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3話:私の道

ここまでが短編の第一部です。


 私の学校内での扱いはたちまち変わっていった。誰も私に悪態をつくものはいなくなったが次第に人は離れていった。

 この世界のこの歳では有り得ないレベルの魔法を見せたことで、畏怖の対象となった私につけられたのは氷魔姫アイスクイーン。騎士科主席のジムも向こうの土俵で倒すと女傑なんて渾名ももらった。私が魔法師団入りを決めていた将来有望株をことごとく倒し、見下すようになったのを見た私のクラスメイトがつけたのだ。結構自分では気に入っているし、あれから私に好き好んで近づいてくるのはいないけど一人もそんなに悪くはない。悪夢を見る時は相変わらず辛いがまぁ慣れっこだ。


 「何とか考え直してくれないだろうか……」


 校長室に呼ばれた私だが何故呼ばれたかと言うと魔法師団主席入団を断ったからだ。あれから現役師団の人が何人か来て手合わせをしたが全員軽く倒した。

 将来の有望株、いや王国の希望として来てほしいなんて言われたわけだけど、正直窮屈でつまらないと感じたのだ。


 「王子が縁談をだなんて話もでているのじゃよ……これは君や君の家にとっての大きなチャンスかと……」


 すでに父や母や弟には私の道を話してあるしその了承も得ている。家族が私の意志を尊重してくれた以上これは絶対に曲げる気はない。


 「結構ですわ、それよりも叶えたい願いがありますの」


 前世の魔法学校にいた化け物三人に関しては、各国の王が直々に頭を下げるような存在だっただけに能力的な強さを持たない権威だけの者との縁談など受ける気はない。仮に王妃になったって私の得たい物は得れない。


 「ウウッ……せめて卒業後もここで講師はやってほしい」


 まさか校長が私にこうして頭を深々と下げる日がくるとは……一応世話になった学び舎だし、魔法力の底上げはいずれ世界の危機に直面する可能性もあるわね……


 「了解しましたわ、不定期で良ければやりますわ」

 「おおっ、ありがとう。感謝するよ」

 「ええ、卒業まであともう少し……この学び舎には思入れがありますので、よろしくお願いしますわ」


 なんだかんだで中等部から六年過ごした思い出が詰まった場所……今がどうあれ楽しかったという思い出はなくなることはない。


その思い出は消えることのない本物なのだ。


 「何の話をしていたのですか?」


 校長室からでるとプリム率いる魔法師団内定組が待ち構えていた。私が説得されて魔法師団に入ることを恐れているのだろう。


 「魔法師団入団と王子との縁談の話を断っただけですわ」


 それを聞いたプリムはホッとしたような顔を見せる。あれから私の存在もあり、自分達の思い通りに学校生活を送れなくなった。というのもこいつらは下級生いびりをよくやっていたけど、校長から中等部の下級生への特別講義を開くよう頼まれた私は下級生の面倒を見ていた。そのせいか中等部の生徒は、教師やプリム達のレベルの低さを痛感して私を崇拝するようになり、私も教えた責任としてプリムへいびりをしたら制裁を課すと釘を打ったのだ。


 王家の血を引き私を除けばナンバーワンの魔導士なんて言われ絶大な権力を持っていたプリムは権威をふるえなくなっていた。プリムは王家の血を引いてはいるが、私は国王にも認められた存在だ。この数か月のプリムはまさに虚栄の女王だったと言えるだろう。


「話はそれだけですか?私はもういきますわ」


 こういう烏合の衆はどうしても好きになれない。私は本物を知っている……絶対的な強さと全てを包み込むあの強さを。


「あなたが馬鹿で助かった……感謝しますわ」


 自分の地位が保たれたことで少し安心したのか急に強気になる。だからこの女とは仲良くなれない。プライドが高くてねちっこい独裁者気取りの雑魚……それが私のこの女に対する評価だ。


 「フフッ、せいぜい烏合の衆でガキ大将をしているといいですわ~あなたみたいな偽物にも虚栄の権利はありますし」

 「なんだと!」

 「あら、何か文句でもありますの?文句があるなら今相手になりますわよ?」


 戦闘の意志を見せると全員が一歩後ろに下がる。これだから余計にイライラする。


 「戦う気もない癖に言うだけ言うのはみっともないと思うのだけどどうでしょう?」

 「そ、それは」


 一歩一歩と近づき歩み寄るとそのまま恐れるように崩れ落ちる。


 「哀れね……もう少し相手を選ぶべき……そうは思いませんこと?」 

 「ヒッ、そんな目で私を見ないで……私はお前よりも将来を約束された……」

 「それはそれぞれの価値観が違いますわ。それはいずれ嫌でもわかりますわ」


 そもそも土俵が違うしどちらが上などと決められない。


私は最強を目指す!


こんな王国にこだわる理由もない。


 「ではご機嫌よう~」


 弱い者虐めは趣味ではないが仕返しはきっちりやっておきたかった。五年半以上の月日で、受けた嫌がらせを返すには少ない時間ではあるものの、私の気はなかなかに晴れた。


 「あと一週間か……」


 一週間後この魔法学校を卒業する。どうせまたすぐに顔を出すことにはなりそうだけど。


 「アンナさん!」


 声をかけて来たのは中等部三年のカリムだ。マジェスティ男爵家の長男で私が教えた生徒の一人だ。


 「あらカリムどうしましたの?」

 「さっきの見ちゃいまして~」

 「ああ、見苦しいとこ見せましたわね」


 正直ああいうのはみっともないからあまりやりたくないが、相手がプリムだけについやってしまった。誰に見られてるともわからないし反省しないとだ。


 「いえ、凄くかっこよかったです!アンナさんは憧れなので」


 この子は教えた子のなかでも特に私に懐いている。教えた子でもやっぱり一歩引いている子が大半だがこの子は違う。


 「フフッ、恥ずかしいですわよ~」

 「そんなことはないです……あいつらいつもデカい顔していびってて……ああいうみっともない連中から、僕達を救ってくれたアンナさんのお陰で今の僕はありますから!」


 数少ない話し相手の中には、こうやって懐いてくれる可愛い後輩もいる。今の私の癒しだ。カリムは私の教えをより忠実に受けて学んでいるし、後から個人的に質問がくるから伸びが一番早い。


 「ありがとう、みんなあなたみたいに来てくれると嬉しいんだけど、やっぱり私ってそんなに怖いかしら?」

 「そうですね……僕はそういう風には感じませんでしたけど……あっでも実はみんなアンナさんと話したいって方ばかりですよ~」

 「あら、私の印象よりも本音は違うってことかしら?」

 「そうですね、僕としては今のこの状況は色んな意味で美味しいんですけどね~」


 顔を少し赤らめて照れながら言う、全くこの子は……


 「そういうのは十年早いですわ~魔術も体技もまだまだなんだし、そんなこと考えている暇があるならもっと精進しなさい!」


 頭をクシャクシャしながら言う、まぁ悪い気はしないのは事実だ。

 可愛いし純粋に私に懐いた可愛い後輩であることには変わりない。


 「ヘヘッ、でも卒業したらこうやって話せなくなる教えを受けれなくなるおは大変残念です……」


 あからさまに落ち込んだ表情を見せる。


 「ああそれなんだけど校長先生に頼まれてますの。だから卒業後も不定期で講師をやるからみっちり鍛えますわ」

 「えっ、本当ですか?」

 「本当の本当ですわ~」


 するとカリムはガッツポーズをしながら動き回る。


 「よかった~これからも会えるんですね~」

 「ええそうよ」


  ここまで私のことで本気で喜んでくれるのは他にいただろうか……不思議な子だ。


 「これからもよろしくお願いします」

 「こちらこそですわ~」

 「あと気になったことがあるんですけど一ついいですか?」

 「ええ何かしら?」


 カリムが神妙な顔つきでこちらを見つめる。


 「そのですわって言うのみなさん使っているのは重々承知なんですけど、アンナさんのは凄い違和感がありまして……本当はそんな言葉遣いをしていなかったのではと……」


 それを聞いた時何かがドキッとした。そう私は前世でこの~ですわという言葉は使ってなかった。だがこっちに転生して貴族たちはみな多用しているから使うようにしていたのだ。

 なんだかんだでこの学校に入る前から使い始めていたが、自分の中でも違和感を拭えなかった。この子はそれに気づいたのだ。


 「フフッ、あなたは本当に面白いわ。これ使ってて何か違う……本当は自分じゃない気がしてたの」

 「じゃあやっぱり……」

 「婚約が破棄になったあの時から、自分を出していこうと思ってこの数か月そうしてきたけど、自分じゃないものを他の誰かに気付かされるとは思わなかったわ……」


 戦闘センスも中々に加えてこの洞察力か……この子ならもしかしたら……


 「あなたに会うのは今後ここに来る楽しみにしていいかしら?」

 「えっ……ええええ~」


 カリムの顔が赤くなり悶えながら体を動かす。


 「そ、それって……」

 「う~んそれはどうかしら?私って王子からの婚約がきてるし~」

 「受けたんですか?そうですよね……王子に比べたら僕なんて……」

 「断ったわよ」

 「えっ、断ったんですか?」

 「ええそうよ」

 「僕としては凄く嬉しいですけど、流石に勿体なかったのでは?」


 まぁそれが普通の反応ね、王子けっこうイケメンだし。


 「私がその申し出を喜ぶように見えるかしら?」


 するとカリムは少し考えてから口を開く。


 「そうですね……僕がアンナさんの講義を受け、こうして話していて思うにアンナさんは身分や名誉を欲していない。自分をわかってくれてかつ隣や背中を任せられる人を探しているのかなって……ジムさんのことはそれを抑えてもいいぐらいに、それこそ本当に愛していたから解放してなかったのかなと」


 それを聞いた私は心臓が高鳴るぐらいにドキッとしてしまう。この子の洞察力は凄い、だけどそれ以上にこの子は私のことをとてもよく見てくれている。


 「フフツ、待ってるわ」


 それ以上の言葉はいらなかった。もう彼の答えはもう決まっているのだから。


 「ぼ、僕が隣に立てたらそ、その僕のこと貰ってくれますか?」


 馬鹿、今そんなこと言われたら……でも今はまだ早い……私も目指すものがある。


 「そ、そこは貰っていいですかでしょ!」

 「す、すいません……」

 「まぁでもいいわよ。その為に来てあげるから強くなりなさいよ」

 「は、はい……頑張ります!や、やった~」

 「それじゃ私はいくから……それじゃあね」


 もしかしたらジムとの婚約破棄は私にとって良かったのかもしれない。あの後悪役令嬢として数か月暴れたその先に待っていたのはこの子だ。あのままジムと結ばれても幸せになったとは思う。だけど振られたことで違う世界と可能性が見えたのだ。


 「これからが楽しみね~」


 卒業後の進路はこれだ。魔法師団じゃ単独行動が出来ないがあれは違う。好きに冒険し危険な場所にも行ける。


 「冒険者ギルドで私は最強を目指す!」


 前世で私が苦戦したような魔物がいるかは知らないけどきっと世界のどこかにはいるはずだ。

 あの時のあの言葉……


 「俺は今お前を許さない……だがもしお前が自分を見つけられて、それを共有できる者を見つけられたのなら……それを許し再びお前の前に現れて呪いを解こう……それが俺とお前の約束だ」


 あの言葉が嘘でなければこのままいけばいずれあの男に会えるはず。前の世界とこの世界が同じなのかも何年後なのかもわからないけど……それでもあの男は必ず現れるはずだ。


 「やってやるわ……」


 転生して十八歳になった少女は一つの決意を決めたのだ。


もしかしたら後から間に話を付け足すかもしれません。

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