾を真正面に構え、両足に力を入れる。


 覚悟を決めて待ち受けている俺と死力を尽くして突進する怨嗟の大将兎。そこへとてつもない速度で割り込む者がいた。


 マモル。

 それにすらっち。

 どうして――――。


 額にすらっちを乗せたマモルは、白の弾丸の如く。猛スピードで突進する怨嗟の大将へ横からぶち当たった。


 しかし、体格の差か。マモルたちの方が押し負けて弾き飛ばされる。思わず目でそちらを追うとマモルもまた俺を見ていた。

 何かを訴えるような、強い意思の籠った目だ。骨の身で瞳など持ち合わせないはずの彼から、確かにそれを感じた。


 なんとなく、なんとなくだけどわかる。マモルの言いたいことは。生きて勝って、完璧なリベンジを果たそうと。そういうことだと思う。

 テイマーと従魔には何か特殊な繋がりでもあるのだろう。俺がマモルの気持ちを察したように、きっとあいつも俺がパーティーとしての勝利を手にするために個人としてのリベンジを捨てたことを感じ取ったんだ。


 ここまで共に戦ってきた相棒にそこまでされたら、相討ちでなんて終われないじゃないか。


「負けねーぞおおおおお!!」


 雄叫びをあげて自分自身を奮い立たせる。

 今更、追加でポーションなんて飲めない。妻が近くにいるので攻撃を逸らすわけにもいかない。結局、選べるのは受け止めるということのみ。だけど、絶対死んでたまるか。気合でも運でもいいから、とにかく生きて勝つ!


 構えた盾と黒毛の大きな体がぶつかり合う。本日2度目。再び味わう衝撃。全身がビリビリとしびれて今にも盾を手放しそうになる。それを気合で持ち堪える。

 未だに衰えない勢い。巨体から生み出される圧を必死になって受け止めていると、メキメキメキと嫌な音がする。

 まずい。と言葉にする時間もなく皮の盾が耐久値を失い砕け散った。


 また負ける?

 嫌だ。そんなの認められるか。


 マモルが再び灯してくれた心の炎は盾の破損という絶望を前にしても消えることはなかった。


 咄嗟に右手で持っていた頑丈な石の剣を自身と相手の間に差し込む。そして両の手でそれを支えた。


「止まれえぇぇぇぇえええええええええええ――――」






<ユニークボス、怨嗟の大将兎が討伐されました>






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