第1章、001(人工砂漠の街)
彼の名は、ニコル。福富家の娘、ミヤビお嬢様に仕える従者だ。身長188センチメートルで9等身のモデル体型。お嬢様を守るために武術、自動車運転技術などを習得している。完璧な執事であるが、お転婆なお嬢様に手を焼いていた。
福富家が暮らす街は少し変わっている。ラスベガス視察で浮かれた政治家が、日本にも砂漠の街を作ろうと考えてできた、人工砂漠地帯だ。一見不便に感じるかもしれないが、意外と市民からの評判は良かった。乾いた砂は湿気を吸収して街の湿度が一定に保たれているのと、砂ぼこりも出さない。
今日も黒子が人工のタンブルウィードを送風機で転がす。
福富家は大忙しだ。明日は、ミヤビお嬢様の誕生日。ミヤビは携帯電話で、ニコルに10代最後のお願いをする。
「ニコル、10代最後は貴方の車で出掛けたいの」
「御意。今日は街にお金持ちが、集まっているようですね」
「福富家より?」
「それは判りません」
「中途半端な小金持ちなんて蹴散らしてやるわ。ニコル、ガレージで待ってなさい」
「御意」
ニコルは、福富家の広大な敷地の中央にある、ガレージからR32スカイラインGTRを出す。ニコルのマイカーだ。約半世紀落ちの骨董品だが、無事故、禁煙車、走行距離5万キロメートル程度なら2000〜2500万円はする、超プレミア物だ。
お嬢様がガレージにやって来た。パステルブルーで花柄のワンピース姿。ニコルは助手席のドアを開けて、お嬢様をエスコートする。
ニコルは運転席に座り、シートベルトをする。
「出しますよ、お嬢様」
「準備OK」
ニコルはR32スカイラインGTRのエンジンをかけて、ユックリ走り出す。門をくぐり、福富家の敷地から道路に出る。
「お嬢様、行き先はどちらですか?」
「勿論、小金持ちが集まってる所よ。その後に大伯父様の邸宅へ寄ってちょうだい」
「御意。お金持ちは西部劇エリアに居るとの情報です」
この砂漠地帯の街は、通称ベガスシティ。浮かれた政治家のステレオタイプな感性で、様々な施設が建造された。
砂漠の古びたガソリンスタンド風の建物に賭け事を楽しみ、蝕まれる人々が集まってくる。
ニコルとお嬢様はガソリンスタンド風の建物に着く。ニコルは助手席のドアを開けて、エスコートする。
「ここね。面白そう」