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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
幕間
463/494

とある警備隊長の場合

 ドアノッカーが耳障りな音を立てる。それに応えてマリア・クルスが扉を開けると、招かれざる来客はにへら、としまりのない笑みを浮かべた。


「――どうも、奥さん。ちょっとお時間よろしいですか?」

「警備隊長さん……」


 王都警備隊、その北区画を受け持つ隊長。名をカザフスという。日焼けした肌に褐色の髪を首元で切りそろえた女性で、簡略化した王都制式の軽鎧を纏っていた。

 歳は若く見える。しかし加齢が外見に出ない『客人』を外見で判断することはできないし、何より彼女は十年以上にわたって王都の警備職に就いている人間だ。一介の衛兵時代に魔族殺しを成し遂げ王国軍から抜擢を受けた人間を、どうして侮れるはずがあろうか。


「困りますわ、隊長さん。わたくし、まだ身支度が整っておりませんのに」

「やー、そんな畏まらなくても。別に屯所にご同行頂きたいわけじゃないんですよ? 事件についてちょーっとだけ進捗があったので、二、三お話を伺いに来ただけですので」


 言外に迷惑を伝えても驚くほどの面の皮で弾かれる。ふてぶてしくヘラヘラとにやつく顔の下で、カザフスの視線は探るようにマリアの顔を観察していた。


 ……なるほど、どうやら彼女は何か面白いものを見つけたらしい。


 マリアは観念するように首を振ると、顔に笑顔を張り付けて来客を招き入れる。


「そういえば、ちょうど珍しい葉が手に入りましたの。一服いかがです?」

「いいですねー。いただきます、是非」


 無遠慮に食いつくカザフスに思わず顔が引きつるのを感じた。幸いにして背を向けていたために気付かれなかったが。



   ●



 二週間ほど前、雷雨の夜のことである。王都の北城門の付近にて一人の男が死体の姿で発見された。

 殺害方法は不明。死因は胸を肋骨ごと抉り取られた傷からの失血によるものと思われる。仰向けに倒れた男から夥しい量の血液が広がっており、早朝の散歩のために付近を通りすがった老人が発見したときには事切れていた。


 凶器は不明、目撃者もなし。男の身元から容疑者を割り出そうにも、偏屈な錬金術師という男の人となりは驚くほど交友関係が狭く、誰も彼もがアリバイをもっている。特定は困難とされた。

 労多く実り少ない捜査である。現場の衛兵たちの士気の低さも相まってあわや迷宮入り――――となりかけたところ、横入りがあった。誰あろう、このカザフスである。

 王都東城門地区を受け持つ警備隊長である彼女は、本来管轄外でありながらこの事件の捜査に志願した。


 ――そこからだ。何を考えたのか、事件現場と遠く離れたマリア・クルスの邸宅に目をつけたカザフスが、頻繁に入り浸るようになったのは。


「やー甘露甘露。相も変わらずいいお手前で。うちの官舎にも茶葉は備え付けてあるんですけど、やっぱり雲泥の差ですねー。あんなのただのダストですよダストティー、砂糖とミルクぶち込んでチャイにするしか使い道ねーじゃんって!」

「それは……お粗末さまで」


 せっかく淹れた高級茶を感慨もなく無造作に飲み干すカザフスに、マリアは貼りつけた笑みで応対した。ポットを持つ手がぎしりと軋む。


 ……兵士が飲むものと違う? 当然だ、いったいこれにいくらかけていると思っているのだ。

 騎士団領から仕入れた高級茶も、ブレンダと王都との間にあるゴダイヴァをロドリック王子が占拠したせいで流通が滞ってきている。王子とラムセス騎士団長の間柄は険悪ではないものの、それでも関所を設けたことによる物価高は免れない。特にこういった嗜好品は去年と比べて倍ほどの価格差が生じていた。

 贅を控え、出費を抑えても、それでも茶葉の備蓄を絶やすわけにはいかない。特にマリアのように人の上に立つ人間が来客に振舞う茶をケチったなどと人の口に広まれば、それこそ沽券に関わるからだ。


 ――――それを、この平民は。


「あ、そうだ奥さん。お茶といえば知ってます? 最近下町の方で紅茶ゼリーを出す店が出来たんだとか。どうせ葉っぱが安物で味は大したことがないんでしょうけど、見た目はすごく綺麗って話ですよ」

「あら、それは是非一度頂いてみたいものですわね」

「おや、ちょっと意外。ご存じでなかったんですか?」

「生憎とわたくし、主人が亡くなってからそういうものにトンと疎くなりまして。なかなか遠出の機会にも恵まれませんし……」


 そうとも、忙しいのだ。

 二年前に夫が他界してから、遺された商会の舵取りをマリアが一手に担っている。本来ならばこんなくだらない接客など目もくれず、算盤と書類に向き合っていなければならないのに。


「――へぇぇ、本当に知らないんですかぁ?」


 こちらの苛立ちを知ってか知らずか、とぼけた様子でカザフスが目を丸くした。おかしいなぁ、知ってると思ってたのに、などと空々しくぼやく姿に、思わずマリアも目を険しくして――



「なら、これについてもご存じでない?」



 そう言って、カザフスが唐突に黒ずんだ物質を食卓の上に放り投げた。


 何であるかは判別がつかない。まるでスライムを黒焦げにした残骸のような代物だ。たとえそれが何かの道具であったとしても、この外見で見分けることはできないだろう。


「これは……?」

「現場に残されていたものです。いや、発掘されたというべきかな。――これ、城壁にこびり付いていた焦げ付きの一部です」


 当然ともいうべきマリアの疑問に、何でもないことのようにカザフスが答えた。


「最初はこれが何なのかわからなかったんですけどねー、偶然棚から落ちて来た磁石に反応したおかげでようやく取っ掛かりが掴めました。――――おそらく、これは弾丸です」


 視線がマリアの顔を舐める感覚がした。


「やー、実験には手間取りました。何しろ安全を鑑みれば腕のいい火炎使いが二人は必要だったので。お上も引き抜きの声はやかましいくせにこういう時の手伝いは渋るんだから始末に負えない」

「カザフス様、お話の続きを」

「ありゃ、これは失礼。えー、何の話だったか……あぁそうだこの焦げ跡の話だった。

 ――この黒い物体なんですがね。この状態でも磁性の強い金属なんですが、実はこれ液体になるまで加熱しても磁性を失わないトンでもメタルだったことが判明しまして」

「磁性?」

「磁性流体ってやつです。いや、詳しくは私も知らないんですけどね。大抵の金属は一定以上の温度まで加熱すると磁石に反応しなくなる。ところがこの金属はマグマみたいにドロドロに溶かしても性質を失わないようなんですよ。さすがマジカルワールド、そんなものが天然に埋まってるとか半端ないと思いません?」


 仕組みはあくまで単純です、とカザフスが説明を続ける。


「この金属を弾丸にして銃身に装填し、流体になるまで加熱する。そこに磁力を帯びた銃身で指向性を持たせ、目標へ投射する。……標的は超高熱の金属気体に晒され、胸の一部を抉られるように喪失して死亡する。

 これを聞いたときはびっくりしましたよ。なんでファンタジーな世界観でビーム銃が生まれてるんだって」

「ビーム銃、ですか?」

「正確には荷電粒子砲――プラズマレールガンというのが正しいですねー。もっとも、この通り励起物質がプラズマ化せずお焦げになって残っちゃってる。いいところ三十点ってとこですか。コンセプトは正しいのにアプローチがあまりにも稚拙だった」


 稚拙、と製作者をひと息に切って捨てるカザフス。それを作るのにどれほどの資金と時間を費やしたのか知りもせずに。


「んー、なんて言うのかなー。うろ覚えの原理を又聞きに聞いた開発者が、ありあわせの技術でどうにかそれらしい形に持ってきた……って感じですか。固体液体気体のさらに上の段階にプラズマがあるなんて、それこそ中世の人間に思いもよらない概念ですし。そんな状況でよくここまで形にしたなっていうのが正直なところなんですが」

「ぷらずま?」

「――なるほど、やっぱりご存じでない?」


 にい、と口端を吊り上げてカザフスが笑った。食卓の上でまだ湯気を上げる紅茶をひと息に呷ると、正面からマリアを見据えてくる。こちらの挙動を欠片も見逃さないように。


「要は新しい兵器です。どこかに口を滑らせたプレイヤーでもいたんでしょうね。それを小耳にはさんだ錬金術師が実際に開発を試みた。岩壁だろうがドラゴンの鱗だろうが容易に溶かして貫通する兵器だ、実用化にこぎつければ技術革新も夢ではない。

 恐らく相当に困難な道程だったことでしょう、彼の生活を調べてみればわかります。少なくとも三代以上にわたる世代を超えた研究人生。原理をじかに聞いた人間も既に他界し、何もかも手探りのなか薬品と銅線と冶金に没頭し続けた。成功する確証などとうに失われ、彼自身自信を失っていた。

 ――――そこに。そう、そこに強力な後援者が現れた。ところで奥さん、四年前に地下王国へ硫黄を注文されませんでしたか? 金額からするとごく少量、しかし運び屋の証言では木箱の中身は鉛でも詰まってるみたいに重かったとか」


 刺すような視線。後援者が何者なのか、語るまでもないとばかりに彼女は言葉を続ける。


「二週間前、事件の前日です。彼が立ち寄った喫茶店での様子をウェイターが覚えていましたよ。随分と浮かれた様子だったとか。『これで祖父も報われる』、『戦争が一変する』……ぼそぼそと独り言が不気味でよく覚えていてくれましたよ」

「狂人の戯言でしょう。取るに足りませんわ」

「そうでしょうか? そうかもしれません。とりあえず私は取るに足る方(・・・・・・)にベットしましょう。

 肝心なのは彼の発明。数世代を経て完成した未知の兵器です。実は彼の自宅に資料が残っていまして――――えぇ、ビンゴでした」


 青白い粒子が飛び交い、虚空からカザフスが一枚の古ぼけた羊皮紙を取り出した。精密に描かれた設計図と細かく書き込まれた注釈は、マリアがどれだけ手を尽くして探させても見つけられなかったものだ。

 どうやってこれを見つけたのか。問い質そうにも、この女が答えるわけがない。


「繰り返しますが、原理は稚拙なんですよ。弾頭を装置に装填し、火魔法で加熱、圧縮し、磁力で射出する。魔法の素養があれば時間はかかってもだれでも撃つことができる。貴族家から嫁いで来られた奥さんならもちろん――」

「あら、残念ね警備隊長さん」


 本当に、残念なことだ。

 これほど得意げに語られる推理に水を差すなんて、それこそ笑いが止まらない。


 いまだに勘違いをしているカザフスを遮り、マリアは会心の言葉を放つ。


「申し訳ありません。わたくし、魔法は使えませんの」

「――――――」


 言葉を失った彼女の表情の、何と痛快なことか。

 込み上げる笑いを抑え込みつつ、マリアは続ける。


「――先天的な体質でして、MPも、魔力も、まったく育たないのです」

「……まったく?」

「えぇ、まったく。どちらも一桁台ですの」

「ひとけた?」

「私が貴族家に嫁ぐことができなかった理由です。魔法の才能は出世にも関わりますので」


 お疑いなら鑑定を受けても構いませんわ、と念押しされてようやく理解が及んだらしい。

 カザフスは落ち着きのない目つきで視線を彷徨わせると、軽い咳払いとともに立ち上がった。


「…………また来ます」

「よろしいのですか? 随分と惜しかったのに」

「引き際が肝心ですので」

「あら、まぁ。いつでも歓迎いたしますわ」


 本心からの笑みで邪魔者を見送る。官舎に戻ればこの女はさぞ悔しげに地団太を踏むことだろう。そのさまを目に収められないのが酷く心残りだった。

 踵を返したカザフスはいそいそと正面扉に手をかけると、何か思い出したように動きを止めた。


「――――あぁ、そうだ。最後に一つだけ」


 振り返った女の顔には、いつもの胡散臭い笑顔。


「先ほどのご挨拶の前の話なんですが、お庭を拝見させていただきました。いやぁ、手入れの行き届いた素晴らしい花壇で。雑草なんて一つも見当たらないとか、ウチじゃ考えられませんわ」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

「いやね、ウチの実家でもやってるんですよ、家庭菜園。でもウチのおかんってやることが大雑把だから雑草の抜き残しが至る所に残ってて、三日もすれば元の木阿弥でボーボーになっちゃう。やー、大変な趣味なんですねぇ、園芸って」

「はぁ……」


 なんだ、本当に庭を褒めているだけなのか。

 心底感心した様子のカザフスの称賛に気のない返事を返す、と――


「――――で、ちょっと気になったんですけど」


 にこにこと、あくまで世間話のような気軽さで、



「奥さんの園芸用の下履き、どこです?」



 そんな台詞を口にした。


「え……?」

「やだなぁ、下履きですよ下履き。ウチのおかんの話したでしょ? おかんってば園芸用に運動靴を履いてるんですけど、新品の堅い靴を使うとしゃがむときに足が痛くなるからって、ある程度散歩用に使い古してから庭用にしてるんです。当然その頃には靴はぼろくなってて、泥や草の汁なんかもくっついて汚れちゃんですよね。

 で、話は戻るんですけど、奥さんの庭に園芸用の靴が見当たらないんですよね。失礼ながらご挨拶の前に一通り見て回りました。下駄箱は外向き用の革靴や木靴ばかり、勝手口につっかけはあるけど明らかに土いじり用じゃない。庭の入り口の棚の中に作業靴らしきものがあるけれど、あれは新品過ぎる。まるでここ数日で(・・・・・・・・・)買い換えたかのようだ(・・・・・・・・・・)


 古い靴を置いていないのが不自然なのだとカザフスは言う。言いがかりのような言い分をこちらに投げつけ、反応を窺っているのだ。

 古い靴をどうしたかだと? あの履き慣れた使いやすい下履きがどうなったかだと? そんなものは決まっている。



 使ったのだ(・・・・・)



「――――捨てましたわ」

「捨てた?」

「えぇ、ずいぶん古くなりましたので」

「では、あの棚の靴は?」

「新しい下履きですわ。ちょっと足首が痛くなってしまいますけど、我慢できないほどではありませんので」


 這うような視線。じりじりと春先の虫の音がやけに耳に刺さる。

 抜け目ない瞳がマリアの顔を突き抜けて動揺の有無を検めているようだ。

 目を細めたカザフスは軽く頷いて言った。


「なるほど、我慢強いんですね」

「よく言われます」


 それでは、と軽い会釈。踵を返したカザフスは今度こそ扉を開き――


「あー、忘れてた!」


 何かを思い出した様子で再び振り返った。


「すみません、丁度大切なご報告を忘れてました。最後にもう一つだけよろしいですか?」

「今度は何でしょうか、隊長さん?」

「いえいえ、ほんとに大した質問じゃないんですよ、えぇ。――爪切りは何を使ってらっしゃいます?」

「はい?」


 なんだ、いきなりどうした?

 突拍子もない問いに目を丸くしたマリアに、カザフスは肩をすくめる。


「ちょっとしたトリビアがあるんですよ、日常生活に役立つか立たないか微妙なくらいの。巻き爪のなり方っていうんですけど」

「巻き爪?」

「爪切りの方法を間違えたりサイズの合わない靴を履いたり、爪にかかる圧力の変化によって巻き爪が生まれるんだとか。当然その指は痛みます。――――そう、歩き方にも影響が出るくらいに」


 ちらり、とカザフスの視線がマリアの足へと向かった。


「痛みの少ない歩き方をすれば、もちろん靴の擦り減り方も普通と変わってきます。外側だけ痛みが激しくなったりね」

「……もしそうだとして、それがどうかなさいましたか?」

「いえいえ、私が言いたいのはですね、足跡も特徴的になる(・・・・・・・・・)ということなんですよ。ガッテンして頂けます?」


 足跡? 特徴が出る?

 事件現場で――――――まさか……!


「よほど急いでいたんでしょうねぇ、あるいはあの雷雨が全て洗い流してくれると期待していたのか。ですが残っていました、真っ赤な血の足跡が」


 靴は処分したはずだ。古着に包んでそれと分からないように、収集所に捨て置いた。

 しかし、万が一それが残っていたら?

 ごみを漁る人間はそれなりに多い。明日の衣食もままならない浮浪者をはじめ、富裕層の廃品から商品を見つけようとする古着商人。ピンやボタンといった金具を集めて溶け合わそうとする屑鉄屋。

 そんな彼らが、靴底に血痕を残した靴を見つけたら……?


「――――では、その靴を探すことから始めるのですね?」

「骨の折れる仕事ですが、これもお勤めですし」


 大丈夫、まだ猶予はある。

 騒ぎはまだ起きていない。なら靴は見つかっていないはずだ。

 収集所のごみを撤去するのは明後日。それまでに先んじて靴を回収してやればいい。

 手元に置いておくのが不安だったからつい雑な処分をしてしまったが、今度は自らの手で確実にやるとしよう。とりあえず、当分は庭に埋めておくのが丁度いい。


 そこまで頭の中で計算し、取り繕った笑顔でマリアは目の前の『客人』へ微笑みかける。


「その証拠品が見つかること、心からお祈り申し上げます」


 女が去る。扉が音を立てて閉じる。

 誰もいなくなった玄関口で立ち尽くしたマリアは、渾身の力を籠めて玄関扉を殴りつけた。



   ●



 やー、今回は本当に面倒な事件でした。

 この魔法全盛の時代でまさかハウダニットから攻めるだなんて思いもよらず、ここまで長引かせることになるとは……えぇ、まさに四半生くらいの不覚です。

 ですが今回の錬金術師殺害事件、そして未知の兵器なんちゃってプラズマレールガンの国外密輸未遂事件、どうやら両方とも解決に持っていけそうです。


 さて、ここからが問題です。

 犯人は今回、三つの想定外な不手際を犯しました。

 一つは実行犯の急な交代。

 二つは雷雨の影響による装置の暴発。

 そして三つめは装置の喪失です。


 塞翁が馬とでもいうのでしょうか。本来真犯人は表に出ることなく、錬金術師の殺害にあの装置がつかわれる予定もありませんでした。全ては表向きになることなく、静かな夜に起きた不幸な通り魔事件で済むはずだったのです。

 それを覆したのはこの雷雨。なにもかも、犯人の思惑すらも二週間前の天災はご破算にしたのです。

 城壁の焦げ跡、マダムの爪の色剥げ、雷雨で行われた殺人、消失した下履き。

 全ては想定外。犯人はこれにより手がかりを残したうえに、肝心の商品すら失ってしまいました。取り戻そうにも開発者たる男は殺したばかり、材料は用意できても原理がわからなければ組み立てようがない。忸怩たる思いであったことは想像に難くありません。


 ――――さて、解答編です。

 餌は撒きました。網も張りました。あとは獲物がかかるのを待つだけ。

 であるならば、残りの茶番にわざわざお付き合いいただく必要はないでしょう。

 語るまでもないことをわざわざ語る面倒とか御免ですし、これにてお開きと致します。


 ご清聴ありがとうございます。カザフスたんでした。


「――――隊長? 何ひとりでぼそぼそ喋ってるんです?」

「もう少し空気読みなよ今泉君!」

「イマイ……誰?」

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