157話 二手に別れる
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手にとって頂けると幸いです。
イッテツさんが自分だけ何もできずに戦闘が終わったことに落ち込んでしまい、俺たちはしばらく彼が立ち直るのを待っていた。
「もう落ち着きました?」
「はい……ご迷惑をおかけしました」
ユーコさんとミミちゃんが励ました結果、彼は立ち直った。
「ところでオオヤシガニのドロップアイテムってなんだったんですか?」
倒した魔物の解体をしたユーコさんに、先程からずっと気になっていたことを聞く。
「そういえば見せてなかったわね。どうぞ、今回手に入ったのはこれのみだけど」
オオヤシガニ
レア度:2 品質:中
殻が非常に硬く、剥がすのに時間がかかる。
また塩でニオイを取らなければ、臭くて食べられない。
「これは……またクセの強いアイテムが出ましたね」
一応、塩があれば食べられるようにはなるみたいだけど……そんなもんどこにあるんだ?
「くさいの? きらい」
「ねー。私も臭い食材は苦手だなぁ」
妻とミミちゃんは嫌そうな顔をする。
だが、現状手に入ったアイテムは最初に見つけたものとこれだけ。他に食料を見つけられなければ、オオヤシガニを食べることになるだろう。まさか、VRMMOでゲテモノ食いをする可能性が出てくるとは思いもしなかった。
「他に食料を見つければ、食べずに済むよ」
「その通り。だからミミも自分で食べ物を探すのよ?」
「うん、わかった」
ゲテモノを食べたくないという気持ちから、ミミちゃんは食材探しに協力する姿勢を見せる。
妻も普通の食材を食べたいだろうし、さっきまでよりは協力的になるだろう。
「あの、一旦二手に分かれませんか?」
みんながおいしいご飯のためにやる気を出したところでイッテツさんがそう提案した。
「別にいいですけど、どうしました?」
「食料探しも大事ですけど、家を見つける必要もあるかなと」
確かにそれはそうだ。
ゲテモノとはいえ、食べ物は手に入った。それなら次は雨風しのげる場所、というより安全にログインログアウトできる場所を見つけたい。そうすればこのイベントフィールドを開拓していくのに最低限必要なものは揃うからだ。
「なるほどね。たしかにイッテツの言う通りだわ。それなら男と女で別れるのはどう?」
「俺は別にいいですけど」
「なら決まりね! さー、ミミとリーナちゃんはこっちよ。私たちは食材確保に向かうから住む場所見つけてきてね」
ユーコさんは俺たちに住む場所を見つけるように言うと、楽しげに歩き始めた。
「お母さん、先いかないで~」
それを妻とミミちゃんが追いかけて、砂浜には俺とイッテツさんのみが残される。
「じゃあ、俺たちも行きますか」
「そうですね」
男二人で歩き出す。
「ところでハイトさんはどんな場所がいいと思います?」
浜辺を歩きながらイッテツさんから問いかけられる。
「う~ん、どんな場所がいいかですか。俺はできるだけ島の中にある場所の方がいいと思いますね。仮に浜辺とかにいい場所見つけても、波で攫われたりしたら意味ないですから」
「なるほど。それは確かに。だったら、ひとまず島の中心を目指してみますか」
「そうですね。ファーレン周辺では見たことのない植物もたくさん生えていそうですし、探険も兼ねるということで」
こうして俺とイッテツさんの拠点探しが始まった。