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雨夜月に抱かれて 第一部 初恋編  作者: 冬鳥
2010年12月27日。愛知県東海市にて七海葉月。
38/40

綻び始める真実

葉月は妹の四葉が自分の身代わりになってこの世から消えたのだと思った。

日々、彼女は自己を抹消したい衝動のなかを生きることになる。四葉と母親を追いかけて自分も命を断つべきだとも思った、彼女の瞳は輝きが失われ慟哭が全身から滲み出た。

だが葉月は徐々にであるが生きていく意味を見つけていった。燦々と降り注ぐ陽光を全身に浴びたときに言いようのない希望が脳内を駆け巡っていった。

葉月が再び前を向く原動力となったものそれは。




初恋。




葉月は秋月悠理に抱いた深い愛情によって悠理の存在を身近に感じるたびに崖っぷちに咲く花を一輪ずつ摘んでいくようにゆっくりと確実に自分を取り戻していった。


世の中で生き続けていく限り目にするありふれた死の世界。昆虫が昆虫を殺し人間は家畜を殺し続けている。テレビのなかでは人が人を殺める映像があり新聞を読めば凄惨な事件の記事が目についた。

だがこんな世の中でも彼女の両手に抱えきれないほどの花びらが一つ一つ彩られていったとき逃げ続けたものに立ち向かいはじめていた、ありふれた死に目を背けなくなっていた。

葉月は夜空に光る星を見上げ過去に許しを願いそして未来への希望を願った。未来は自らの決意と意志で掴みたいとすら思った。


自分が希望を持つことにきっと四葉は許してくれる。悠理を好きなままでいることをきっと四葉は天国で喜んでくれている。


葉月は胸に突き刺さる刃先の柄を強く握りしめ完全に抜き去るところまで来ていた。

そこまで来た矢先だった。


突如始まったのはクラスメイトによる葉月への虐め。


最初葉月はそのことが信じられなかった。まさか自分が排除の対象になるとは夢にもおもわなかったのだ。

多くの友人に恵まれ、クラスメイトも皆が友達とすらまで思っていた。


それがいったい何故。


最初に葉月の悪口を言い始めたのは、このクラスで最も目立つ男子だった。整った外見と運動がとても得意なのが特徴的で男女からとても人気がある男子。


このクラスメイトの男子生徒のことで葉月は少しだけ思うことはあった。修学旅行で告白をされたのだ。


誰もいない場所で彼は緊張しながら葉月に想いを伝えてきた。葉月は頭を下げて断りの言葉を述べた。



「そっか。ならこれからも友達でいてくれよな。このことは内緒にしてくる?、俺が葉月に告白したこと」


彼はそういい、葉月も笑顔でうんと頷いた。それで終わったのだと思っていた。



その男子がとにかく葉月の悪口を突然言い始めた。影響力のある一人の男の存在感はとても大きかった。

はじめはクラスのごく一部による陰なる誹謗であったが徐々に彼女は賽の目にされたごとくクラスのほとんどの生徒から鬱積のはけ口と化していった。

再び彼女は海底へと沈潜させられていった。

彼女は戦った。その戦いは何ヶ月も続いた。机に落書きをされる度に怒りを表して全生徒に一人で戦いを挑んだ。


階下に五年生の教室がある。悠理がすぐ下にいると思うだけで葉月の心は強くなれた。


ある日、葉月はこのクラスのリーダー的存在の男子生徒、つまりは元凶である男の頬を思い切り引っ叩いた。


「七海てめえ!やりやがったな」


葉月は腕を強い力で掴まれながら叫んでいた。


「私はあなたを絶対に許さない!絶対に!」





七海葉月へ憧憬を抱く男子生徒たちもイジメに加担した。最初は幼稚な刃物をちらつかせて少し彼女を怖がらせて怯えという一種の魅力的一面を見たいがためだったが、それで終わるつもりが葉月は果敢に立ち向かってきた。予定外の成り行きに加害者達はよりムキになるしかなかった。


葉月への虐待は中学生になっても続いていくことになる。



 




(ここに誰も知らないままに誰も気づけなかった真実がある)





元凶となった男子生徒が最初に葉月の悪口を述べたときに彼のポケットには、くしゃくしゃになった紙切れが入っていた。


それは自分の家のポストに入っていたのが始まりだった。


ある日学校から帰ってくると母親が封筒を見せた。


「七海葉月さんて人から手紙来てるよ」


男子生徒は母親から封筒をひったくると部屋に駆け込んで破顔する。


だよな。俺がフラれるわけないんだ。

俺は葉月と両思いだ。



だが男子生徒は手紙を読み始めてみるみる表情が変わっていった。


「な、なんだよこれ…あまりに酷いじゃないか……」



あれは誰にも見られてはいない告白だったはずだ。誰にも言ってないし言えるわけがない、何せ見事にフラれてしまったのだから。あのことは自分と葉月しか知らないことなのに。


手紙の内容はあまりに酷い内容だった。

散々に悪口が書かれた挙句、最後の文章にあなたは勘違いしないほうがいい単なる汚い害虫なのだからもう私には話しかけてきてほしくないし近くに寄ってきてほしくもない。しかしそんなあなたがわたしに告白するなんて、ほんと笑い話しだよね。


と締め括ってあった。







@


「あ、葉月だ!」


悠理と新汰は1人で下校している葉月を見つけて後ろから声をかけた。


小学校とマンションの中間にある小さな神社の前。


葉月は聞こえなかったのか反応がない。

新汰がまた大きな声で名を呼んだ。



「はーづーき!」


葉月は驚いたようにして振り返る。


あれ…?


悠理は葉月の表情がどこか沈痛な面持ちに見えた。


葉月はすぐに笑顔へと変わっていく。



「二人とも、おかえり」


三人は肩を並べて一緒に帰っていく。


葉月を真ん中にして右側を新汰が左側を悠理がまるで葉月を守るように歩いていく。


両脇を固める二人は大きな手振りを交えて学校での出来事を話していく。


葉月は微笑みながら何度も頷いていた。


やがてマンションの自転車置き場まで来ると葉月は手を振って「じゃあね明日ね」と階段を急いで上がっていってしまった。


「新汰。なんか最近の葉月は元気なくないか。嫌なことでもあったのかな」


「そうか?いつも通りの葉月じゃないか?きっと六年生は勉強とか大変なんだよ。もうすぐ葉月は中学生だぜ。よし俺たちはいまから遊ぼうな。なぁ悠理。またすぐにここで待ち合わせしようぜ」


「わかった」




葉月は玄関を開けると座り込んだまま泣き崩れていた。


折れ始めた心を感じていた。歯を食いしばり戦うと悠理に誓ったのに。

負けたくないよ…悠理…



今日も机のなかにゴミが詰められ、ロッカーには不幸女と書かれた紙の束。


悔しいよ…。


負けたくないよ。悠理を笑顔で見つめたいよ。






悠理と新汰がいつものようにマンション横の公園でサッカーをしていると数人の中学生がネットを揺らしながら入ってきた。

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