いつも好きな男が自分以外とくっつくオネェさんの話(オネェさんとお姉さんのロマンシス)
「はあああ~~~~~もぉおぉぉ何でなのよぉぉぉぉお」
とあるバーの片隅で。
大きな大きなため息が零れた。
ため息の主は、ジョセフィーヌ(本名:合田毅)。隣町のカフェバーで働く自称・和風美人のオネエ。
「何でアタシが好きになった男はみんな、結婚しちゃうのぉ!?」
美しい翡翠色のドレスに身を包んだ彼女は、結婚式の帰りだった。
惚れた男の結婚式だ。
「これで何人目だっけ?」
隣に座る彼女の連れ・正田映子は、頬杖をついて彼女を見つめる。
こちらは仕事帰りのパンツスーツスタイル。休日出勤が終わってすぐ、ジョセフィーヌに呼び出されたのだ。
「五人目よ!」
ジョセフィーヌが吼える。
「アタシが好きになって! 友だちになって! だいぶん距離が近付いたなってなった瞬間、いっつもこれよ!!」
「すごいよねぇ。アンタが好意を持って距離が縮まった男はみんな結婚するんだもんねぇ」
しかもストレートだけでなく、ゲイでも恋人が出来てパートナーシップ結んだり、違う国で結婚したりするんだからすごいよね。
映子が、しみじみと言った。
「何このアタシ自身が倖せになれないジンクス!?」
「アンタ、尽くすタイプだからねぇ。運もあげちゃってるんじゃないの?」
「やめてっ。返してよっ」
「何か、そういう願掛け行けば?」
縁切り神社系とか? と提案する映子。
しかし、ジョセフィーヌは、激しく首を振った。
「でも好きな人には倖せになって欲しいの! やっぱ、いいっ。返さなくていいっ。結婚祝いにその運あげちゃうっ」
「本当、いい奴だねアンタ……」
映子が、感嘆の声を漏らした。
「うう……一体いつになったらアタシ自身が倖せになれるの……」
「そうねぇ……」
バーカウンターに突っ伏してしまったジョセフィーヌの頭を、映子は優しく、ぽんと撫でた。
労わるように、何度も。
「きっといつか、アンタの魅力にきちんと気が付いて、ずっと一生そばにいたいって思ってくれる人が出て来るよ」
優しい声で、小さな子供に言い聞かせるように。
「だって、アンタ、そんなにいい奴なんだもん」
映子は言った。
じわ、とジョセフィーヌの目尻に涙が浮かぶ。
「もし、もし出て来なかったらどーすんのよぉぉぉ」
それが恥ずかしくて、彼女は自棄気味に叫んだ。
「えー? そのときは」
そんな彼女をうるさがるでもなく、映子はその手をギュッと強く握り締める。
「アタシが責任を持って、アンタと一緒に居るよ」
そして、にこっと笑った。
「いいじゃん、友だち同士。仲良く一緒に老人ホーム入ろうよ。で、そのときのイケメン俳優について語り合お」
「アンタ……」
ジョセフィーヌが顔を上げる。映子は微笑んだまま。
「約束、違えんじゃないわよ」
ジョセフィーヌの顔に、やっと笑顔が戻った。
ちょっと勝気な、強気な笑顔。
彼女らしい顔で、映子は「その顔が一番好きだなあ」と思う。
「わかってるって。そっちこそ、例え結婚してもアタシと友だちで居てよ」
「死に水は取ってあげるわ」
「待ってアタシが先に死ぬの?」
友だち同士の会話は、夜更け過ぎまで楽しく弾んだ。
END.
ジョセフィーヌさんは、『プロポーズには薔薇を』にちらっと出てるオネェさんです。