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俺、部活やめたいんだ  作者: MIRU
1/2

無し

俺、部活やめたいんだ。

MIRU


初めて俺がバスケをやったのは、まだ幼稚園の頃だった。俺の故郷は外国で、幼いときは、忙しい今とは違って、いくらでも夏休みを謳歌できたから、帰郷するときは大体一か月くらいした。しかし、いくら海外旅行といっても、一か月もいたらさすがに飽きるだろう。もっといえば、過去にも何回も帰郷しているわけである。そのため、幼少期の俺がその暇な期間させられたのが、バスケである。

親に無理やり連れられたその習い事は、約一週間の短期間コースだった。やったこと自体は、「さあ、ボールに触れてみよう」くらいだったが、中のいい友達もできた。最後は日本語で「ありがとう」と言われたのを、今でも覚えている。それから日本に帰って、中学生になって、初めての部活が、「男子バスケットボール部」だった。4つ上の兄もバスケ部だったし、私は当時バスケ好きを気取ってかっこつけていたので、その部に入部した。

しかし、そこでの部活生活は、最悪だった。

「お前、ちんこ臭いぞ!」

「わっ、ほんとだこいつ臭え!」

ミニバス出身で、周りよりバスケがはるかに上手な奴らが言った。

 「うっ、うう...。」

 言われている子は、うつむいたまま、泣き出してしまった。彼はバッシュを履こうと廊下に座っていただけだった。俺は、何がそんなにおかしいのか本当に分からなくて、彼らが許せなくて、

 「おいお前らそれはダメだろ。」

 彼らが怖くて、思ったより弱い口調になってしまった。実力のあるやつには、逆らえないのが運動部だと、俺は感じていた。

 だが、一応はしっかりと抗議の言葉である。彼らもなんらかの意地悪を言い出すだろうと、俺は覚悟していた。

 「いや、だってこいつほんとに臭いんだよ。なぁ!」

 「あっはは、臭い臭いあははははは」

 二人の顔は、無邪気な子供のそれだった。

 その一件以降も、そいつらの仲間になろうとしたほかの奴らのせいで、部活の雰囲気は、とても居心地の悪いものになった。

 それでも俺は、部活を続けた。運動部に入っていないと、かっこ悪いと、思っていたからである。

 そして、高校一年生になってもその気持ちは変わらず、さらに中高一貫校に高校から入ったために、部活に入らないと学校になじめないんじゃないんか、という不安も、バスケ部に入ろうか迷っていた俺の背中を後押しした。

 結果、俺はバスケ部に入った。そして気づ

けば、一年経っていた。いつかやめようと思っていたのに、勇気がなくて、気付けば一年経っていた。そして分かったことがいくつかある。

 ・みんなめちゃくちゃうまい。三年間中途半端に部活をやっていた俺はともかく、もう一人の編入生よりもうまい

 ・新しくバスケ部に入った編入生は、俺を含めてたったの二人である。

 そして最後に、

 「俺はバスケが好きじゃない」

 本当にやりたいことは、他にあるんだ。バスケじゃない。そもそもみんなうますぎる。その秘密は、俺がさぼってきたからじゃない。そこには決定的に差がある。それは、バスケに対する気持ちだ。あと一歩のところに、その気持ちの差は現れ、それが日に日に積み重なっていき、こんなにも圧倒的な差になってしまうのだ。ほんとは本書きたいし、勉強ももっとしっかりして、将来への基盤も作りたい。休みの大半まで献上して、俺は部活をやりたくない。感情に任せていけば、こんな部活すぐに辞めてやる。

 でも、部活をやめてみれば、どうなるだろう。部活の友達とのこれからの付き合い方。やめないでくれと言う、もう一人の編入生。心細いに決まっている。その気持ちはわかる。

 それに、運動部をやめると、自分の中の、人間として、何か大切な何かが消えてしまうんじゃないか、という不安。根拠は謎だが実際にスポーツのできる人は人柄がいいというのは、もはや常識だ。今までそういう体験をしてきたからよく分かる。

 はぁ、俺、どうすればいいんだろう。



 今日は、高校一年生としての最後の日、終業式の日だ。

 「げぇ、春休みの宿題、結構あんな。」

 俺は、そう言いながら、実はやる気がみなぎっていた。今まで取れていなかったテストの点数を、これからはしっかり取ろうと、そう思っていたからだ。数学は、やればやるほど上達する。ミスしたら何度も解きなおして、できるようにすればいい。俺はそのコツコツとした作業が好きだ。

 「げぇ、英単語テストもあるぜ。」

 後ろの、俺の友達が話しかけてきた。結構中の良い友達だ。

 「これから俺、英検受けるし、ガチる。」

 そのまま帰りのHRが済むと、俺は部活に向かった。

 部室に入ると、みんな今日帰ってきた定期テストの点数で盛り上がっていた。どうやらまだもう一人の編入生、「K」は来ていないみたいだ。

 「んん?お前、この前俺に化学で勝つって言ってませんでしたっけ?」

 「や、違う。これは違う!」

 二人の高1のバスケ部員がそこで話していた。二人は、どうやらテストの点数を競っていたらしい。するとそこに、他の高1部員も群がり始めた。総勢8人だ。みんなが色々話していた。しかし、俺の耳には入らない。音ととしてしか認識できないほど、たくさんの言葉が混ざり合っていて、ごちゃごちゃだった。しかし、そこで会話は成立している。そして、俺は輪の中には入れない。入ってもどうせ、変な質問をしてしまって終わりだ。俺に話は振られないし、だからと言って何か切り出しても、相手の耳には何かフィルターがかけられているのか、俺の言葉は届かない。声が小さいわけでも、活舌が悪いわけでもない。たくさん挑戦してみた。それでも無理だった。理由は何だろう。いや、わかる。本当は、わかる。わかっていても、できないんだ。

 俺としっかり話してくれるけど、でもみんな、他の奴らと話してる時の顔のほうが輝いてるんだ。それが、俺をこんな気持ちにしてる理由。この気持ちが、俺をみんなから遠ざけている原因。

 当り前だ。ここは、みんな一つの共通した情熱をもって集まっている場所なんだ。俺も、もしかしたら別の場所で出会っていたら、もっと仲良くなれただろうと思う。

 俺は着替えやらの準備を済ませて、体育館に入った。すぐに練習が始まる。最近は基礎練習ばっかりだ。

 「よしやるか。」

 俺は、周りの数人に聞こえるように、しかし本当は自分に活を入れているのだというように、そう言った。

 足が重い。時間の進みが遅い。一体こうして今やっている技術に、なんの意味があるんだろう。監督は、「常に考えていればもっとうまくやれる」という。でも、俺には勝ちたい気持ちがないんだよ。俺の目標は常に、いかに楽にこの練習を終わらせるか、なんだぜ。

 そう思いながら、俺は一年を区切りに部活をやめることを本格的に考え始めた


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