光華④
「さて、まずは余計なギャラリーにはご退場願うとしよう」
ディートがそういった直後、体が一瞬だけ強く光った。
(今のは何だ?)
微かだが、何らかのパラを使用したことはわかったが、何をしたかまでは把握できなかった。
次いでディートは、光線の矛先を明後日や明明後日の方向へ向けた。
一体どういうつもりだろうか。矛先の直線上には――
「――全部隊、今すぐその場から逃げろ!」
「『刀剣光』!」
俺がそう叫んだ直後、ディートの光線がドゥーベ隊、ミザール隊、アリオト隊を配備したポイントを正確に撃ち抜いた。
恐らく光の粒子を全方位に飛ばして、反射光で隠れていたダークエルフ部隊の位置を特定したのだろう。
本当にそんな真似をしたのか定かではないが、状況的にそうとしか考えられなかった。
「ドゥーベ隊、ミザール隊、アリオト隊、被害状況を報告しろ!」
俺の呼びかけに、通信装置は光を灯さなかった。
「くっくっく、かっかっか、あーっはっはっは!」
ディートは堪えようとしていたが、堪えられずに大笑いした。
「魔族を殺すのがそんなに楽しいのか?」
「これ以上の快楽はないってくらい最高だ! お前も僕をヤった時には、脳みそが破裂しそうなくらい高揚しただろ?」
「自惚れるな。道端に転がっていた石を蹴飛ばして、何の達成感が得られるというのか」
「せいぜい強がっているといい。今その仮面の下を青ざめさせてやる。『牢獄光』!」
ディートの頭上に光の球が出現したかと思うと、それは徐々に高度を上げていった。
「ハッ!」
俺は無防備なディートに『衝撃の声』をお見舞いした。
プロレスではないので、律儀に相手のパラの詠唱を待ってやる理由はなかった。
俺が狙ったのはディートが佇む右方五メートルの空間だった。
目の前に見えるディートは光の屈折で作り出した幻影だ。
音の発生源がずれていることくらい、声の魔法を得意とする俺には容易く聞き分けられた。
「なるほど。それがお前の能力か。影の魔法を使うというのは誤情報だったようだな。しかし、もうその技は食らわない」
顕わとなったディートの本体は、血反吐を吐きながらいった。
俺は立て続けにもう一度『衝撃の声』を放つが、これは光速移動で回避された。
俺の『衝撃の声』も決して連射性に優れているというわけではないので、ディートの移動先へ間髪を容れずに撃ち込むという芸当はできなかった。
声の魔法は一度息を吸い込み、そこに魔素を練り込むという行程を挟む必要があるからだ。
一方、ディートの放った『牢獄光』の光の球は、随分と高いところまで上昇したかと思うと、突然破裂した。
光の破片はまるで流星群のように、四方八方に散った。
不思議なことに、その光の残滓はいつまでも留まっており、まるで俺たちを捕まえる鳥籠のようだった。
「『牢獄光』は僕の命が尽き果てるか、捕らえた相手の命が潰えるまで決して消えることはない。外部からの干渉も受け付けない。さあ、決着を付けようか!」
ディートは勝ち誇ったようにいった。
「いいだろう。自ら退路を断ったことをすぐに後悔させてやろう」
俺はマントの下から一振りの木刀を取り出した。
「どこまでも僕を虚仮にするのだな」
「先にいっておくが、これはダークエルフ族に伝わる宝刀ミケだ。舐めてかかると痛い目を見るぞ」
宝刀ミケは龍脈の上に生えていた樹齢一万年の大樹の枝から作り出されており、魔素を非常に通しやすく、丈夫である。
「それではこちらも刃で勝負しよう。『串刺光』!」
ディートの右肘から先が伸びていき、槍の形になった。
「そのなまくらをへし折ってやる!」
ディートは俺の背面に光速移動し、心臓目掛けて槍を突き出した。
俺は右側に跳び、紙一重で突きを躱すと、マントの死角からディートの脳天に木刀を突き返した。
が、ディートの姿は既になく、俺の頭上に跳び上がっており、垂直に槍を振り下ろした。
気持ちのいいよく通る音が鳴った。
木刀と光の槍が一点で衝突し、弾き飛ばされたのはディートの方だった。
俺はディートの落下地点を目測し、駆け出した。
ディートは別に翼が生えていて自由に空を飛べるわけではなかったので、空中で体勢を崩せば落下するしかないのだ。
落下地点に入ると、俺は木刀をフルスイングした。
ディートは咄嗟に光の槍でガードしたが、関係なかった。
俺の木刀は光の槍を打ち砕き、そのままディートの胴体を打ち抜いた。
肉や骨を壊す感触が、木刀を通じて伝わってきた。
俺がどうしてここまでの化け物染みた身体能力を得ているのか、それは『循環の声』のよって体内の魔素を擬似的な暴走状態にして、肉体の性能を限界以上まで引き出していたからだ。
肉体的な負荷はずっと全力疾走している以上のものなので、正直いつ心臓が止まってもおかしくないというリスクを孕んでいた。
なので、なるべく早く片を付けなければならなかった。
その後も、俺はディートの攻撃を完全に捌きながら、木刀を打ち込み着実にディートにダメージを蓄積していった。
しかし、打ち込めば打ち込むほど、パンドラの箱を開けているような得もいえぬ恐怖感が増していった。
俺の肉体の限界が刻一刻と迫っているという時間的な余裕のなさからくるものではなく、もっと単純な理由からだ。
ディートの大腿骨は砕けているのに、なぜ立っていられるのだろうか。なぜ動き続けていられるのだろうか。
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