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少女の兄と、冬の訪れ

「相良。いつもお昼、どこに行ってるの?」

 兄が夜着へと着替え、寝台に潜る私に尋ねた。

 暗い部屋の中で、兄の金色の瞳だけがぴかぴかと目を惹く。

「知人のところです。そう、話していませんでしたか」

「……うん、」

「……どうしました?」

 立ちほうける兄の歯切れが悪い。毛布をめくり寝台に入るよう催促した。兄はうなずき潜り込んだものの、近付いてきた表情が曇っていることばかり思い知る。

「……うたの練習。ずっと別々なの、なんで?」

 私が行き詰まって以来、母は私たち双子に一人ずつ稽古をつけてくれる。兄はまだ、私が魔法を扱えないことに気づいていない。けれど――並び歌えば知られることだ。

「いっしょに歌いたいよ、おれ。もうずっと相良と歌ってない……おれ一人で練習したって、合わせないと意味ないのに。だって」

「『お前たち双子は、一対の楽器なんだからな』、でしょう」

 兄は口を噤み、俯くように頷いた。母の言葉、母の教えだ。忘れるはずない。

 忘れていないからこそ、未熟者は兄と肩を並べられない。

「私はいま、あなたの隣に立つための特訓をしています」

「……そんなのいらないよ。相良、おれよりじょうずだもん」

「兄さん」

 俯いたままの兄を抱きしめた。背中をやさしくたたく。

「寂しがらせて、ごめんなさい」

 兄の心だけは、声色ひとつで伝わってしまう。双子の精神感応というものなのか。

 昔に比べて、兄との時間は減った。集団の和に溶け込む兄と人見知りの私、同じ場所に居られないのは自明なことだ。それでも稽古が一緒なら、相応に会話も多かったから。

 私は自分の事ばかりで、兄の不安に無頓着だった。

 おずおずと抱き締め返してきた手は、次第に遠慮なくこちらを締めてくる。押しつぶされそうな心細さをずっと我慢していたのだろう。

「……お昼、せめて、お家にいてほしい。……書庫にこもっちゃうのも嫌だったけど……知らないうちに相良がいなくなるの、こわかった」

「冬の間は家にいますよ」

「……ほんと?」

 遠くの山々が雪の冠を頂きはじめた。この辺りもそろそろ白銀に覆われる。子どもひとり、冬の森に踏み入る危険は承知しているつもりだ――何より、

「料理当番、しばらく一緒にしませんか。なるべく栄養のあるもの作りたくて」

「! それ、すっごく良い」

 当たってほしくない予感も、あるから。


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