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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
雪山を行く狼連れの傭兵
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死兵とは誰を指す

 数日前に届いた辺境伯軍勝利の報せは、遠方ながらわずかに漂っていた不安感を払拭するのに十分なものだった。

 作戦は見事成功。半民混じる歩兵部隊は被害を出しながらも立派に魔物の群れを堰き止め、停滞した敵を竜騎士たちがその業火で焼き尽くした。

 報せに来た伝令も、竜騎士が攻撃を始めて勝利を確信してから出されたものらしく、浮かれた調子で語られる戦話に村人たちは快哉を上げていた。


 ――――それが、僅か一日遅れでもたらされた早馬で塗り替えられた。

 息を切らせた伝令兵は、村人と傭兵を広場に集めた。

 戦況が確定し、戦闘は散発的なものになっていたとき。竜騎士たちも広範囲に散った敵を撃つために散開していたという。

 防御線を守る兵たちにとって、息の詰まる戦闘は終わり、あとは追い首を狩るだけの事後処理だけが残っている、はずだった。


 突然、敵後方から鬨の声が聞こえた。

 緊張の弛んだ心はそれを一度は幻聴と判断した。だが二度三度と続くとそうもいかず、ついに敵の姿が見えたとき、兵たちは恐慌に陥ったという。

 40人余りの死者をだし、東の防御線の一部が突破され、纏まった数の魔物が領内に入り込んだのだとか。


 ……まあ、そうだろうな。

 起きたことは関ヶ原で島津がやらかした敵中突破みたいなものだ。

 勝ちの決まった戦で本気で戦える兵なんてそうはいない。誰もが無傷で帰ることを考える。そんな中で現れた死に物狂いで突撃してくる魔物の一隊。そんなもの、まともに相手にできるものではない。

 竜騎士の攻撃で勝利が確定した直後、周辺の軍が撤収を考えている頃に起きた出来事、と聞けば、むしろ狙ってやったのではないかと勘繰ってしまう。


「――――魔物の群れは半島の東を回り込み、明日の夕方にはこの村に到達するだろう。急ぎ辺境伯が軍を再編成している。それまで各自、どうにかして身を守るように」


 伝令兵の言葉に乾いた笑いが漏れた。

 魔物除けに腐れトマトを使うような村が、自分の身を守る?


「…………敵の規模は?」


 それまで目を瞑って報告を聞いていたイアンが尋ねた。今まで見たこともない無表情で。


「おそらく、50以上。オークやその変異種が大半を占めている。ただ、なかには人狼やサーベルキャットみたいにすばしこくて矢の当たらない奴もいる。スタンピード中、魔物は種族に関係なく群れようとするから、ここに来るときにはもっと増えているだろうが」

「援軍はいつ?」

「少なくとも、明後日まではかかる」

「竜騎士は何をやってるんだ? あの戦場からならひとっ飛びだろう?」

「それが――」


 伝令は言いにくそうに言葉を切った。


「戦場の北方に、魔族が目撃された。動ける竜騎士は血眼になってそっちを探している。魔物の被害を受けるのはここだけになる予定だし、重要度は魔族の方が上だと判断された」

「…………」


 沈黙が辺りを支配した。

 見捨てられた――――村の誰もがそう感じただろう。正規兵を追い散らす50以上のモンスター、援軍は間に合わず、頼りの竜騎士は功績稼ぎにそっぽを向いた。

 逃げ出すのは可能だろうか? ――難しいだろう。この村で貨幣が流通し始めてまだ半年も経ってない。財産の大半は持ち運びの難しい家具や仕事道具。逃げたところで先がない。どこに逃げてもその軽い財布が空になれば、物乞いか身売りか、惨めな未来が待っている。

 取れる手段は少なく、光明はあまりにも遠い。


「……そうか」


 軽く頷いて、傭兵団長は立ち上がった。

 ぱん、と自分の頬を平手でたたくと、そこには彼らしい自信に溢れた顔が戻っていた。


「よっし、軽ーい残党狩りの仕事のつもりが、随分と大がかりになっちまったじゃねーの」

「お、おいまさか、迎え撃つつもりじゃねえよな!?」


 誰が言った言葉なのか。首を巡らせて確認すると、意外なことに傭兵団の一人が発したものだった。

 団長はその男を見ると、苦笑して言う。


「ボルドー、お前は領都で加入してきた団員だから、これが初めての実戦になる。……喜べよ、初陣がこんな派手になるなんて、なかなかあるもんじゃないぞ!」

「ふざ……ふざけるなぁ!」


 男が激昂した。顔を赤くして目を吊り上げている。


「勝てるわけがねえだろう!? 先輩方だって言ってたじゃねえか、オーク一体殺すのだって、あんた達が二人がかりで何とかだったって。それが50だぞ!? 俺達じゃ桁が足りねえだろうが!」

「……殺しきるなら、三倍は欲しいな」


 団長の隣にいた男が静かに呟いた。濃紺の髪が特徴的で、背中に柄の長い両手剣を背負っている。

 どこかアジア的な風貌なところからみて、プレイヤーかもしれない。


「ああ。――だが守りを固めて追い返すだけなら、できないほどじゃない」

「ここの人間にも手伝ってもらいましょう。堀を掘って逆茂木を作る。丸一日猶予があるならそれくらい間に合うはず」

「おい、だから……っ!」


 苛立たしげに男が叫んだ。


「団長! こんな村見捨ててさっさと逃げましょう! 竜騎士だって見捨てたんだ、俺たちが逃げたって誰も文句は言わねえ! 畜生! なんでこんな! 俺はあんたが、あんたのでかくなるって夢に賭けてこんなところに! くそ! こんな、クソみたいな村で死ぬためじゃ……!」

「ボルドー」


 イアンは膝をついて絶望する男を見下ろして言った。


「――――二人死んだ」

「え……」

「この半島で、ワイバーンを一体狩るために、古参の傭兵が二人死んだんだ。……まあそうだよな。ワイバーンなんてドラゴンのいる、三つの火山の近くにしか棲んでない。うちの団の誰もがワイバーンがどういう魔物なのかぼんやりとしか知らなかった。攻略法を確立する前に挑んじまえば、そりゃ被害はデカくなる」


 何でもないことのように嘯く。だがその手は、固く握りしめた手は――


「――知らなかったろ? だろうなあ、広めた話じゃ俺たちはワイバーンに圧勝したってことになってるからな。だが実態はこの通りだ。失望したかい?」


 ぽかんと口を開けて呆然とする男と対照的に、イアンは不思議と雄弁だった。

 おどけたように肩をすくめて歪める口元と裏腹に、その瞳は欠片も笑っていない。


「二人の名前は付き合いのあった俺達しか知らない。死体だって埋葬費をケチって集団墓地にポイだ。あいつらは世間に――歴史に名を残すこともなく消えていった。

 俺はあいつらのことを表には出さない。絶対に。『鋼角の鹿』はワイバーンを余裕綽々に討ち取った、その評判が喉から手が出るほど欲しいからだ。あいつらだってそう言ってた。自信満々に『一人も損ねることなく狩って見せる』ってな。だからあいつらは死んでない、そういうことにした。

 ――今回だってそうだ。俺たちはこの村を――竜騎士様が見捨てたこの廃棄村を守り抜いて名を上げる。そんじょそこらの情けねえ風見鶏みたいな雇われじゃない、精強で義に厚い傭兵団。俺たちが成り上がるには格好の肩書だろう?

 ……ここでは退かねえ。退いてたまるか。こんなところで躓いちゃ、先に逝ったあいつらに面目が立たねえ」


 そこで傭兵団長は周囲を見回した。野心に燃える眼が爛々と絶望を跳ね除けている。


「いいかお前ら。お前らのうち何人かは死ぬ。その屍を踏み越えて、残った奴は上を目指す。恨みっこなしだ。未練があるなら今のうちに抜けておけ。

 ……だがな、これだけは約束してやる。俺は絶対に、その死を無駄にしねえ。他の誰にも俺たちを、はした金で気軽に雇って死にに行かせられる捨て駒だなんて言わせねえ、そんな傭兵団にして見せる。お前らの死体がこの鋼角の鹿をそう育て上げる。

 ――――だからお前ら、頼むから死んでくれ」


 そう言って、傭兵団長は踵を返した。村を守る手立てを考えるのだろう。



   ●



「――――何人が残るかな?」


 その問いに、イアンは苦笑で返した。


「五人は抜けるかもな。新入りにはきつい仕事になる。――それ以外は大丈夫だ。みんな覚悟はできてるから」

「人望のある団長さんだ。死ねと言われた部下が従うんだから」

「皮肉はやめろよ」


 ……それは心外。褒めたつもりだったんだが。


 今頃傭兵たちは魔物を迎え撃つために村の防備を整えようとしている。村の北方に門を築くように空堀を掘り、杭を打ち付け、石を集めて積み上げる。村人も総動員で手伝っていて、この調子ならどうにか間に合いそうだ。

 鍛冶屋と爺さんは大忙しだ。傭兵団はその半数が弓を扱うため、洒落にならないほどの矢が必要になってきたからだ。残りの半数も引くだけなら何とかできるらしく、本番では全員に弓を持たせるという。

 村の若い男たちも戦線に加わるらしい。雑貨屋で在庫になっていた山賊の武器を持ち、傭兵の後ろで石を投げる仕事だ。――む、投石を馬鹿にしている気配がするが、そう捨てたものじゃないぞ? うら若きダビデ君が巨人を殺したのも投石によってである。スリングは作製にも時間がかからないし、素人の習得も早い。まとまった数を運用できればそれなりに戦力となるだろう。


 方向は定まった。あとは各々に役割を振っていけばいい。

 ならば、俺が出来ることといえば何だろうか。


「――それで、あんたは俺に何をしてほしいんだ?」

「…………」


 傭兵団長はきまり悪げに頬を掻いた。はた目から見てもわかる、言いづらそうな顔だ。


「……この村の猟師のあんたに、頼みたいことがある。……下手したら死ぬ仕事なんだが」

「正直は美徳だがね、団長さん。あんた、自分の部下でもない人間に死ねというのか?」

「わかってる。でもここの地理を知っているあんたにしか頼めない」


 済まなさそうな顔。だが頼み事自体はやめないらしい。


 ……やれやれ、そんな顔で死地に送られちゃ、部下だって心残りが出てくるだろうが。


「外部委託は高くつくもんだ。特に足元を見られた場合は。

 ――――終わったら支度金代わりにぶんどってやるから、覚悟しておくんだな、未来の団長さん?」



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:14(↑2)   戦力値:270

HP:125/125(↑10)

MP:80/80(↑26)

SP:113/113(↑2)


攻撃:77(↑7)

防御:73(↑4)

技量:114(↑14)

敏捷:100(↑12)

魔力:82(↑15)

抵抗:69(↑10)

HP自動回復:3/sec

MP自動回復:5/sec(↑1)

SP自動回復:13/sec


水魔法:C 光魔法:D(New)


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:走行Lv6(↑1) 軽業Lv7(↑2) 登攀Lv5(↑1)

        水泳Lv13 潜水Lv4

        鑑定Lv2

        夜目Lv7(↑1) 遠視Lv2(↑1)

        気配察知Lv6(↑2) 追跡Lv5(↑1)

        隠密Lv9(↑1)

  学術:天文学Lv3 薬草学Lv5(↑1)

  生産:採集Lv4(↑2)

     皮革Lv6(↑1) 解体Lv6(↑1)

  耐性:水属性耐性Lv2 火属性耐性Lv2(New)

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv2 麻痺耐性Lv6

     疾病耐性Lv2 耐寒Lv10(↑2) 耐熱Lv2(New)

     睡眠耐性Lv6 渇水耐性Lv1 飢餓耐性Lv2

  戦闘:両手武器Lv4 長柄武器Lv9(↑1)

     短剣Lv2(↑1)

     格闘Lv7(↑1) 噛み付きLv2

     クロスボウLv9(↑2)

     暗殺Lv3

     重装Lv2 防御Lv3 受け流しLv3

     剛体Lv4 身体強化Lv5(↑1)

     雄叫びLv2

  魔法:魔力操作Lv9(↑2) 魔力放出Lv5(↑2) 魔力変換Lv4(↑1)

     魔力感知Lv6(↑2) 瞑想Lv3(New)

  軍事:統率Lv1 指揮Lv1


称号:えべっさん


Exp:10

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