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155話 うまくいかない食料調達


 夏イベントが開始して一時間。俺たちはまず食料の確保に動いている。理由は店もないこの島で何日も過ごさなければならないからだ。

 普段プレイするときはあまり意識していないが、このゲームには満腹度というものが存在する。百がMAXのそれは時間経過とともに減少し、一定以下になるとステータスに異常をきたす。そしてゼロになるとそれ以降はHPが減っていき、最終的に死亡することになる。

 イベント限定期間中は一度死んでしまうとリスポーンするまでゲーム内で半日待たなければならない上、死亡時にはイベント中に手に入れたアイテムの半分が消失するなどデスペナルティが重く設定されている。

 そうなってくると無人島生活がテーマで食料が安定して手に入るか分からない以上、最初にやることは食料調達となる。


「ねぇ、ハイト! ハイビスカスみたいな花見つけたよ~」

「ハイト、これどう? むらさきで、かわいい」


 そして現在、みんなで食料を探しているのだが……約二名。まったく役に立たないものがいる。それは南国の島のような環境に魅入られている、うちの妻とミミちゃんだ。彼女たちはさっきから花やら貝殻に夢中でまともな食料は一切見つけていない。とはいえ俺とイッテツさん、それからユーコさんもなんとか一種類のアイテムを見つけたくらいなので、あまり人のことは言えない。


「ミミぃ~、そんな紫の丸いので遊ぶよりも食べ物探してちょうだ~い」

「えー、いやだ。食べ物はハイトが探してくれるもん」

「こらっ! いくらハイト君が優しいからって、甘え過ぎよ。自分の食べる分くらい自分で見つけなさい」


 ミミちゃんはいつになくリラックスしている。やはり実の母といるというのが大きいのだろう。きっと二人にとっては普段と変わらないやり取りなのだろうが、俺と妻にとっては珍しい光景だ。人が苦手だというミミちゃんがこうやって自然体で人と会話しているのを見ると、どうしても頬が緩んでしまう。


「あっ! あそこ見てください」


 突然、イッテツさんが大声を出した。きっと何か見つけたのだろう。

 俺は彼が指差した砂浜へ視線を向ける。


「もしかしてココナッツ?」


 落ちている物体は茶色で丸っこい。ここからだと現実にも存在するココナッツに見える。


「俺ちょっと見てきます!」


 第一発見者のイッテツさんが、本当にココナッツなのか確認するために一人で駆けて行った。俺を含めた他のメンバーはその背中を歩いて追う。


「どうでした、イッテツさん?」


 俺たちが追いついても、イッテツさんはまだ例の茶色い物体の前でしゃがみ込んだまま動かない。目の前のアイテムの鑑定結果が気になった俺はすぐに声をかけた。


「……違いました」


 こちらに背を向けたままイッテツさんは答えた。


「うぅ……それじゃあ、また食料探しかぁ」

「私、もうあきた。イッテツお兄ちゃん、そろそろ別のこと、しよう」

「だからミミはわがまま言わないの! そんなに別のことしたいって文句言うなら、自分で食料の一つや二つ見つけてみなさい」


 妻とミミちゃんは思わず落胆を口に出す。


「じゃあ、それは何だったんですか?」


 では、あのアイテムはいったい何なんだろうか。それが気になったので、俺はイッテツさんに問う。


「僕の口からはちょっと」

「え? それはどういう――――」


 イッテツさんの意図が分からなかったので、俺は自分でアイテムを鑑定することにした。




オオヤシガニの糞

レア度:1 品質:低

オオヤシガニの糞。一見、ココヤーシの果実のように見えるため間違える者が多い。口に入れると強烈な刺激を味わえる代わりに毒状態になる。




「――――なるほど。たしかにこれは口に出して説明したくないですね」


 鑑定結果を見てイッテツさんの言っていたことに納得した。そして妻たちにはどう説明しようかと考えていると、俺の気配察知の効果範囲に魔物が侵入した。それはどういうわけか、真っ直ぐ俺たちの方へと迫ってくる。


「何かきます! 戦闘準備してください!! 海とは逆側です」


 海とは逆。生い茂る草花や木々が密集して、奥が確認できない島の内側を警戒するようにみんなに伝える。


 敵はどんな魔物なのか予想できないが、幸い全員反応が早かったため背中から襲われるようなことはなさそうだ。




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