017(ゼータ)
“ゼータ”という人物はベガスシティに住んでいるとだけしか判らない、詳細は知られてない凄腕プレーヤーだ。噂では100万キル100ダイと驚異的な戦績らしい。ニコルの戦績は20万キル7000ダイ。ミヤビお嬢様の戦績は10万キル1万9000ダイ。勝率が8割を超えればランクAとなり、9割を超えればランクSとなる。
ニコルは大阪エリアから東京エリアに新幹線移動する。新幹線と言っても、ただアップデートするだけだ。数秒で終わる。
ミヤビお嬢様はゼータの後を着ける。ゼータは黒いコートを着たアバターだ。東京エリアはスポーツ選手や芸能人等が集まる、セレブの電脳世界の社交場となっている。賭け金の少ないプレーヤーはキックされてしまう。
ミヤビお嬢様はゼータの後を更に追う。ゼータは立ち止まる。ここは、築地市場を再現した所。高級食品のネット注文が可能だ。
ミヤビお嬢様は意を決してゼータに話しかける。アバターの頭上のハンドルネームには“ゼータ”と書かれていたからだ。
「あなた、ゼータね? 私は福富家の令嬢、福富ミヤビ。折り入って話があるわ」
「福富ミヤビ…………アンタの親は良い物を作ってくれたな。一応、礼は言っておく。話とはなんだ?」
「このウォーガンズで近々世界大会が開かれるわ。チーム戦みたい。私と手を組まない?」
「ほう。1つ条件がある」
「何?」
「リアルで自分を見付けてみろ」
「面白そう。鬼ごっこね?」
ホアンと、ゼータはログアウトした。
少し遅れてニコルとミヤビお嬢様は合流する。ミヤビお嬢様はニコルに状況を説明する。
「それでは、ゼータの足取りをトラッキングしましょう」
「パパにお願いして、サーバー管理会社に圧力をかけてもらうわ。ログアウトよ、ニコル」
「御意」
ミヤビお嬢様はヘッドマウントディスプレイを外し、現実世界に戻ってくる。天蓋が付いたメルヘンな部屋だ。ミヤビお嬢様はウォーガンズにログインする時は座らず、ベッドで横になってやる。
ミヤビお嬢様は早速、電話で父親のトキオに事情を説明する。トキオは少し待てと言って、サーバー管理会社に調べさせる。
「パパ、まだ〜?」
「ミヤビ、お待たせ。ゼータはカンサイ伯父様が経営するカジノホテルの系列店、ハンニバルのスイートに泊まっている……というか住んでる」