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7話:ジム再び

ここからが新しい話です。

 「何を……」


 突然の出来事で思考が止まる、どうしてジムが私に……


 少し考えるとあの事が目に浮かんだ。


 そうか、わかってしまったのか……


 「ジム、いきなりハグなんて変わった挨拶ね……」

 「アンナ……僕は君に酷いことを……」


 はっ!それは本当今更ね……


 「今更もういいわ、それで何の用かしら?」

 「メリダのお腹は……」


 生まれてくるはずのない子供を楽しみにしていたジムの落胆……そして彼はそんなメリダに幻滅したのだろう。


 「そうですか……」

 「虚妄の宝って前に言ってたけどやっとわかったよ……」

 「そう……」


 このことを言わなかったのはジムへの罰……私のささかやな復讐はこれにて果たされた。


 「僕はメリダにずっと……彼女は嘘をついていたんだ!」

 「それは違うわ!メリダはお腹に子供がいると思っていた」

 「でもいなかったんだ!メリダはあれだけ僕に期待させといて……」


 裏切り……それは違う。


 メリダはジムを愛してた……私からジムを奪う為に一度誘い行為をさせた。結果誕生しなかったものの、それが実ると彼女は信じたからこそお腹が膨らんだんだ。


 「ジム気持ちは分かるけど落ち着いて……彼女はあなたを心の底から愛していた。それは間違いない!だから……」

 「それはわかってる!でももう母はそんなメリダに失望して……」


 ミラおばさんか……あの人は私との婚約を楽しみにしてくれていたからな……代わりに嫁になった女の子供が生まれなかったんじゃ当然だ。


 「問題はあなたの気持ちでしょ!?今こそメリダの傍にいて力になるべきじゃないの!?」

 「それは……」

 「私に慰めてもらう前にまずメリダを慰めることね……」


 ジムがどういう意図をもって私に抱き着いたのかわからないけど場合によって私はジムを許さない。


 「ま、待つんだ」

 「私は今忙しいの。Sランク冒険者として王都に向かわなくてはいけない」

 「その話は聞いているよ。素直におめでとう……でもその授与式にはまだ時間があるはずだ」


 そりゃ買い物してカリムやアニマへお土産を買う予定だからね。向こう着いたら質のいい宿に無料で泊まれるし。


 「少し早めに行く予定なの。授与式が終わったらお見舞いに行くわ」

 「虚妄の宝……君は知っていたんだよね?」

 「だから?」


 少し冷たく言い放った。


 これはジムが私にしたことに対しての罰。これをもって今までのことを清算できるのだ。


 「教えてくれれば僕は……」

 「それは私を捨てたあなたへの罰……あなたが私にしたこと忘れてないでしょう?」

 「あの時はもう気にしてないって……」

 「ええ、その罰を与えたからね。そんな話より早くメリダの元に……」


 このジムとのやり取りは私にとって不毛でしかなく、ただイライラが募るだけだった。


 「君も来るべきだ……」

 「はい!?」

 「僕に罰を与えるのは構わないさ、だがメリダをここまで追い込むのはどうかと思う。その責任ぐらい取るべきだ!」


 それを聞いた私は怒りを通り越して呆れてしまった。


 責任?


 あなたが生涯のパートナーとして、メリダを守る姿勢さえ見せればそこまで追い込まれることはなかった。私を捨ててまで選んだパートナーをないがしろにしようとする、あなたにそんなこと言う資格などない。


「わかったわ……ならメリダの元に連れて行きなさい」


 正直もう関わるのすらウンザリだ。ただメリダが自殺なんかして私に婚約の申し出がまた来ては非常に面倒なことになる。カリムとのこの先を考えれば、大事になる前に解決するべきだろう。


 「ありがとう、この馬車を使っても?」

 「構わないわ、ただ時間をあまり取る気はないから」

 「ああ」



 ◇



 馬車で向かうこと小一時間、ジムのお屋敷へと辿り着いた。

 先にミラおばさんに挨拶をしてくるということで一度ジムと別れた。


 「あらアンナじゃない~」

 「お久しぶりですミラおばさん」

 「久しぶり、その節は本当に……」

 「フフッ、もう気にしてませんよ~ミラおばさんは何も悪くないわ」


 前に婚約破棄のことでミラおばさんが私の元に来て泣いて謝ってくれた時は私も涙を隠せなかった。

 この人とは波長が合うのか第二の母親のように慕っていた。


 「話は聞いているわ。冒険者になったと聞いた時は心配したけど、凄い活躍を聞いて自分のことのように喜んだのよ~」

 「ありがとう~私もそうやって言ってくれると嬉しいわ」

 「体には気を付けるんだよ。ところで今日は王都に行く前に私に色々話を聞かせにきてくれたのかい?」

 「それは授与式終わってからお土産込みでの予定だったんだけど……」


 ミラおばさんは首を傾げる。


 「メリダの見舞いに来たの、だからいいかしら?」


 するとミラおばさんは忌々しそうな表情を見せる。


 「あの子には本当にガッカリよ……あの時私が息子を管理できなかったのが今でも悔いが残る」


 メリダはおっとりしているのであまりミラおばさんとは合わないのだろう。私も母のメローム同様、というか前世から活発的なので波長が合うのだ。


 「落ち着いてミラおばさん、メリダは悪くないの……彼女は頑張ってたと思う」


 ここは何としてでもミラおばさんにメリダを認めさせる必要がある。


 出来るだけよいしょだ。


 「それはわかってるわ……でも子供がいないならもっと早く言って欲しかった……」

 「おそらくそれは……おばさんには悪いけどジムにも問題があったんだと思うの」

 「フフッ、遠慮はいらないわアンナ。それは私も感じ取ってること……そもそも婚約者いるのに子供をつくるような行為をする馬鹿息子だもの」

 「そうね、取り合えずメリダの様子見て来るわ。立ち直って今度はしっかり子供をつくらないとだから!」


 ミラおばさんとの話を済ませ、メリダのいる部屋へと向かった。

 メリダの部屋は本来私に与えられるはずだった部屋だ。皮肉にも長年ここに通っただけに中の構造は全て理解していた。


 「入るわよ」


 ドアをノックし叩くとベッドで寝転んでいるメリダとジムがいた。


 「来たかい」

 「ええ、ジム少し外してくれないかしら?」

 「わかった」


 ジムを部屋から外し二人になるとメリダはこちらを見て訝しげな表情だ。


 「サウンドアウト!」


 これは部屋の外で盗み聞きをされない為の魔法で膜の中での会話が外に漏れないようにすることができる。


 「電磁バリア!」


 これは盗聴魔具やテレパシーを完全に遮断する魔法だ。


 「久しぶりねアンナ」

 「な、何しに来たの?ジムは私の……」


 怯えた顔でそんな敵意むき出しにされても困るわね……というかそんな顔される筋合いもないんだけどね。ケアする相手にこんな敵意むき出しにされると損な役回りだ……


 「あなたに会いに来たのよ」

 「来ないで!」


 近づくとメリダは拒否反応を見せる。


 「落ち着きなさいメリダ」

 「い、いや……来ないで……」

 「落ち着いて」

 「だ、誰かぁぁぁ!」


 こうなるのが嫌で魔法をかけといたが正解だったようね。


 「落ち着きなさい!」

 「落ち着いてなんかいられないよ……私の赤ちゃんが嘘でミラおばさんや色んな人達から嫌なこと言われて……何よりジムは私に……それであなたが来たらもう私は……」


 メリダはそのまま涙をポロポロ垂れ流す、ここまで追いこんだ周りも周りだけど守らないジムが最低ね。元婚約者のことここまで悪くは言いたくないけどまじクズ。

 前世の魔法学校にいたもう一人の主席は、優しかったけど女の子を泣かせる奴に容赦はなかったわね。

 あいつがここにいれば全て解決……というかあいつ怒らせて生きていられるかわからないけど。


 「フフッ、まず涙を拭きなさい。あなたはジムの婚約者でしょ?誰が何と言おうとジムのパートナーはあなたよ」

 「でもお腹の子供はいなかったの……妊娠したって言ってあなたとの婚約破棄させたのにいないんじゃもう……それにあなたは今王国の希望とまで言われる存在……ジムはきっとあなたに……」


 私はカリムがいるしこんないざこざに巻き込まれたくない。

 今更ジムとか勘弁してください……


 「何でそう思うの?」

 「ぐすん……だってあなたがここに来たのだってジムが無理やりでしょ?私に愛想つかしてあなたに慰めてもらおうとしなきゃあなたに接触しないだろうし……」


 うわぁ~

 この子当たってるわ……恐ろしい。

 ちゃんとジムのこと熟知してるのね。


 「そうね、でも私は純粋にあなたのケアを頼まれてここにきたのよ」

 「ケア?」

 「あなたの症状は想像妊娠といってね、赤ちゃんが生まれると思い込んでしまう病気だったの」

 「そんな病気があるんだね……私がそうだったんだ……」


 アンナが表情がさらに曇る。

 このメカニズムについて前世で第三位のあいつが細かく解説してたけど、人間の体は凄く不思議らしい。

 というかあいつ男のくせに何であんな女の体に詳しかったのか……まぁモテる男ではあったけど……


 「それでこれは治るし子供も産めるようになるわ」

 「えっ、それじゃあ赤ちゃんを産むことはできるの?」

 「ええ」

 「でも今は凄く体調が悪いしいつ治るか……」


 どこまでネガティヴなんだこの子は……そもそももうお腹の膨らみがなくなった時点で治っているし。


 「これはお腹の膨らみが収まって少し経てば元に戻るわ。今ここに来たのはあなたの体の調子を治す為よ」


 前にその三位の男から女性の体の整え方についても教わった。

 異性からそんなこと教わるのは非常に抵抗があったが、魔導士として常に体を万全にする為やむを得ずだった……今でもそれが役に立っているぐらいだから流石ではあるが。


 「どうやって治すの?」

 「そうね、まず体の不調だけど魔法であなたのお腹の状態を良くするわ」


 まず癒しの魔法をかけ状態をよくする。次に自分のお腹に超音波を当て状態を確認してから、メリダのお腹に当てる。

 同じ状態なら正常なはずだ。


 「どう?」

 「そうね、少し乱れはあるけど私とそんなに変わらないということは正常の範囲よ」

 「なら子供は産めるの!?」

 「ええ、ちゃんと産めるわ。あと想像妊娠は私から奪う為が故のプレシャーから起きたこと……もう誰もあなたのライバルはいないから安心して子供を作りなさい!」


 私とカリムの為にも今度はちゃんと子供を作らせないといけないわ。


 「うん……でもミラおばさんが……」

 「さっき話したけど、ミラおばさんはあなたの努力を凄く評価しているわ。もっとガツガツいけばすぐに打ち解けられるから、そこは嫁入り故の試練よ」


 ミラおばさんは前に私にもしジムがメリダを捨てて、あなたとよりを戻したいみたいなことを言ったら断ってくれと言われた。

 それは私が受けたような屈辱をメリダにさせないようにと、安い女になるなという二つの意味が込められていた。


 「わかった……色々ありがとう」


 こういうのは精神的な面からくる不調だ。だからなるべく元気づけてやれば体調も自然と良くなる。

 後でミラおばさんには言っておかないと。


 「いいのよ。私の為でもあるしこうなった以上は面倒を見るわ」


 カリムとはなるべく早く婚約しとこうかしら?

 メリダの体調はともかく後はジム次第だ。

 ちゃんと責任もってメリダを抱いてあげれば解決なんだけどそこが上手くいくか……


ジムの出番はまだまだ続きます。

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