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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
愉快で無敵な墓荒らし
76/494

とあるエルフの場合・後

 豪雪が、雪の竜巻が巻き上がった。


 そうとしか見えない。突然山から現れた白い竜巻は猛烈な勢いで三体のオークに直撃し、その巨体を軽々と宙に舞わせた。

 まるで子供が遊びで人形を放り投げるみたい。オーク達は空中でみっともなくて足をばたつかせ、なす術もなく地面に激突する。

 竜巻はオーク達に向き直り、次第に風の勢いを弱めていく。同時に竜巻を覆っていた雪が晴れていき、その内部が顕わになっていく。

 そして、エルモはそれを見た。


「――――――きれい」


 言葉を失う。

 それは、一頭の白い狼だった。

 大きな狼だ。地球の虎や豹くらいはありそうに見える。曇天の中、毛皮が僅かな日光を反射して銀色に映えていた。背中に通ったラインは仄かに青白く発光しているようにも見える。


 狼は自らが撥ね飛ばしたオーク達が起き上がるのを首を傾げて眺めていた。興奮した彼らが棍棒を手に唸り声を上げると、白狼はどこか馬鹿にした風に鼻を鳴らす仕草をして、牙を剥き出しにして正面を見据えた。


 エルフの動体視力が追いきれない。


 気がついたら狼はオークの背後にいて、つまらなそうに咥えていた物を吐きだしていた。

 ……丸太のような腕。やられたオークは振り返ってから気が付いたようで、悲鳴を上げて無くなった腕先を振り回していた。


「はは……あの子もだいぶ腕を上げましたね。氷の使い方が去年とは段違いだ」


 商人の声に、ようやくそれが目に留まる。


「……血が、出てない?」


 切断されたオークの腕。普通なら噴水のごとく血液が噴き出るはずが、周囲に薄く積もった雪を赤く染める気配すらない。

 目を凝らして確認すると、オークの傷口は透明な氷で塞がれていた。


「多分、やる意味もあまりわかっていないんじゃないですか? 猟師さんがインベントリから獲物を取り出すとき、周りを汚さないように凍らせているのを見ているので」


 どんな猟師だ。

 さっきから、商人が言っていることも目の前で起きていることも理解の外だ。まるでわけがわからない。

 混乱する頭を押さえて浜辺を見返すと、狼が動いていた。


 ぺたりと地面に尻を付けて座り込み、尻尾をぱたぱたと振りながらじっと三体のオークを見つめる。彼らが狼に向かって踏み出したとき、まるでお手でもするように前脚を掲げて、


 瞬間、地面から突きあがった巨大な氷柱に股間から脳天までを貫かれ、腕のないオークが呆気なく絶命した。


「…………あの、あの狼って何なんですか?」


 堪え切れずに問いかける。

 エルモの知っている森林狼は地球でもよく見るサイズだ。十頭近い群れで動き、狩りは兎や狐みたいに小さな獲物を狙う。

 断じて一頭でオーク三頭を相手取る力なんてないし、人間の身の丈ほどもある氷の槍を出現させるなんて、もはやエルフの支族長レベルの魔法を使いこなしたりもしない。


「エルモさんの気持ちはわかりますよ。ですが、あの群れは特別でして」


 商人の説明は要領を得ない。問い詰めようとしたエルモの視界に、また奇妙なものが移った。


 人影だ。体格からして男のように思う。浜辺と山の狭間に、いつの間にか当然のように立っていた。エルモはその全てを視界に収めていたはずなのに、彼がどうやって出現したのかまるで把握できなかった。

 男は灰色の外套を着こみ、フードを目深に被っていた。手には黒ずんだ何かが抱えられ、男は狼とオークの戦いをひとしきり眺めると、それを目の高さに構えた。


 あれは……クロスボウ?


 形状と構え方からしてそのように見える。エルフは機構に頼らない弓を重んじるが、クロスボウが大陸で流通していることくらいは知っていた。

 そして――


「――――――」


 オークが一体息絶える。放たれたボルトがオークの頭蓋を粉砕し、貫通して飛び去っていた。

 男は死んだオークに見向きもせず、弩弓を装填する。それも敵に対して歩み寄りながら。上部のレバーを引き起こして弦を引き、腰元から取り出したボルトをつがえて流れるように再び構えた。

 射出、命中。

 歩きながら撃ったのが悪かったのだろう。二射目のボルトは急所ではなく、残ったオークの肩を砕くに留まった。

 男は気にした様子もなく――あろうことか、今度はクロスボウを背中に担ぎなおしてオークの元に駆けだしたのだ。


「え、なんで? そのまま撃てばいいじゃない!?」


 肉薄する。叫び声をあげて斧を振り上げるオークに対し、男は手元を青白く発光させて、


 ――――勝負は一刀。その首を刎ねて終わりを告げた。


 頭を失い、くずおれる巨体。僅かに残心を示して、男は緩やかに構えを解く。

 男の手には長柄の槍があった。……いや、穂先が湾曲していて片刃のようだから、薙刀のような何かなのだろうか。どちらにしても、あまり見る類の武器ではない。

 血糊の付いた刃を拭い、尻尾を振って駆け寄ってくる白狼の頭をわしわしと撫でつける姿は、さっきまで殺し合いをしていたようには見えない。

 そして、


「――――ぁ……」


 目が合った。そうエルモは直感した。

 フードの陰で見えないはずなのに、その眼が観察するような視線を向けてきているのを、確かに感じた。



   ●



「――――一か月ぶりだな、ノーミエック!」

「猟師さんも、元気にしていたようでなによりです!」


 猟師の呼びかけに、船縁から身を乗り出して商人が大声で応えた。

 エルモはもう突っ込む気すら起きない。この船はまだ航海中。桟橋に辿り着いてもいない。――この灰色の猟師は、平然と海面を歩いて(・・・・・・)船のそばまで近づいてきたのだ。


「……なんだ、長旅のくせに顔色がいいな。よほど商談がうまく進んだと見える」

「お陰様ですよ。あの果実のおかげで随分と航海が楽でした。……もっとも、あの臭いには閉口しましたがね!」

「違いない! 今後はそれも課題だな。臭いと量と持続時間。これをクリアできれば交易の規模がまた変わってくる」

「確かに行きは船倉の半分をあの実が占めていましたからね。どうにか体積を減らしてやりたいところです。

 ……ところで猟師さん、先ほどは素人目にも妙な戦い方をしていたようですが」

「ああ、これか」


 そう言って、男は得物を掲げてみせた。……肉厚で幅広の刀身に、長い柄が伸びている。


「……偃月刀だ。爺さんが試しに作ってな、ちょうどいい試し斬り相手を探していたところだったんだ」

「それもあなた方がいた世界の武器なんですか? 随分と重そうですが……」

「重いぞ。これで十五キロ弱はある。まあ、戦鎚よりは少しましという程度なんだが」

「常々思うんですが、戦鎚といい斧といい、どうしてあなたはそう重量級の武器を好むんですか?」

「別にこだわりはないよ。今も使っている牙刀だって金属製より数段軽いし。スマートな戦い方にはいつも憧れる。……でも、使い慣れた武器がこれでね。ついつい要所で選んでしまう」


 そこまで言ったところで、猟師は商人の隣で船縁にもたれかかっていたエルモに視線を転じた。


「ところでノーム。見慣れない顔が船上にいるようだが」

「いつも言うように人の名前を土精霊みたいに略さないで下さい。――この方はエルフの『ご客人』です。森を出たいということなので、船に乗せる代わりにインベントリを貸していただいているのです」

「なるほど。商人として目ざといやり口だ」

「その点に関しては文句を言わせていただきたい! 私はてっきり、最初の航海はあなたかウェンター氏に同道して頂けると思っていたのに!」

「それでは意味がないだろう。俺たちの力を借りずとも、自力で到達できなければ」

「私は先の見えない旅に保証が欲しかった、と言っているのです。こうしてエルモ嬢の力がなければ――ああ、失礼」


 そこで、商人は我に返ってエルモに向き直った。


「……改めましてご紹介しましょう。パルス大森林からはるばるやってこられた、エルフのエルモ嬢です」

「ど、どうも……」


 ……置いてきぼりからのキラーパスはやめて下さい。どう反応すればいいのかわからない。


 恐る恐る声を上げたエルモに対し、猟師はそれまで被っていた灰色のフードを捲りあげ、顔を露わにした。

 全体的に細い面立ち。赤みがかった黒髪を伸ばして後ろに縛り上げている。

 目つきはどこか茫洋としていて掴みどころがない。


「…………ふむ、なるほど」


 男はひとしきりエルモを見つめると、何に対してなのか納得したような風に頷いて、ふっと目元を和らげた。


「エルフは気位が高く付き合いづらいとの話だが、プレイヤーならそんなこともあるまい。――ようこそエルモ、歓迎しよう。

 俺は廃棄――もとい、ハスカールの猟師兼、傭兵団『鋼角の鹿』の斥候、コーラルだ」



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:37(↑22)   戦力値:641

HP:237/237(↑112)

MP:100/100(↑20)

SP:122/122(↑9)


攻撃:165(↑88)

防御:147(↑74)

技量:248(↑134)

敏捷:194(↑94)

魔力:175(↑93)

抵抗:165(↑96)

HP自動回復:7/sec(↑4)

MP自動回復:8/sec(↑3)

SP自動回復:15/sec(↑2)


水魔法:C 光魔法:D


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:走行Lv10(↑4)(Max)【基礎技能修了】 

        疾走Lv6(New) 耐久走Lv7(New)

        軽業Lv13(↑6) 登攀Lv11(↑6)

        水泳Lv13 潜水Lv4

        鑑定Lv4(↑2)

        夜目Lv12(↑5) 遠視Lv8(↑6)

        気配察知Lv14(↑8) 追跡Lv12(↑7)

        隠密Lv15(↑6)

  学術:天文学Lv4(↑1) 薬草学Lv7(↑2)

  生産:採集Lv7(↑3)

     皮革Lv11(↑5) 解体Lv12(↑6)

  耐性:水属性耐性Lv11(↑9) 火属性耐性Lv7(↑5) 光属性耐性Lv7(New)

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv7(↑5) 麻痺耐性Lv12(↑6)

     幻惑耐性Lv3(New)

     疾病耐性Lv5(↑3) 耐寒Lv13(↑3) 耐熱Lv8(↑6)

     睡眠耐性Lv10(↑4) 渇水耐性Lv1 飢餓耐性Lv2

  戦闘:両手武器Lv10(↑6)(Max)【基礎技能修了】

     長柄武器Lv10(↑1)(Max)【基礎技能修了】

     短剣Lv5(↑3) 片手斧Lv3(New) 片手剣Lv1(New)

     二刀流Lv2(New)

     両手斧Lv6(New) 両手剣Lv1(New)

     長柄槍Lv5(New) 長柄鎚Lv6(New) 長柄杖Lv7(New)

     格闘Lv9(↑2) 噛み付きLv5(↑3)

     クロスボウLv15(↑6) 投擲Lv8(New)

     暗殺Lv8(↑5) 強襲Lv4(New)

     重装Lv7(↑5) 軽装Lv8(New)

     防御Lv6(↑3) 受け流しLv9(↑6)

     剛体Lv8(↑4) 身体強化Lv9(↑4)

     雄叫びLv6(↑4)

  魔法:魔力操作Lv12(↑3) 魔力放出Lv9(↑4) 魔力変換Lv6(↑2)

     魔力感知Lv13(↑7) 瞑想Lv6(↑3) 同調Lv6(New)

  軍事:統率Lv5(↑4) 指揮Lv4(↑3)

  特殊:死力Lv6(New) 狂戦士Lv4(New) 明鏡止水Lv3(New)


称号:えべっさん


Exp:13

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― 新着の感想 ―
[良い点] スムーズなタイムスキップ [一言] やっぱり白い狼ちゃん?くん?は氷の魔法を使うんですね
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