143話 黒兎のローブ
142話 2度目のアップデートを飛ばして投稿してしまっていたため割り込み投稿しました。そしてこちらを143話にさせて頂きます。
「はい。これ、自信作」
俺と妻はミミちゃんの防具屋を訪れていた。中に入るとすぐに駆け寄ってきた。そしてアイテムボックスから妻用に作成した防具を取り出した。
黒兎のローブ
レア度:4 品質:中 耐久値:500/500
要求値:魔(40) 速(40) 上昇値:耐+25 速+30 魔+20
特殊効果:障魔の拳 魅了(小) 耐寒(小)
ユニークボス怨嗟の大将兎の黒い毛皮を使って作られたローブ。フード部分にウサ耳が付いており、非常に愛らしい装備となっている。
「すっごいな」
ぶっ壊れもいいところだ。ローブは防具であるため耐久力はもちろん上昇する。しかし、他の防具よりその値が低い代わりに追加で魔力も少し上がる装備だ。ただこのローブはそのどちらもかなりの数値上昇している。というか、そこはレア度が高いものだからということで納得もできるのだが……速さが30上がるのはどうしてだ?
元が兎だからか…………?
「……」
ローブを受け取った妻はそれを真っ直ぐに見つめて黙り込んでいる。珍しいこともあるものだと思った俺は、彼女の顔を覗き込んでみた。
「どうしてニヤついてるの?」
てっきり俺同様に装備のスペックに驚いているのかと思ったのだが、妻はなぜか口角を釣り上げていた。
「だって! だって……可愛すぎるよこれ」
なるほど。そういうわけか。
ウサ耳付きの黒いモフモフローブ――――見た目的にはパーカーに近いのだが、確かにかわいい。ただ、そこまで可愛いものに執着がない俺にはそんなことより装備としての能力上昇値や特殊効果の方に目がいってしまうが。
「そう、でしょ。見た目と性能。どっちも、意識した」
なんということだ!
ミミちゃんもいつもよりテンションが高いではないか。妻ほどあからさまに態度に出ているわけではないが、いつもより少し大きな声からウキウキしているのが伝わってくる。
「うんうん! ミミちゃんすご過ぎ!! センスの塊。きっと将来は世界的ファッションデザイナーになれるよー!」
妻がすごい勢いでミミちゃんを褒める。いつもなら怖がってサッと引くミミちゃんだが、今日は大丈夫らしい。よっぽどローブを褒められたことが嬉しいと見える。
この感じなら今日は2人でも話せそうだ。俺は久しぶりにイッテツさんと話そうかな。
「イッテツさん、ずっとウィンドウを見てますけどどうかしました?」
ミミちゃんの防具屋内の窓際で1人ウィンドウ開き何かをしているイッテツさんに声をかけた。
「うわっ! びっくりしたぁ」
どうやらかなり集中していたらしく驚かせてしまった。
「いや、今日は2人だけでも妻とミミちゃんが仲良くできそうだったので、俺はイッテツさんと話したいなと思いまして。今、何かお取込み中とかだったら後でも大丈夫ですけど」
「そうだったんですね。だったら、是非話しましょう。丁度、おふたりについてのメッセージが送られたきたところでもありますし」
おふたりって俺たちのことだよな?
だとしたら、何だろう。思いつく相手としては情報屋のシャムさんだが、あの人は妻とフレンドなので何か用事があれば直接連絡がくると思うんだけど……。
「じゃあ、世間話をする前にそちらの話をしましょう」
「すみません。いきなりこちらの都合で話を聞かせることになって」
「いえ、気にしないでください」
「そう言ってもらえると助かります。それでさっき言ったメッセージなんですけど、テイマーのモフアイさんという方からのものなんです。実は――――」
イッテツさんによると、掲示板に様々なテイマー情報を書き込んでくれている、テイマーなら誰もが知るプレイヤーことモフアイさんが今回のやり取りの相手らしい。内容は俺と妻と繋いでくれないかというものだ。俺がまだファーレンの宿屋を拠点に活動していた頃、偶然マモルといたところを見かけて声をかけようとしたが、こちらが急いでいる様子だったので諦めたのだという。そしてもうそのことを忘れかけていた春イベント期間中にたまたまイッテツさんの店に俺が出入りしているのを見かけて連絡してきたのだという。
それとモフアイさんとイッテツさんは元々フレンドではなかったため、知り合い経由で繋がったという話だ。
聞いた感じだと、おそらく骨狼を初めて見てテイマーとしての好奇心が刺激されたというところだろう。
掲示板での感じを見るに悪い人ではなさそうだけど、そこだけでどんな相手か判断するのもなぁ。
「正直、どんな人かによるなぁ。イッテツさん、モフアイさんはどんな感じですか?」
「僕もゲーム内でも会ったのは2、3回なのであまり深い関係ではないですが、話した感じはとても良い人でしたよ。ただ、魔物愛がかなり強くてクセがありますね」
「なるほど。イッテツさんのテイマー版と考えれば良い感じですか」
イッテツさんも普段はいい人だけど、鍛冶始めちゃうと周りの音とか一切聞こえてないっぽいしね。
「えっ、俺ってそんなにクセがありますか?」
「そっちじゃなくて愛の方ですよ。イッテツさんも鍛冶始めると来客に気づかないくらい夢中になっちゃうじゃないですか」
「それは……お恥ずかしい」
まぁ、悪い印象はないっぽいし1度会ってみるか。とりあえず妻や従魔たちは抜きの俺だけで。可能であればイッテツさんにも立ち会ってもらえると有難いな。