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闇殺

華麗な満月が夜を照らす。

天井が高く、7mほどある巨大な一部屋。

そこにはシャンデリアが6つ等間隔に設置されていた。

心やすらぐようなやわらかい曲。

赤い絨毯(じゅうたん)の上で富豪たちは軽快の踊っている。

移動に困難になるほどの人数。

テーブルクロスがかけられたロングテーブル。

その上には肉、野菜、魚、スープなどがバイキング状態で置かれていた。

この領域の半分はダンス用、半分は食事のたしなみ場ということか。

潤はその一角のテーブルに目立たないように座っていた。

黒いコート、みるからに小金持。

そんな印象をあたえさせる。

潤の視線の先。

赤い絨毯の階段の先に見える白髪の男性。

右手には指輪を3つ、手首には黄金に光るブレスレットが。

左手にも同様の似て非なるものがつけられていた。

床につくほどの長さの毛皮のコート。

見るからに暖かそう。

上から人を眺める。

支配者の目線だ。

その通り彼はこの大豪邸の主人であり、このパーティの主催者。

センタ・ヴォルクライ。

アメリカの一角を占める大富豪だ。

一角といっても日本の考えるような一角ではない。

この豪邸を中心とした半径30kmを自らの領地とした強者。

今回の対象(ターゲット)だ。

「アメリカへやってきた甲斐はないと困るよな…」

と潤は不気味に微笑むとそのまま席を外した。

トイレでもなく落ちついた足並みでどこかへ消えていく。


 潤の姿が見えなくなったときにちょうどヴォルクライは話し始めた。

「みなさん、今宵はパーティにご参加いただきありがとうございます。

我が娘エルニィの誕生日を盛大に祝っていただけること、心から感謝します。

(I have a party participate this evening, everybody, and thank you.

It thanks heartily to have you celebrate a birthday of my daughter elney grandly.)」

ヴォルクライの一礼。

富豪たちの拍手を受けながらヴォルクライはパーティルームを後にした。

彼の私室は畳ほどの部屋で天蓋のダブルベッドと衣装ダンスとその他ゴロゴロ。

暗闇の中彼は衣装ダンスをあけ中から旅行バッグを引きずり出した。

子供が1人は入るほどの物。

鍵が2つ、かかっている。

旅行バッグに?


ヴォルクライは少々焦りながらコートから鍵を1つ取り出した。

主人が持つマスターキーというものだろうか。

不気味な笑みが満面に浮かんでいる。

だが手が震えていいように鍵穴に刺さらない。

決してそれは恐怖といったものではなく。

武者震い

この中の何かに彼は興奮しているのだ。

性的な意味か、趣味的な意味か。

そして…


カチャリ…と


鍵が開いた。



 彼が開けた旅行バッグに入っていたモノ。

それはモノという以前に空間であった。

体から血の気が引いていく。

彼は目を丸めた。

空と呼ぶに相応しい。

だがその瞬間彼は猛烈な怒に支配された。

タンスの中を確認し、部屋中を丹念に探し回る。

「どこだ!!(Where is it?!)」

そう叫びながら次々に物色していった。

それにより部屋が散乱し、(けが)れる。

衣類から時計、雑貨部屋のあちこちのものが床に落ちていった。

それはまさに狂者のように滑稽な姿。


一瞬の気配


彼は即座にドアの方を見た。

ドアを締め切った暗闇の中に潜む。


だがそこに人影はない。

凝視する暗黒。


ふぅ、と安心がもれた。

息を潜め、ゆっくりと近づいていく。


彼の感じた背筋が凍るような感覚。

いつでも殺すことができる位置。


硬直するヴォルクライ。

振り返れば誰なのかが見える。

だが彼はそれを確認することすらできないでいた。

見たら死ぬ見たら死ぬ、そんな考えが彼の頭で飛び交っている。

振り返ろうが振り返らないが彼の死は決定事項であるというのに。


いつでも殺せる――!


窓から祝福するように現れた月。

部屋の中がぼんやりと明るくなる。

彼の影と『それ』の影。

ありえない影が、そこにあった。

いや、ありえないんじゃなくて…。

―――――。

「Was it found?」

暗闇の中彼本人の耳に響いた声。

『それ』の声。

慌てて振り返る。

その瞬間。

つき刺さるナイフ。

流れ出す血液。

心臓につき刺さったナイフは彼を蝕む。

即死できないという苦痛。

ニヤリと笑う暗殺者。

「bye bye」

ぼやける視界とともに彼は。


 死体を野放しにしたまま『それ』は部屋を出た。

何事もなかったかのように歩き、何事もなかったように豪邸を去る。

そんな姿を見て誰が、こいつは人殺しだ、なんて思えるだろうか。

周りはきっと小金持が退場を命じられたのだと思うだろう。

ケットのバイブレーション。

彼はケータイを取り出し、耳に近づける。

「ああ終わったよ」

『       』

「……………。分かった、すぐ戻る」

彼は足早に車へ乗り込んだ。



ありえない影が、そこにあった。

いや、ありえないんじゃなくて。



既にそこにあったんだ。



『それ』の影が――――

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