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魔王光臨①

 大人たちの思惑(おもわく)通り、地学級に通い始めてから一ヶ月も経過すると、俺は軍学校をサボりがちになっていた。


 もちろん、大人たちとしては俺がパラを諦める展開を待っているので、何のお(とが)めもなかった。


「行ってきます」


「行ってらっしゃいませ。お帰りは何時頃になるでしょうか」


「いつもと同じくらいになると思います」


「わかりました。今晩はフトハネニワトリのシチューになると思います」


 玄関でタヅサとまるで新婚夫婦のようなやり取りをして、家を出た。


 この世界には犬、猫、馬といったお馴染(なじ)みの動物も居るが、見たことも聞いたこともない動物はさらに沢山生息していた。


 翼の生えた毒蛇なんかも存在するらしいので、機会があれば是非観察してみたかった。


 家を出ると、右折を繰り返し、軍学校とは真逆の方向へ歩き出した。


 今日は図書館で時間を潰すことにした。


 俺は未だに、軍学校をサボっていることをタヅサに打ち明けられないでいた。


 俺のパラが発現することを信じて、日々献身的(けんしんてき)に尽くしてくれているタヅサに後ろめたさがあったからだ。


 いっそのこと、今抱えている不安や不満も全てタヅサに告白するという手も、何度も頭を過ぎった。


 きっとタヅサなら全てを受け入れて、甘えさせてくれるだろう。


 けれども、それは卑怯だ。


 俺は楽になるかも知れないが、その分の苦しみはタヅサが背負うことになるからだ。


 それだけはできなかった。


 どう足掻(あが)いても、俺にパラが発現しないことには、前に進まない問題だった。


 そんなある日、王城へ呼び出しがかかった。


 タヅサも一緒にというのが少々気掛かりだったが、無視するわけにもいかなかった。


 城門扉(もんぴ)前で待っていると、フルプレートの近衛(このえ)がやって来た。案内役である。


 この暑さの中、その重装備だと、中の人はさぞ大変なことになっているだろう。


 この気候だと甲冑(かっちゅう)の方がいいのではないかと思うが、俺が口出しすることでもないので黙っていよう。


 古びた王城とミスマッチな(みやび)な中庭を抜けて、久し振りに謁見(えっけん)の間へ立ち入った。


 ハインケイルは玉座に腰掛けていた。


 前回拝謁(はいえつ)した時よりもその姿が大きく見えるのは、俺の気持ちが弱気になっているせいだろうか。


其方(そなた)を召喚して二ヶ月経つが、こちらでの生活には慣れたかな」


 ハインケイルは抑揚(よくよう)のない声でいった。


「徐々にですけど慣れてきました」


「それは良きことだ。本日、其方を呼び付けたのは、今後について話しておきたかったからだ」


「俺の今後……、ですか?」


「身勝手な話だが、いつまでも芽の出ない其方を特別扱いするわけにはいかないのだ」


「当然、ですね」


「ふむ、物分かりが良くて助かる。いや、こういう日が来ることを覚悟していたか」


 俺は今でもパラを諦めていなかった。


 とはいえ、ここでは従順(じゅうじゅん)な振りをしなければいけないと判断したまでだ。


「話というのは、俺を軍学校から除名、タヅサさんもメイドの任務から解放されるといったところでしょうか」


「まあ、そう急くでない。時に其方、本を読むのは好きか?」


「……読書は好きです」


 この問いにどのような意味があるのかと考えながら、ゆっくりと返した。


「そう身構えんでも、悪い話をしようというわけではない。其方が足繁(あししげ)く町の図書館へ通い、勉学に励んでいることは聞き及んでおる。毎日辞書のように分厚い書物を読み、自身の筆記帳(ひっきちょう)に書き記していたこともな。非常に研究熱心ではないか」


 ハインケイルは熱の籠もった声で褒めた。


「そんなことは……」


 褒められて悪い気はしないが、どうしても裏があるのではないかと勘ぐってしまう。


 勇者の卵の行動が監視されているのは想定の範囲内だったので、これに関しては驚きも気持ち悪さもなかった。


「そこで一つ提案だが、王城の書物庫で司書(ししょ)をやってみる気はないかね。タヅサには引き続き其方の従者(じゅうしゃ)として働いてもらう」


「司書……?」


「主な仕事は書物の整理となる。詳しいことは司書長に会えばわかるはずだ。町の図書館ではお目にかかれないような、パラに関する文献などもあるだろう。それを自由に読むことができるのは、伯爵相当の地位ある者か司書くらいのものだな」


「今すぐにでもその書物庫に行きたいです」


 俺は身を乗り出すようにいった。


「おお、ということは?」


「はい、(つつし)んで(うけたまわ)ります」


「うむ、いい返事だ。それでは早速、明日から働いてもらうとするか。其方、今は確か修練施設近くに住んでおるんだったか?」


「はい」


「そこから通うのは何かと不便であろう。書物庫近くに空室があったので、使うといい」


「助かります。えっと、荷運びにリザードマン車をお借りしてもいいですか」


 リーンホープには全裸で召喚されたので、自分の物など何一つなかったはずだが、二ヶ月も生活していればそれなりに荷物も増えていた。


「好きなのを持っていくといい」


 話も一段落着いたところで、謁見の間にプレートの金属音が立ち入ってきた。

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