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5月

 最初の成果は体重に現れた。

 運動を始めて1ヶ月程が経ったが、82キロもあった体重が78キロにまで落ちたのだ。

 まあ、それが五十歩百歩なのは俺だってわかっている。

 だが、その五十歩分の差は、俺にとってはアームストロング機長が月面に降り立った際の一歩に匹敵するものだった。

 何よりこれで俺は自信が持てた。

 努力の成果は、少しずつだが、確実に現れると。

 あとは愚直に、ひたすら突き進むだけだ。




 そして迎えた高校に入学して最初の中間テスト。

 ここでも俺は自分の成績に眼を見張ることとなる。

 俺の学年順位は、152人中、43位だったのだ。

 これは素直に誇っていい順位だろう。

 もちろん生涯で最高の順位だ。

 うちの学校は学年順位が全生徒分張り出されるのだが、その張り紙に書かれた『43』という数字を、俺は一生忘れないだろう。

 これも塾に通い、わからない箇所は恥を忍んで徹底的に講師の先生に聞きまくった成果だ。

 毎日家で予習と復習も欠かさなかったし、勉強のコツみたいなものも、少しだけわかってきた。

 何より勉強するという行為自体を習慣づけることが肝要なのだと思った。

 頭も筋肉と一緒で、毎日使っていなければ衰える。

 気付いてしまえば至極当然なことだが、頭を良くするためには、毎日コツコツ勉強するしかないのだ。


 因みに雪野坂さんの順位はというと、何と学年で3位であった。

 圧巻である。

 しかも噂によると、塾などには通わず、完全に独学でこの順位らしい。

 世の中には天才というのもいるもんだ。

 だが俺は、その天才よりも上の順位を取らねばならない。

 やはり43位くらいで満足していてはダメだ。

 俺は兜の緒を締めた。




 それは不意に訪れた。

 ある日の昼休み、雪野坂さんが机の上に置いていたスマホを、うっかり肘で突いて床に落としてしまったのだ。

 しかも雪野坂さんは友達とのお喋りに夢中で、それに気付いていない。

 俺は一瞬だけ逡巡したが、意を決してスマホを拾い上げて、雪野坂さんに話し掛けた。


「あ、あの……、スマホ……落としたよ」

「え? あっ! ありがとー進藤君」

「ど、どういたしまして……」


 ふおおお。

 雪野坂さんにありがとーって言われた。

 今日はありがとー記念日だ。

 来年からこの日は祝日にして、周りの人に感謝の意を伝える日にしよう!

 そう浮かれていたのも束の間、ふと目に入った雪野坂さんのスマホの待ち受け画像に、俺は釘付けになった。

 それは可愛い三毛猫の画像だったのだ。


「あ、もしかして進藤君も猫好きなの?」

「え?」


 雪野坂さんが目を爛々とさせながら、俺に聞いてきた。

 ぬあっ!?

 そ、そんな不意打ちで質問がくるとは!?

 ここで返答を間違えれば、その時点で俺の初恋は終了してしまうかもしれない。

 本当はどちらかというと猫よりも犬派だが、ここは――。


「う、うん、好き。猫って可愛いよね」

「だよねッ! だよねッ! この子はね、うちで飼ってる猫で、ミケっていうんだけど、普段はツンとしてるのに、たまにスリスリ甘えてくることがあって、それが超ーーーカワイイのッ!!」

「そ、そうなんだ……」


 俺はハイテンションで捲し立ててる雪野坂さんがカワイイよ!

 雪野坂さんて、普段はおしとやかなお嬢様って感じだけど、意外とこういう面もあるんだな。

 より一層雪野坂さんのことが好きになったよ。

 「美遥ってホント猫好きだよね」と友達にからかわれ、それに対して「えー、可愛いじゃーん。ニャーニャー」と、猫の真似をしている雪野坂さんが目に入ってしまい、俺はバックンバックンと弾む心臓を抑えるのに必死だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり努力の男…… これは精神的イケメンです。 自分にもこの精神力があれば……
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