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黒炎と白布の異界渡り  作者: みやこけい
第七章:銀色の姉弟
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未知なる旅路へ

 リシュリオルがグレスデイン達の部屋の扉をノックすると、待ってましたと言わんばかりの勢いで扉が開き、溢れんばかりの笑みを浮かべたアトリラーシャが部屋の中へとリシュリオルを迎え入れてくれた。


「リシュ! なんだか遅かったね」

「ちょっと面倒事に巻き込まれて……」

「まあいいや、入って!」


 部屋の中では、グレスデイン達が荷造りをしていた。こちらの姿に気付いたのか、グレスデインが話し掛けてくる。


「リシュ、君はもう出発の準備はできているのか? 久し振りの旅になるんだろう?」

「大丈夫です。いつでも、旅に出られるようにある程度、荷物をまとめてあったので」リシュリオルは大きめのショルダーバッグをグレスデインに見せつけた。


「そうか……。昨日、アトリ自身が鍵だと言っていたが、扉の位置は西方の建築群の方で合っているか?」

「はい、それは昨日も確認しておきました。多分、同じ扉になると思います」


「分かった。私達の準備ももうすぐ終わる。あと少しだけ待っていてくれ」

「分かりました」


 グレスデインとのやり取りはラフーリオンやイルシュエッタと違って、かなり事務的で、悪く言えば味気の無い会話が多かった。リシュリオルにとって彼の様なタイプの人間と行動を共にするのは初めての事で少しだけ新鮮さを感じた。


「リシュ、見て見て!」アトリラーシャが元気よく話し掛けてくる。リシュリオルが振り返ると、彼女の手には数本の小さなナイフが握られていた。


 アトリラーシャはそのナイフを一本ずつ順番に宙に投げ始める。宙に放たれたナイフは床に向かって自由落下を始める。

 しかし、ナイフ達は床に落ちる直前、床から反発するかのように急上昇し、アトリラーシャの周囲を高速で回り始めた。

 次第にナイフ達は隊列を組み、彼女の身体を舞台にして踊り始める。そして、演目の最後には、彼女の腕を中心にして渦を巻くような動きをした後、最初にナイフを握っていた手元へと戻っていった。

 

 リシュリオルは流れるような刃の動きに見惚れた。ナイフが手元に戻った時には、思わず感嘆の声を上げ、両手をパチパチと叩いていた。


「これが『私達』の異界渡りの力。すごいでしょ!」

「『私達』?」 

「そう。伯父さんもカルも、私と同じ刃を操る力を持ってるんだ」

「やっぱり一緒にいる時間が長いと、似たような力を使えるようになるんだな。私の力もずっと旅を続けていた人と同じ物なんだ」


 リシュリオルの話を聞いて、アトリラーシャがニヤニヤと笑みを浮かべる。

「気になるなぁ」

「何が?」

「リシュとその『ずっと旅をしていた人』との関係が。その人って、昨日話してた人のことだよね。もしかして、……恋人だったり?」

「はぁ? そんな訳あるか。あいつとはその、なんだ……」


 ラフーリオンとの関係。改めて考えるとよく分からない。異界の先生? 兄や父親の代わり? 分からない……。だが、少なくとも恋人ではない。


「複雑な関係……かな?」

 一生懸命に考えて、捻り出した答えがそれだった。訳の分からない答えを口にしてしまったことに自分でも困惑した。


「複雑な関係? なんだか凄そうだね。詳しく聞きたい」

 銀色の瞳をキラキラと輝かせながらアトリラーシャが迫ってくる。やはり、何か勘違いさせてしまった。面倒なことになった。


「姉さん、荷物の準備はしなくていいのか!」二人のやり取りを傍目で見ていたカルウィルフがアトリラーシャに怒鳴った。


「はーい、今すぐやりまぁす」やる気の無い声を上げながら、アトリラーシャはリシュリオルから離れていく。


(助かった。ありがとう、銀色弟)リシュリオルはアトリラーシャの追撃を逃れることができたので、心の中でカルウィルフに感謝した。


 しばらくして、皆の準備が整う。遂にこの世界から離れるのだ。リシュリオルは部屋の鍵を返す為に受付に向かう。受付には宿泊客の対応に務めるアルフェルネがいた。


 リシュリオルは客の姿が消えた所を見計らい、部屋の鍵を受付のテーブルの上に置いた。リシュリオルの姿に気付いたアルフェルネが微笑む。


「もう行くのね」

「うん」

「元気でね」

「そっちも」


 リシュリオルとアルフェルネは軽く抱き合い、最後の別れの挨拶を交わした。アトリラーシャ達はそんな二人を見守りながら、ホテルの外へ向かった。


「行ってきます。……またいつか!」

 

 リシュリオルは先にホテルの外に出ていたアトリラーシャ達の元へ向かった。


 ホテルを出ると、アトリラーシャが異界の扉の方角を指差し、声を張り上げて叫んだ。

「さあ、行きましょう! 『東』へ!」

「『西』だ」


 グレスデインはアトリラーシャの頭の中の東と西を修正し、さっさと彼女の横を通り過ぎていった。カルウィルフは姉の方を見向きもせずに、無言で伯父に付いていく。


 棒立ちしていたアトリラーシャがリシュリオルに向かって歩いてくる。そして、アトリラーシャはリシュリオルの身体を揺らしながら、泣き言を言う。

「伯父さんもカルも酷いよね? 冷たいよね?」


 リシュリオルは昨日、カルウィルフが言っていたことを思い出しながら、苦笑を浮かべた。彼はアトリラーシャのせいで何度も酷い目にあっていると言った。


 なんだか先が思いやられそうだ。


「何してる、早く来いアトリ、リシュ」なかなか動き出さない二人を見かねて、先を行っていたグレスデインが振り返り、声を掛けてきた。


「はーい」アトリラーシャはグレスデインに向かって、大きく手を振り返した後、リシュリオルの手を握った。


「行こう、リシュ」

「ああ」


 こうして、新しい仲間との新たな旅が始まった。彼女達に待っているのは素晴らしき旅か、それとも苦難の旅か。まだ誰も知る者などいない。



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