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雨夜月に抱かれて 第一部 初恋編  作者: 冬鳥
2010年12月23日。愛知県西尾市の須和新汰。そして原点。始まりの過去へ。
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修学旅行の事故


葉月が修学旅行から帰ってくる日はいったいどんな空が広がっていたのだろう?


悠理は中学生になったときにこの日の記憶を思い出しては何度も自問した。まるで目に映るものがすべて偽りで真実の世界はどこか遥か上空の片隅に追いやられてしまったかのような不安の始まりの日となったのが葉月の修学旅行だった。葉月が葉月では無くなっていく警笛を鳴らしたこの日はいったいどんな色の上空がどんな思惑で静観していたのだろう。


五時間目の授業の終りを告げるチャイムが鳴り響くなか悠理と新汰はほんのりと赤みを帯びる西の空に顔を向けて一人の女性のことをお互いに考えていた。もちろん葉月のことだった。傾き始めた太陽に彼女の幻影を探し続けていた。葉月のあの笑顔が早く見たい。二人は修学旅行の思い出を笑顔を浮かべ楽しそうに話す葉月のことを考えそして想った。葉月はどんな表情を見せてくれるのか。修学旅行で彼女が見た景色、彼女が感じた空気、彼女が伝えるすべて。きっといつものように優しく強い彼女がそこにいるのだろう。さあどこで葉月の帰りを待とうか?マンションの前の自転車置き場辺りで?それとも公園のブランコに揺られながら?校庭の片隅のたくさん野花が彩る場所で?どこで待っていようか。悠理と新汰は窓を抜ける風を頬に当てながら同じ想いを描いていた。


「修学旅行すごく楽しかったよ来年には二人も行けるんだね」



あのいつもの柔らかい笑顔のままの葉月の声が心の中でたくさん膨らんだ。


とにかく早く会いたい。



悠理と新汰の思考はそこに必ず行き着いた。淡い空色のなか膨らんでいく葉月への想いを二人は手を伸ばし触れようとする、踵を上げて背筋を伸ばして指先は遥か先へ。




頬を撫でるやわらかい風の感触が通り過ぎていく。


悠理にはその風がなんだか葉月の妹の四葉のように感じた。


手を繋いで走る葉月と四葉の二人の後ろ姿を追いかけたあの時の自分を思い出す。



そんなことを思い浮かべてるときだった。


「大変だ!」



職員室に行っていた同じクラスの男子が大きな声を引き連れて教室に戻ってきたことにより悠理は勢いよく現実に引き戻された。




「おいみんな!大変だぞ!いま職員室で先生たちが話してるの聞こえたんだ。修学旅行のバスが事故したって話だぜ!」



張り詰めた言葉によって教室は一斉に騒がしくなる。


「ええ!事故だって!」



「ああ!先生たちもかなりビビってる感じだったぜ、かなり大きな事故かもしれないな!」




「じゃあ大変なことになってんじゃない?」



「うげ!もしかして六年生の誰か死んでるとか?やばくね?何人死んだ?」



誰かがそういったときにすかさず新汰がすごい剣幕で怒鳴りつけた。




「おいミツ!なんだよそれ!おまえ死ぬとか言ったな!もう二度と言うな!また言ったら俺が承知しないから!」



ミツと呼ばれた男子は新汰の地鳴りのような怒鳴り声に萎縮して涙をぽろぽろと流し始めた。


「ごめん・・・」


泣いて謝るミツのところまで来た新汰はミツの頭にこつんと拳を乗せた。




「わかってる。いまのはお前のジョーダンだよな、でも死ぬって言葉は誰も聞きたくはないだろ?、笑えないこと言うのおまえらしくないぞ」


新汰の言葉にミツは泣きながらまた「ごめん」と言った。


新汰もきつく言ってすまんと返した。


このクラスのリーダー的存在である新汰がミツの失言を怒鳴ったことによって教室はすぐに落ち着いていったがひそひそと小声で話す声は続いた。そして再び生徒たちの会話に不安や好奇が入り交じり騒がしくなってきたときに教室の扉が開いて担任の男性教師が現れた。


「おいおい、やけに賑やかだな」


生徒たちは途端に静まり返っていき、教師が教壇までかつかつと歩く音だけが教室のなかを響いていった。


「じゃあ六限目の授業を始めるぞ。えっと、教科書のページは」



教師の言葉と動作を遮るように一番後ろの席にいる新汰が声を張り上げた。



「先生!修学旅行の六年生の乗ったバスになんかあったの?」




「須和。どこから聞いた?」



教師の表情はなんだか暗い。



「先生!それは何組のバス?」


新汰は身を乗り出して叫ぶように教師に問いかけた。



「何組のバスなの?事故したのは何組の?おっきい事故なの?怪我した人はいる?」




まくしたてるようにいう新汰に向けて教師は苦虫をかみつぶしたような表情を作った。


「須和、とりあえず落ち着いたらどうだ。まず大きな事故ではないのは確かだ。おまえが心配することではない。よし授業始めるぞ」


新汰は椅子を倒す勢いで立ち上がって机に身を乗り出した。


「先生!教えてくれ何組のバスだよ!一組?二組?」


「おい新汰どうした」


普段見せない新汰の言葉使いと動揺さに教師は驚きの表情を見せた。


「先生!どっちですか!」


「二組だ」


新汰はこちらを見つめる悠理と視線を合わせた。

二組は葉月のクラスだった。







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