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雨夜月に抱かれて 第一部 初恋編  作者: 冬鳥
2010年12月23日。愛知県西尾市の須和新汰。そして原点。始まりの過去へ。
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葉月と新汰の後ろ姿

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秋月悠理と須和新汰は五年生になっていた。このころになると七海葉月は二人から少しずつ距離を取り始めていた。悠理と新汰は葉月ともっと遊びたい、もっといろんな話しをしたいと思うのだが葉月のほうから遊びを断ることが増えていった。


男女を意識する年齢は六年生になる葉月のほうが一足先だった。



ほら葉月がいるよすぐ先に。手を伸ばせば触れられる距離に。


春先の柔らかい日差しが頭上から降り注ぐなか悠理は葉月の名前を呼んだ。その声は透き通る風の音と共に駆け出していき、途中やわらかい感触すらも備え彼女の下へ届いていく。それはきっと二人にとって掛替えのない時間の記憶となる。彼女もまた風の音と共に訪れる大好きな人の声を掴んでいた。


「はーっづき!」



下校途中に前を歩く葉月を見つけた悠理はおもむろに走りだした。いつも必ず探す後ろ姿があるのだ。そしてその姿は絶対的に悠理に喜びと緊張感を与えてくれた。ここはまだ広い校庭がすぐ隣りに広がっている下校道の始まりだった。


悠理の声に気づいた葉月は足を止めて微笑を携えて振り返った。


その人の名を呼べば心は高鳴りの鼓動に襲われる、それは生き苦しいほどに。


葉月に手が届くほどの距離まで走って来た悠理は足を止めて照れ笑いを浮かべた。


「帰ったら一緒に遊ぼうよ、何する?かくれんぼ?それともドッジボール?葉月の遊びたいのでいいよ僕から新汰に言っておくからさ」


悠理はいまにも流れ落ちようとする額の汗を手の甲でふき取り葉月を見つめた。


葉月は二人の女子と一緒にいた。おそらくクラスメイトなのだろう、だから悠理より一つ上の六年生になる。横並びで歩いていた三人のうち葉月以外は突然後ろから話しかけてきた五年生の男子に向けて驚いた様子を見せた。道路を隔てた向こう側の校庭では上級生の男子数人がサッカーを楽しんでいる。そのなかで一人の六年生男子が足を止めてこちらに視線を向けていた。



「悠理ごめんね。これから友達の家に行くことになってるの、また誘ってね」


「えー今日もだめなんだ…最近はだめばかりだな葉月」


肩を落とす悠理を見ていた葉月の右隣にいた女子が口を開く。


「君は五年生だよね?葉月ちゃんの友達なの?」


「うん」


葉月が頷いたのを悠理は嬉しそうに見つめた。


葉月の右隣にいる背の高い女子は悠理を見下ろす。


「君は五年生?お名前は?」


割と強めの口調で聞かれた悠理は萎縮したように


「うん・・そうだけど・・名前は悠理」


と答えた。



「悠理君ね、苗字は?」


「秋月・・だけど」


語尾が小さくなり俯いた悠理をかばうように葉月が間に入り込む。


「同じマンションに住んでるの」


「ふーんじゃあ葉月の幼馴染ってこと?」


「まあね」


「ふーん。葉月ちゃんて男の子とかくれんぼとかしてるの?」


「え、そうだけどなんか意外に見える?」


葉月はいつものようにはきはきと答える。


「ぜんぜーん」


葉月と二人の女子に見つめられる悠理はなんだかとても居心地が悪く感じた。


「かくれんぼは楽しいよ」


ちょっとだけムキにいう悠理に葉月の友達の女子二人は急に笑いはじめた。


「あはは。かくれんぼは楽しいんだね。わかったよボク」


「ボクって…一つしか学年違わないじゃん。もういいよ…じゃあね葉月」


葉月に小さく手を振ってから悠理は前を走り出した。


葉月はなにかおかしい。なにか嫌がっていたのかな。


それになぜ僕は笑われたんだ?


悠理は相手の心を読もうとする癖があった。幼いころから父の二面性を見てきた。酒に酔う裏の顔と表の顔があった。いま父はどちら側にいるのか。悠理は人の心を必死に詮索するのが癖になっていた。


排水路をまたぐ小さな橋を渡るときに爽やかな風を感じた。春の透き通る風に感じた。


下校していく大勢の小学生を巧みにかわしながらはるか前を歩いているだろう新汰を探す。新汰の背中はすぐにわかる。五年生で一番おおきな背中だった。

中学生にも見劣りしない体格といえた、だから新汰の広い背中に吊るされたランドセルはあまりにも不均衡に見えた。





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