エピローグ
……おかしい。
俺はどこで選択を間違えたのだろうか?
自分では100点満点の行動をしたつもりだったのだが、あのホワイトデーの日以降、雪野坂さんの俺に対する態度が若干冷たいものになってしまった気がする。
むしろちょっと怒ってる?
俺、何か怒られるようなことしたかな?
……まったく何も思いつかない。
そうこうしている内に終業式が来てしまい、瞬く間に春休みが過ぎていった。
そして今日から俺は高校二年生になる。
俺は高校受験の合格発表でも見にいくみたいな心持ちで、校門をくぐり桜の木の隣に建っている掲示板まで一人で歩いていた。
そこに二年生のクラス割りが張り出されているからだ。
こうなったら何としても、もう一度雪野坂さんと同じクラスになって、ゆっくりと仲を修復せねば。
うちの学年のクラス数は四組。
単純に俺と雪野坂さんが同じクラスになる確率は四分の一。
俺は高校に入学してからこの一年間、出来得る限りの人事は尽くしてきたつもりだ。
神様が本当にいるのなら、きっとこの四分の一の確率くらいは当てさせてくれるはず――。
お願いします、神様。
どうか俺を、雪野坂さんと同じクラスにしてください。
「フー」
大きく深呼吸を一つしてから、俺は先ず一組のクラス割りから確認していった。
すると早々に、俺の名前をそこで発見した。
俺は一組か……。
後は雪野坂さんも一組なのかどうか。
名前はあいうえお順に書かれているから、雪野坂さんの名前はあるとしたら最後の方だ。
俺は逸る心臓を右手で押さえながら、名前を確認していった。
――松本。
――宮川。
――村田。
――山下。
……。
――渡辺。
雪野坂さんの名前はそこにはなかった。
「……私達違うクラスになっちゃったね、進藤君」
「……雪野坂さん」
俺の後ろに雪野坂さんが立っていた。
「私は四組だったの。進藤君は一組でしょ?」
「……うん」
いつも溌剌とした表情を浮かべている雪野坂さんだが、今日だけは表情が読めない。
敢えて言うならその瞳に、強い覚悟のようなものが宿っているように、俺には見えた。
「進藤君」
「ん?」
「……これ」
「――え」
雪野坂さんはパステルカラーの小さくて可愛らしい封筒を差し出してきた。
「……これは」
俺はその封筒を受け取り、ジッと見つめた。
「あ! は、恥ずかしいから今は読まないでね!」
「え?」
雪野坂さんは耳まで真っ赤になっている。
「返事はいつでもいいから! じゃ、私はいくね!」
「雪野坂さん!?」
「またねー、進藤くーん!」
「雪野坂さん! 雪野坂さーーーん!!!」
雪野坂さんは光の速さで走り去ってしまった。
「……雪野坂さん」
俺は手に握った封筒をまじまじと眺めて、ひっくり返してもみた。
すると、そこには『進藤君へ』という手書きの文字と共に、雪野坂さんが描いたと思われる猫のイラストが添えられていた。
「……バカだな、俺は」
その時ふと、春の風が吹き、俺の頭上を桜吹雪が舞った。
完