ムードメーカー
悠理は新汰の背中が目の前まで迫ると満面の笑顔になりそのままの勢いでタックルするようにぶつかっていく。「うわぁっ!なんだ!」後ろから不意に強い力で押された新汰は驚いた声を出すが、それが悠理の仕業だとわかるとすぐに新汰も笑顔になり悠理がはく半ズボンを両手でひょいと四つに持ち上げた。「わぁ」次に驚くのは悠理の番だった。「悠理やったな」新汰は悠理を軽々と持ち上げて車道と歩道の境にあるガードレールの上に乗せてやる、先端のとんがった部分が悠理の尻にあたるように。
「わぁわぁごめんごめん」
嬉しそうに謝る悠理とにんまりと笑いながら鼻の下を拭う新汰。
周りにいる同級生たちも悠理と新汰のはしゃぐ姿を見て一様に笑い声を立てた。悠理はおっちょこちょいでお調子者で負けず嫌いで泣き虫で、そして大きな瞳と色白な肌が印象的で走ると誰よりも速い五年一組のムードメーカー。対する新汰は頼もしくて優しくて並外れた統率力を備える、誰もが認める五年一組のリーダーだった。
悠理と新汰。
だが新汰だけはたまに首を傾げて悠理を見たりもする。
やはりあいつはちょっとばかし無理してるな。と。
新汰は幼少期から一緒に遊んできた仲だからわかるのだ。悠理はほんとはもっと絶対的な穏やかさを好み、一人寝そべり空を何時間でも見ていることに喜びを感じれる。そんな奴なんだと。その場の雰囲気などいちいち気にしなくていい、無理に盛り上げなくていいんだと。おまえはもっと穏やかさのままにその透きとおる瞳でなにかを優しく見つめていればいい。それがお前だ。
新汰はいま見せるはしゃぐ悠理のことがたまに一つの大きな心配事にもなっていた。
「これからなにする?みんなで遊ぶ?」
半ズボンから覗く悠理の白い足が動いて地面の小石が蹴られて勢いよく飛んでいく。
「当り前よ!今日はみんなこれから家に帰ったらすぐにただいま!いってきます!だからな。そしてすぐにいつもの公園集合だ!そっからおもちゃ売り場直行ってのはどうだ」
新汰の言葉に皆が頷く。
「いいね!いくいく!」
マンション横のいつもの公園から自転車で10分ほどの距離にある四階建てのショッピングセンターがある。今日はそこに行く予定だった。小学五年生になったばかりの新汰を先頭にした集団は悠理をくわえていっそうに騒がしく固まりながら歩いていく。青い小さな橋を越えると左手に大きな工場があり空を見上げれば南北に延びる高速道路の巨大なコンクリートの塊が眼前に迫っていた。
「そうだ!」
高架下の日陰のなかに集団が入り込んだときに誰かが思い出したかのように大きな声で周りに話しかけた。甲高い声が遮る上壁に跳ね返っていく。
「あさってから六年生は修学旅行なんだってさ」
「そんなの知ってるさ。修学旅行かぁ、いいなぁ」
悠理がすぐに反応して呟くようにいうと先頭にいた新汰が悠理に近づいてきて悠理の肩を軽く叩いた。
「来年は俺らも行けるぞ。でさ、どこいくんだ?修学旅行は」
「京都だよ」
悠理ではなく誰かがいった。
「京都?京都ってあのでっけえ大仏がいるところか?おお!行きてえ!俺が睨みつけたら大仏様の長い居眠りも覚めちまうかもな。俺の睨みはこんな目だぞ。見てみろ怖いだろ?」
新汰がくしゃくしゃな顔を作りあげて目をこれでもかと細めるとみんなが大爆笑をする。
「きゃはは!新汰くんごめん、たぶん大仏様は目覚めるどころか笑い転げるよ。あれ?京都に大仏いるんだっけ」
「いるいる!あの天下の京都だぞ!なんでもいる!パンダもいるぞきっとな」
新汰の豪快な笑いが響き渡っていく。
一泊二日の修学旅行。
京都とはいったいどんな街なのか、なにがあるのか。新汰と悠理そして仲間たちは来年の学校行事を想像して胸を躍らせ始めた。
高速道路の高架下を潜り抜けると西に傾きつつある陽が背中にじんわりと当たり始めていく。集団の最後部にいる悠理はおもむろに振り返る。
いた・・・
悠理が探す人は一途に恋する人だった。
ちょうど葉月は青い橋を渡っているところだった。
葉月は京都にいくんだね




