5話:デート
短編の第二部です。
次の日の朝八時頃、学校の門へと向かう。カリムのことだからおそらくもう来ているだろう。私もなんだかんだで楽しみで眠れなかった、さて今日は何をしようかしら。
「おはよう~」
「おはようございます」
予想通りいつもよりいい格好で来た。私は冒険者らしくラフな格好で来たがこれでかえってバランスが取れるだろう。
「何時に来たの?」
「一時間ぐらい前ですね、朝と言われたので」
「フフッ、先に来て待っているのは偉いぞ~」
頭を撫でると喜色の表情を見せる。
「それでどこに行きますか?アンナさんから希望があればそちらを優先しようかと」
「そうね、とりあえず街にでましょうか~」
街に見て回ることにした。将来的にはカリムも自分と同じ道を目指すと言っていたし、自分が利用する店なんかも教えておきたかったからだ。
「それじゃあ三か月でBランクになったんですか!」
「ええ」
「凄すぎる……王国騎士団や魔法師団入隊レベルが最低Cランクでその現役師団のメンバーを倒すレベルなんで当然と言えば当然ですけどそれでも凄い……」
「もうAランクの試験も日程組むらしいからそのうちAになる予定よ」
Aランクになれば国籍内全ての危険エリアへ自由に行くことができる。Sになるとギルド加入国全ての危険エリアへの立ち入りと国超えも自由、国によっては爵位を授与する国もあるぐらいだ。
「僕も頑張らないとです、僕が今冒険者に入ったらどれぐらいですかね?」
「そうね……もうDランクはいけるわ、このままいけば卒業の頃が楽しみね」
Cランクは固いし頑張ればBランクもいけるかもしれない。
「あと卒業まで二年半以上ありますしまだまだ伸びますね~」
「でも親とか反対してないの?」
貴族が冒険者なんて珍しい話だ。カリムみたいに将来有望なのは魔法師団なんかの入団をするのが普通だ。
「うち弟いますから、それに魔法師団なんか入ったらアンナさんの隣に立てませんから!」
「フフッ、子爵令嬢である私となら周囲も納得してくれるわね」
「はい、両親も頑張れと」
今度挨拶しておこうかしら。まだあっちの家には一回も行ってなかったわね。
「アンナ!」
街で買い物をしていると聞いたことのある声が聞こえる。
「ジムじゃない」
元婚約者のジム・ヘイズだ。シャンデリラ伯爵家の令嬢であるメリダと子供をつくったということで私と婚約を破棄した。まぁ子供も想像妊娠だが……
「偶然だね、買い物かい?」
「ええ、このカリムとデートよ」
思えばジムと婚約破棄されたことで今の私がある。もしあのまま婚約していたら今頃嫁入りしていたに違いない。果たしてどっちが幸せだったかそれはわからないが、こっちの道で私は幸せになって証明するつもりだ。
「そうか、確か学校の後輩だったね」
「カリムです」
「ジムだ、中等部で将来有望な生徒の一人だった子だよね?」
「いえ、自分なんてまだまだですから~」
ジムとカリムが握手を交わす、そういえば今回が初対面だったわね。
「アンナ!」
馬車から声をかけてきたのはメリダだ。
「あら、メリダ」
メリダは馬車からゆっくりと降りてくると大きくなったお腹を見せる。
想像でもここまで大きくなるものなのか……
「こんにちは、最近はどう?」
「ギルドでBランクになったわ。そっちはどうかしら?」
確か卒業と同時にジムの家に嫁入りしたはずだ。
「今はお腹も大きくなってあまり動いていないけど、ジムがお休みの時はこうして出かけているの」
お腹を触り確認する、もしかしたらあの時私が見落とした可能性もある。
魔力を腕に込め超音波を発動する。
「見ないうちにまた大きくなって、そろそろかしらね~」
やはり子供はいない……
「ええ、もう少しだし楽しみ、私とジムの宝……」
虚妄の宝……私はそれをあなたに教えないし、教えても絶対にあなたは信じない。当然ジムにだってだ。それは私との婚約を破棄し、メリダを選んだあなたの罪……例えそれを気にしてないとしてもその罪は受けてもらう必要があるからだ。
「安静にしていなさいな。体に響くわ」
「う、うん、ジム行きましょう」
「そうだね、それじゃあ二人とも楽しんで!」
二人は馬車に乗り去っていった。
「ねぇアンナさん」
「なぁに?」
「あの人なんかおかしい感じがしたんです」
「メリダ?」
「はい」
「あんだけお腹が大きいし体調も優れないんじゃない?」
「そうじゃないんです……それはそうなんですけど何かが違う気がして……」
この子は前から変なとこに敏感だったわね……私は知っているからあれだけど知らなければあのお腹に違和感など絶対に感じないだろう。
「フフッ、まぁいいわ。そろそろお昼にしましょうか」
この子には関係ない話だ。後はあの二人の問題……私達が首を突っ込む話ではない。
◇
普段利用しているお店での食事をしたが思いのほか美味しく食べていた。男爵家の事情を考えればそこまで裕福な暮らしは出来ないからだろう。私もよくジムの家に援助をしてもらったものだ。
「冒険者になるとどれぐらい稼ぐことが出来ますか?」
「そうね……Bランク以上の依頼なら一回あたりの報酬はかなりのもので、数をこなせば小貴族以上の生活はできるわ。Aランク以上の依頼だと一回こなすだけでもそれぐらいの生活ができちゃうわね」
実際高位ランクの者はそこら辺の貴族より裕福な生活をしている者もいる。ただ貴族は国から土地や住む家なんかも与えられ、国からの保護も受けていて領民から税を徴収出来るので、危険を冒さなくてもお金は入ってくる。
「凄い……確かにBランクの実力があれば、王国魔法師団や王国騎士団の中堅どころと同等なんて言われるから当然といえば当然か」
「でも危険だからそこんとこはしっかり考えるのよ」
「はい、僕の家は貴族と言ってもそこまで裕福じゃありません。僕より才能の乏しい弟に家督を譲って、僕はこっちの道に進んで生活しようかなと。アンナさんもいるし僕的に症には合っているので」
「あなたなりにしっかり考えているのね~」
午後は武具屋や薬屋なんかも周り色々と教え込んだ。未来のパーティとなるのを考えれば今のうちに教えて損はない。
◇
「今日はありがとうございました~」
「こちらこそ、凄い楽しかったわ」
「ま、またデートしたいです」
「フフッ、それはあなた次第ね」
「頑張ります!」
可愛いしもう少しサービスをしてあげるか……
「じゃあこれはサービスね」
カリムの頬にキスをする。
すると数秒固まった後顔を真っ赤にした。
「それじゃまた今度ね」
今はこれぐらいでいいだろう。彼はまだ十五歳、ゆっくりと進めればいい。
◇
「帰りました」
「おおっ、お帰り」
ジムとメリダの二人はジムの家であるヘイズ伯爵家に帰宅した。
「楽しかったか?」
ジムの父であるレイン・ヘイズ伯爵だ。
「はい父さん、今日はメリダの体調も良かったので」
「我が子を楽しみにしているぞ」
「はい、ご期待に添えられるよう頑張りますわ」
メリダは笑顔を見せる。だがその様子を見ていたジムの母親はそれに釘をさすように言う。
「アンナを捨ててまで選ばれたのです。ぜひ男の子をご期待しますわ」
母親のミラ・ヘイズ、元々アンナの母親であるメロームと親友でアンナとの婚約を押していた。婚約破棄の際も直接アンナの家に出向いて頭を下げたぐらいだ。
「母さんあんまりメリダにプレッシャーを与えないでね」
ジムとミラはあの一件以来少し溝が出来ていた。勿論これに関してはジムが悪いので何も反論する余地はなかったが、一緒にいるメリダも責めるのでうんざりしていた。
「私は大丈夫だから」
「本当はアンナを……」
「母さんその話はもう止めてくれ!」
何か言いたげなミラを一喝し、メリダを連れて部屋に戻る。
「ごめんなさいジム……」
「いいんだ、元はと言えば僕が悪いんだ、君は何も悪くない」
「ジム……」
「それよりも今は生まれてくる子供だ、子供が生まれれば母さんも大人しくなるはずさ」
「うん……」
だがジムもそんなメリダに疑問を抱いていた。お腹が大きくもうそろそろ生まれていてもおかしくないのだが、少し遅い気がしていた。
「もうそろそろだよね?」
「ええ、そのはずよ」
何か嫌な予感を感じていた。メリダの話では動いているらしいし、それらしき動きもあったと聞いておりそれが杞憂で終わるといいんだがと。
「メリダ……僕はアンナを捨てて君を選んだんだ、僕の罪を知る君だから……」
「わかってる……私を信じて!」
そんなメリダの真っすぐな瞳を見たジムは安心したように、そのまま寄り添いキスを交わす。ジムは嘘という言葉に敏感だ。特に信じる人が嘘をついたその時、彼は気が気がでいられないだろう。
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