018(車椅子)
ニコルと二十歳のお嬢様はベガスシティの外れのカジノホテル、ハンニバルに向かう。今回はR32スカイラインGTRの出番はない。福富家の専属ドライバーがセンチュリーで乗せていく。
ハンニバルはインバウンド向けで、ジャポニズム情緒溢れる雰囲気のカジノホテルだ。壁一面には竹や薄に富士山の絵が、銭湯絵師によって描き上げられてる。客は静かに賭け事をしてた。花札、丁半だ。パチンコのような下品さはない。
ニコルとミヤビお嬢様はエレベーターで、ゼータが寝泊まりしているであろう、スイートへ行く。事前にニコルはスイートで長期滞在予約をしている部屋を調べておいた。スイートルーム、鶴の間だ。ゼータは1年間もスイートに泊まり続けている。
ニコルとミヤビお嬢様は鶴の間の前に立つ。ゼータとはどんな人物か? 男か女か? 若者か年寄りか? ニコルはドアをノックする。
「福富家のご令嬢、福富ミヤビ様です。開けてください」
ガチャッとドアを開けて出てきたのは、20代半ばの女性だった。
「あなたが、ゼータね? 鬼ごっこは私達の勝ちね」
「私はただの部下で、ショウと言います。ゼータ様は奥にいます。お入りください」
ニコルとミヤビお嬢様はリビングへ行くと、車椅子に座った若い男が居た。ゼータだ。
「あなたが、ゼータね? 手を組みましょう」
「福富ミヤビ……。俺の姿に驚かないのか…………」
「ただの下半身不随でしょ。細かい事は関係ないわ」
ゼータはミヤビお嬢様の一言に圧倒された。そして、吐露する。
「俺は、バイク事故で脊髄を損傷した。iPS細胞から神経組織を作り出す再生医療に2億円も必要だ。また歩けるようになりたい。だから稼ぐ。邪魔はしないでくれ」
「福富家がスポンサーになって治してあげる。世界大会で私達と組むのが条件よ」
ゼータは更に圧倒された。これが本物のセレブかと。
「ゼータさん、福富家は貴方を悪いようにはしません。ミヤビお嬢様にご協力ください」
「お嬢様のランクは?」
「私はAよ」
「話にならない」
「待ちなさい。私専属の従者、ニコルは超S級よ」
「ほう。まあまあか。協力するなら、手術をしてくれるんだな?」
「福富ミヤビ。嘘は吐かないわ」
「分かった。世界大会とやらに参加しよう。アンタらと組んで」
「契約成立ね」