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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
決断を迫る者
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PUMPKIN SAGA 外伝 『戦士』

 南海から得体のしれない怪物がパルス大森林に攻め寄せてきてから二ヶ月が過ぎようとしている。その間、エルフたちの被害は惨憺たるものがあった。

 後背を突かれたエルフたちは南方の村落への救援が間に合わず、その住民の大半が犠牲になることになる。数にしておよそ百五十余り、生存者は井戸の中に身を潜めていた少女一人のみ。

 食糧と矢玉、後方の生産拠点の一つを失ったエルフたちは、更なる苦境に立たされようとしている。

 そんな中、エルフを束ねる長老たちはとある決断を下した。


 ――リザードマンとの戦いが激化する現在、南方の得体のしれない敵にかまけている余裕はない。速やかにこれを討伐し、北方の戦線を回復させなければならない。


 防衛線から呼びだされたのはひとりのプレイヤー、名をシギュン。斥候としてはそこそこ、弓も魔法も平均的な使い手であり、引き抜かれたとしても影響の少ないものとして選ばれた。……それと恐らく、プレイヤーの存在を快く思わないエルフの誰かが推挙に一枚噛んだのだろう。

 彼女に与えられた任務とは、南方に出現した海魔の正体を探ること。どこを拠点にし何を口にし生存に何を必要とするのか。……コミュニケーションの可否については触れられなかった。敵対者はすべからく滅ぼすべし――そんなある種貴族的な価値観が今もなおエルフに染みついているのだろうか。


 南方へ出立した彼女の道程は穏やかならざるものだった。海魔の出現に生態系を乱されたのか、魔物が妙に活発化している。大陸帰りのエルラムが焼き払ったはずの人食い花(ラフレシア)までもが息を吹き返し、着々と生息域を広げようとしているところを見たときは溜息が出た。……果たして、この土地をエルフが取り戻す日は一体いつになるのだろうか、と。

 プレイ時間が折り返しになろうかという時分である。ふとした時に『終わり』を意識してしまうのは、自分なりにこのゲームに愛着を感じているからだろうかとシギュンは思う。


 そんな感慨を抱きながら密林に分け入り、南へと歩を進める。そんなシギュンを待ち構えていたのは、さらに鬱蒼と茂る見たことのない植生の蔓だった。

 ……否、見たことがないのではない。植物の蔓が有り得ない密度で視界いっぱいにびっしりと生え渡り、いく手を塞いでいるのだ。

 これほどの密度で生い茂る南瓜の蔓(・・・・)など、シギュンの人生でも見たことがない。


 ……あるいは、これが報告にあったカボチャ怪人の仕業によるものだろうか。

 数カ月前の壊走で生き延びた南方兵プレイヤーの報告を思い出しながら、シギュンは山刀を振るって蔓を伐り払い道を拓こうとする。

 壁のように道を塞ぐ蔓の山は存外しぶとく、二月も終わりでありながら道が開ける頃にはシギュンの額にはびっしりと汗が浮かんでいた。ぜいぜいと荒い息が白く空気を曇らせ、ようやく人心地付いた彼女が顔を上げると、



 ――――奴がいた。



   ●



「iiiiiaaiairrrr!」

「fungrrrgrriatahgn!?」

「や――――かましい……ッ!」

〔PUMPKIN-PUNCH!!!〕


 爆音が轟いた。

 唸りを上げて振るわれた拳が海魔の土手っ腹に突き刺さり、刹那の間もなくオレンジ色の爆炎が炸裂する。粉微塵に吹き飛んだ海魔だったものが辺り一面に転がった。


「おーぅ、いえー……」


 なに、あれ。

 怪人カボチャ女? 爆発してるんですけど。主にグロい魔物が。


 向かい来るは異形の怪物。滴る粘液、濡れ光る鱗とエラ。口端からはブクブクとあぶくを零し、判別不能な悍ましい讃美歌じみた鳴き声を上げる化け物。元は人間だったのか、身体の端に引っかかる衣服の切れ端が一層の気持ち悪さを醸し出す。

 見た目魚な外見からして世界観を間違えているとしか思えない。アメリカの片田舎(ダンウィッチ)とか、もっと出没に相応しい世界が別にあるのではないか。


 そして対するは異形の怪人。カボチャのヘルムに深緑のボディスーツを身に纏い、黄色いマフラーがたなびいて、ベルトのバックルから伸びるオレンジのラインが脈打つように発光しながら手足に伸びる。ヘルムからはわずかに口元のみを覗かせて、釣り目がちな眼窩の奥には青白い炎がともっていた。

 見るからに不審な怪人カボチャ女である。昭和平成時代によく放送されていた特撮モノでこんな怪人がいた気がする。街角で見たら通報待ったなしな不審者だった。


 ――――そんな、怪人が。


「こンの……魚もどきががぁ……!」

〔PUMPKIN―KICK!!!〕

「iirarrr!?」


 海魔を相手に、


「好き放題勝手に海水撒きやがって!」

〔PUMPKIN―ELBOW!!!〕

「ig!?」


 大立ち回り。


「お前らのせいで迷惑してんのさ、こっちは! 塩害で……っ!」

〔PUMPKIN―SPIRAL SHOOT!!!〕

「iiiii!?」


 天下無双とはこのことか。

 人型海魔を高々とリフトアップしたカボチャ女はぐるぐると独楽のように回転し、小規模な竜巻すら生じさせて海魔を投げ飛ばした。荒れ狂う竜巻に巻き上げられ、周囲の海魔までもが掃き溜めに掻き集められるようにひとところに集まっていく。宙に向かって次々と人型の何かが吹き飛ばされていく姿はまるで黙示録を題材にした映画のごとく――


「――ちょっとまった! それ螺旋(スパイラル)じゃない、むしろ錐揉み(ジャイロ)でしょうが!」


 思わず突っ込んだシギュンは悪くない。余りの光景に頭のねじが吹き飛んでいた。

 そんな彼女を見向きもせず、カボチャ女は高々と跳躍。綺麗なフォームでくるりと身を捻じり、鮮やかな動きで跳び蹴りに移行する。


「ファイナルデトネーション!」

〔APPROVE〕


 いま、とても物騒な掛け声と承認の声が聞こえたような。


 青白い燐光が噴き上がる。展開されたインベントリから溢れ出たのは無数のカボチャ。拳大のそれは相も変わらず人の顔のような表面をにやつかせ、意志を持つようにふよふよと浮遊しながら敵中へと殺到する。

 そして――


「畑の恨み、思い知れぇえええええぇええ!!」

〔PUMPKIN-BOMB FINAL DETONATION!!!〕


 いや、畑って何?


 間の抜けたシギュンの疑問など置き去りである。

 カボチャ女の放った跳び蹴りと同時に小カボチャたちが起爆し、連鎖的に爆炎が勢いを増していく。

 炎の中から降り立った女が華麗な着地を決めた背後で、天まで届こうかという爆発が海魔もろとも轟音を上げていた。


「…………わぁお、やっぱ世界観違くない?」


 そしてそれを見届けていたシギュンの瞳からは生気が抜けきっていたという。

――天よ聞け、地よ聞け、人よ聞け。

悪しき者は体に刻め。

ここに来たるはカボチャの戦士、万夫不当のパンプキン。

弱きを助け強きを挫き、この世唯一の悪を滅ぼさん。


次回、PUMPKIN SAGA 外伝『帝国』

――その野望、打ち砕け、パンプキン

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