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メイドは親身になる⑤

 連れてこられたのは、校舎に併設(へいせつ)された別館(べっかん)だった。


 外観からは講堂か体育館に見えていたけれど、中身は町工場を連想させた。


 いくつもの作業台が並べられており、見たこともない器具があった。


「まずはお前たちのパラの個性を調べる。パラの性質上、不得意を克服(こくふく)するよりも、得意を伸ばす方がいいとされているからな」


 エターニティはトランクケースを作業台の上に乗っけながらいった。


 パラの個性を見極める方法はとても単純なものだった。


 魔素結晶を加工して作った属性結晶と呼ばれるピンポン玉くらいの水晶体のような物をしばらく口に含み、その色の変化を見れば大凡の方向性がわかるそうだ。


 体温計で体温を測るような感覚である。


 全員が栗鼠(りす)のように頬を膨らませて並んでいる光景はなかなかにシュールだった。


 順番が回ってきた。


 俺は水の張ったお盆の中にぼとんと属性結晶を吐き出した。


 属性結晶は無色透明だった。


 俺の前に吐き出した者は、皆何らかの色が付いていたが、これは何を意味しているのだろうか。


 お盆を覗き込むちょび(ひげ)検査官が渋面(しぶづら)を浮かべているような気がした。


「どうですか?」


 俺は恐る恐る訪ねた。


「無色というのは得手不得手(えてふえて)がないということですが……。万能といえば聞こえはいいんですけど、過去の例ではほとんどが、いや、全員が器用貧乏でして……。いずれにしても戦いには不向きで、基本的には後方支援に回ってもらうことになります」


「……そうですか。ありがとうございました」


 変に期待を含んだような言い方をせず、すっぱり不向きだと告げてくれたことに対する礼だった。


 今から一ヶ月のパラの基礎修練を経て、俺たちはその才能毎に五階級にクラス分けされる。


 頂点に君臨するのが『神』階級、人類の限界点とされる『天』階級、才能が認められる『山』階級、凡庸な『地』階級、無能な『底』階級である。


 これは後から知ったことだが、ライネルは人の身でありながら天階級に到達した数少ない偉人の一人で、王国パラ研究機関の主任を務めていた。


 ちなみに、怒ると怖そうなエターニティは山階級である。


 修練が始まると、才覚ある者はすぐにその頭角(とうかく)を現した。


 まずは補助を受けながら、パラを発現させるというものだった。


 どうしてタヅサが軍学校まで付いてきているのかと疑問に思っていたが、どうやら彼女が補助してくれるということらしい。


 タヅサが俺の左手を包み込むように握り締めると、熱を帯びた何かが腕の中を()り上がってくる感覚があった。


 これがエターニティのいっていた、パラを発現させるのに必要な魔素エネルギーのことだろう。


 本来、パラを扱えない者に魔素を流し込むなど、肉体が崩壊してもおかしくはない狂気染みた行為なのだが、勇者の卵は魔素の扱いに長けているので、この方法が採れるのだという。


 一度でも魔素というエネルギーを体験し、パラを扱いしさえすれば、以降は補助がなくても修練を積めばぐんぐん伸びていくのだそうだ。


 後はこの魔素を操って、パラを発現させればいいだけの話である。


 俺の目の前には、タマネギのような形をしたガラスの容器が置かれていた。


 ガラスの容器の中にはビー玉くらいの黒い鉄球が入っていた。


 俺に与えられた課題は、ガラス容器に触れず、鉄球を浮かせるというものだった。


 課題は生徒によってばらばらで、容器の中の紙を燃やしたり、容器に触れずに物を取り出したり、壊したり、それぞれのパラの特性に合った修練が行われていた。


 俺は体内の魔素はしっかりと捉えることができていたけれど、そこから先が進まなかった。


 タヅサの手前、格好悪いところを見せたくなかったけれど、どう力を加えても魔素はうんともすんとも動いてくれなかった。


「結構難しいですね」


 パラの修練開始から一時間弱、俺は焦りからそんな言葉を口にした。


 タヅサに握られている左手も手汗でびっしょりだった。


「私も使えるようになるまで一年もかかりました」


 タヅサはそうフォローしてくれたが、他の作業台では、勇者の卵らが続々と最初のステップをクリアし、その精度や威力を上げる修練を始めていた。


 結局、初日は鉄球をピクリとも動かすことができずに、タヅサの魔素が尽きてしまった。


「今日はきっと調子が悪かっただけです。しっかり食べて、寝て、また明日がんばりましょう」


 存外(へこ)んでいた俺を見かねて、その日の晩餐(ばんさん)はタヅサが腕を振るって御馳走(ごちそう)を用意してくれた。

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