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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
雪山を行く狼連れの傭兵
36/494

流動性選好説

「ほい、今回のお駄賃じゃ」

「え?」


 突然手渡された銅貨に、俺は呆気にとられた返事を返した。

 婆さんや、ボケるのが早くないかね? ここは物々交換が経済のメインを占める未開の魔境のごとき廃棄村ですよ。


 ここは薬師の婆さんの小屋。もう冬のど真ん中で、本格的に雪が積もってきている。

 こんな季節に足腰の曲がった老人が薬草集めに山に入るのは自殺行為。そういうわけで村の猟師たる俺が狩りの合間に採集に導入されているのだが、つい先日までその見返りは婆さんが調合した薬だったりする。

 痛みどめや毒消し、火傷用の塗り薬に風邪薬、さらには低質の回復薬。……しょぼいなどとは言っていられない。この季節は素材となる薬草そのものが見つからないのだ。それが雪に閉ざされる北方の半島となればなおのこと。なので俺にできるのは先代の冊子を首っ引きにして、それらしき木の根から少量皮を剥いで提出する程度である。これでは大した対価など望むべくもない。

 それでも全くないよりまし。何よりこの婆さんは村で流行り病が流行った時の唯一の生命線だ。頼みを断る選択肢はなかった。


 そんな調子で今日も適当な漢方でも貰って帰ろうとしたところに渡された金銭である。気でも狂ったのかと思った。


「……婆さん。銅貨は砕いて呑み込んでも身体によくない。他に誰に渡したんだ? ちゃんと理由を話して返してもらってくるから――」

「わかっとるわ戯け。この婆を金の使い道を知らぬ田舎のボケ老人扱いするでない」


 なんと。では一体どうして。


 首を傾げる俺に薬師はやれやれと首を振った。可哀想な子を見るような目がそこはかとなく腹立たしい。


「……ようやく、この村にも銭が回るようになったということよ。最近、雑貨屋の小倅が村中の取引にと使いだしたのじゃ。行商が頻繁に来るようになり、取引で黒字が続いとるからとな」

「なるほど。――なんだ。案外早くに外貨が入るようになったじゃないか。あの長老も深刻ぶっておいて人騒がせな」

「……その理由の大半は、あの猪と二か月前の『臨時収入』のせいなのじゃがな」


 じとりとした視線が向けられるのを明後日を向いて誤魔化す。……どれもこれも突発的に発生した事故のようなもの。俺のせいにされてはたまらない。

 貰った硬貨をいそいそとインベントリに収納する。金銭はシステム的には数値データ扱いになるらしく、所有枠とは別に、金貨銀貨銅貨とそれぞれの枚数が表示される欄が存在した。そういうところは便利なのでありがたく使わせてもらっている。


「しかし、意外だったな。あの雑貨屋のことだから、金銭は自分たちで独占しておいて村はあくまで物々交換で通すと思っていた」


 おもに自分たちが他所へ逃げる資金にするために。

 言外に含ませたそれを察したのか、老婆は口端を歪めて鼻を鳴らして見せた。


「ふん。細々とした交易が僅かづつ規模を拡げていくなら、あの小倅もそうしたじゃろうな。じゃがおぬしが来てからというもの、商いに来る行商が一挙に増えてあやつの手に負えなくなってきた。雑貨屋で済ませようにも渡す商品がない。満足できない行商達は村の中で商いの種を探そうとする。鍛冶屋も農家も漁師も、この薬師ですら近くに住んでおるのじゃ、直接交渉しようとするのも無理ない話じゃろ」


 どうあっても村人と行商人たちは関わりを持ち、別ルートで金銭を得てしまう。そこで匙を投げて逆に金銭を村に流通させるよう計らったと。人生ままならないものである。

 それと雑貨屋。あんたここでも嫌われてるのか。


 ――おっと、長話になってしまった。


「それじゃ、そろそろお暇しようか。貴重な話を聞けて良かった」

「うむ。おぬしもまた顔を出すがええ。冷えに効く薬湯を用意しておくでな」


 婆さんの作るもんみんな味がひどいじゃないですか、やだー!


 内心を押し隠して扉を開ける。外は大粒の雪が降っていた。ぶるりと身を震わせて外套の前を引き合わせる。

 日が経つにつれ積雪が厚くなってきた。このままいけば山小屋と村の間を行き来するのもきつくなってくるだろう。……最悪、山に閉じ込められることも視野に入れておく必要がある。

 今のうちに買い込んでおくべきものをリストアップして、ふと思った。


 ……やっぱり金銭での買い物って便利だわ。


 いや、冗談でなく。

 人は財を流動性を持たせた状態で保持することを選好するとはよく言ったもので、貨幣を意識した途端、物々交換でよくある、『自分が持つもので相手が欲しがるであろう財は何だったか』と悩む必要がなくなるのだから。

 共通した価値の基準を設ける、というのはコミュニティ発展のために必須な事項なのだろう。

 けれど、これによって村内で物資を中継する役目を持っていた雑貨屋の立ち位置が変化していくのだが、彼はそのことを意識しているのだろうか?



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:12(↑2)   戦力値:234

HP:115/115(↑10)

MP:54/54(↑1)

SP:111/111(↑1)


攻撃:70(↑20)

防御:69(↑15)

技量:100(↑14)

敏捷:88(↑17)

魔力:65(↑17)

抵抗:59(↑7)

HP自動回復:3/sec(↑1)

MP自動回復:4/sec(↑3)

SP自動回復:13/sec(↑1)


水魔法:C


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:走行Lv5(↑1) 軽業Lv5(↑2) 登攀Lv4(↑2)

        水泳Lv13 潜水Lv4

        鑑定Lv2

        夜目Lv6(↑1) 遠視Lv1(New)

        気配察知Lv4(↑2) 追跡Lv4(↑2)

        隠密Lv8(↑3)

  学術:天文学Lv3 薬草学Lv4(↑2)

  生産:採集Lv2(New)

     皮革Lv5(↑2) 解体Lv5(↑2)

  耐性:水属性耐性Lv2

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv2 麻痺耐性Lv6(↑2)

     疾病耐性Lv2(↑1) 耐寒Lv8

     睡眠耐性Lv6 渇水耐性Lv1 飢餓耐性Lv2

  戦闘:片手武器Lv10(↑1)(Max)【基礎技能修了】以降非表示 

     両手武器Lv4(New) 長柄武器Lv8

     短剣Lv1(New)

     格闘Lv6(↑1) 噛み付きLv2

     クロスボウLv7(↑1)

     暗殺Lv3(New)

     重装Lv2(New) 防御Lv3(New) 受け流しLv3(New)

     剛体Lv4(↑2) 身体強化Lv4(↑2)

     雄叫びLv2(New)

  魔法:魔力操作Lv7(↑1) 魔力放出Lv3(↑2) 魔力変換Lv3(↑1)

     魔力感知Lv4(↑1)

  軍事:統率Lv1(New) 指揮Lv1(New)


称号:えべっさん


Exp:5

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