18話 再戦に向けて(5)
クリぼっちなので、今日は複数回投稿したいと思います(泣)
「今度の相手はすばしっこいな」
「私の魔法が全然当たらないよぉ!」
レッドボアを倒した後、次なる標的を発見した俺たちはすぐに戦闘を仕掛けた。一角兎より小型の魔物だったので楽勝だと考えていたのだが、苦戦を強いられていた。
スモールラット
小型のネズミ。3~6体の群れで行動している。素早い動きと地味に痛いかみつき攻撃が厄介な魔物。
鑑定通り、こいつらはとても素早い。その上、小柄なことも合わさって攻撃が当てづらいのである。俺の攻撃は数回に1度は当たっているが、妻の魔法は全部空振り状態。俺の後方で若干やけくそ気味になっている。
こういうときこそマモルみたいな速さの高い味方の出番なのだが、日中なので彼はお留守番である。
「本当にちょこまかと鬱陶しいなぁ。でも、どうせまた耳を齧ろうとするんだろ」
かれこれ5分以上、同じところを狙って攻撃をされていれば、嫌でも対策できるようになる。皮の鎧には歯が通らないスモールラットたちが狙うのは俺の耳。大ジャンプして俺の耳へと飛来するネズミをギリギリまで引きつける。
「今だ」
素早くしゃがんで敵の攻撃を躱す。そして空中で無防備な状態になったそいつへ頑丈な石の剣を叩き込む。
キュッと散々どこかで聞いた鳴き声に似た断末魔を上げて、スモールラットは絶命した。
相手の速さに慣れ、対策ができたことで戦いは一気に楽になる。1体ずつ確実に潰していき、最終的に5匹の群れは壊滅した。
「私役立たずだった」
「相性の問題だし、今回は仕方ないよ。レッサーコングと戦う場合だと俺1人ではかなり時間がかかったりするだろ?」
「それもそっか。でも、ダークエルフのステータスって速さが高いんだから、どうにかできそうな気はするんだけど……なかなか魔法のコントロールが上手くいかないんだよね」
「う~ん、それはどうだろう。速さが高いからって、それだけで速い魔物に攻撃を当たられるようにはならないと思う。どちらかというと精密なコントロールが必要なんだから魔法の熟練度の方が怪しいけど」
ウォーターボール自体が飛来する速さは魔力か速さのステータス依存だとは思うけど。
でも、このゲームのパラメータの意味って公式からは大雑把にしか発表されていないからよくわからないんだよね。その内容だって各ステータスを表している力とか耐とかの文字の意味でなんとなく察せる内容だし。
そのおかげで見習い研究家の人たちが検証班を立ち上げて色々調べているみたいだ。検証結果は掲示板に無料で載せてくれているらしいので、今度覗いてみようと思う。
「とにかく魔法の扱いをもっと上手くならなくっちゃ!」
「じゃあ、早速の次の標的に魔法を撃ってもらおうか。後方5mくらい離れたところに小型の魔物がいるよ」
「了解!!」
今回、俺のスキルに引っかかったのはファンタジー世界でド定番の生物、スライムだ。スライムといえば、ドロドロとしたグロテスクなタイプと玉型だったり雫型だったりするかわいい魔物のどちらか。このゲームの場合は後者らしい。まん丸なビー玉のような水色球体がぽよんぽよんと体を揺らしながら平原をお散歩中だ。
「ねぇ、ハイト」
「ん、どうしたの? まだ気づかれてないし、先制攻撃のチャンスだよ」
「ムリだよ…………」
「何が?」
「だから、攻撃するなんてムリ! だって、あんなフニフニしたかわいい生物を傷つけるなんて私にはできないの」
どうやらスライムは妻好みの魔物だったらしい。
「じゃあ、テイムできるか掲示板でも見て調べる?」
「もちろん! 自分で調べるから、ハイトは逃げられないように見張ってて!!」
「わかったよ」
真っ直ぐ前を向いて掲示板を見始めた妻を視界の端へ。頼まれた通り、スライムの行動を注視する。
ふにょん。ふにょん。ふるふるふる。ぽよよ~ん。
なんだろう……ずっと見ていると癖になりそうな動きだ。こうやって観察すると確かにかわいいかもしれないと思えてきた。
でも、今俺の隣にいるダークエルフがとてつもない執念で君をテイムしようと掲示板で情報を漁っているのに、どうして君はそこまで吞気にしていられるのだろう。俺たちに気づいていないのか、それともマイペースな魔物なのか。
見ている分には癒されるし、逃げられるより断然楽だからいいんだけどさ、その野生動物っていうよりペットショップの犬を見ているような感覚に陥る。
「わかった! 掲示板によると、何かしらのアイテムをスライムに与えて、その子がそのアイテムを気に入った場合テイムされてくれるんだって」
それってつまりスライムをテイムできるかどうかは運次第ってことじゃないのか。
「何をあげるつもり?」
「自分がもらって嬉しい物かな」
「そんな良い物、俺たち持ってたっけ?」
「ハイトが作ったポーションがあるでしょ。あれって回復するためのアイテムだから、もらって嬉しくない人ってあんまりいないと思うの」
「あぁ~、それはそうかも」
回復アイテムはいくらあっても困らないもんね。それにスライムが自分でポーションなんて作れないだろうし、良いプレゼントになるのではないだろうか。
俺はアイテムボックスから低級ポーションを1つ取り出して妻へと差し出す。
「ありがと。お~い、スライムちゃん。これど~ぞ!」
突然、近づいてきた妻には流石に警戒したようで、スライムは動きを止めた。しかし、ポーションが差し出されると態度は一転。ぽよ~んとジャンプをしてポーションを体内に取り込んだ。そしてなぜか妻の頭の上へと移動する。
「やったー! 初の従魔ゲットだよ!!」
「テイムできたのか! おめでとー」
スライムは貢ぎ物をとても気に入ったのか、妻の頭の上でご機嫌そうに震えていた。




