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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
のたうつ偏食家
275/494

これはどういうノリなのか

 さて皆さんこんにちは、もといこんばんは。とうとうこの日がやってまいりました。『ハスカール主催:資質測定大会』! 司会と実況はワタクシ猟師のコーラルが務めます。

 解説には本日ゲストとして劇団座長のブレットーリ女史をお迎えしております。


「ブレットーリさん、本日はどうもよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。今日は個性あふれる『鋼角の鹿』の皆さんの資質を見極められるということで、不肖ながら興奮しております。見応えのあるリアクションを期待していますので、皆様気張って挑戦して貰いたいですネ!」


 本心がダダ漏れな芸人気質は嫌いじゃないぜ。かく言う俺も何が起きるかわからないこの意味不明時空に冷汗と脂汗が噴出しております。


「ところで参考までにお聞きしたいのですが、ブレットーリさんの資質とはいったいどんなものだったのでしょう?」

「ウチですか? ヤだなあ猟師さんったら、プライベートなことを知りたいならもっとムードのあるところで好感度上げてからにしないと――いだだだだアイアンクローはやめましょう!」

「はっはっはっ、そういう身の程を知らない発言をする前に風呂に入ってその体臭をどうにかすることをお勧めします」

「ひどいっ! お風呂なら四日前に入りましたヨ!?」


 なお悪いわ。悪臭防止法で引っ立ててやろうか。

 正直いって酒と揚げ物を食い続けながら徹夜した人間のような臭いが漂ってきていて、隣に座ってるのがかなりつらい。もう少し離れて座れないだろうか。

 ハスカールは格安の銭湯が点在している都市である。こいつの収入でこの悪臭は許されない。


 アイアンクローから解放された座長は痛そうに顔の周りをもみしだいた。


「いたた……ウチの資質でしたっけ? 確か、そう。『自由』と『混沌』だったはずですヨ?」

「いきなりぶっ飛んだ中二ワードですね」

「思うがままに脚本を描き、劇場を爆笑の混沌に叩き落とすのが我が使命! ピッタリだと思いません?」

「ノーコメント」


 ヒーローショーで混沌なんか生み出すんじゃねえ。

 へらへら笑いながら傍らのエールをぐびぐび飲み干す座長に、一体どんな使命があるというのか。


「ああもういい、次行くぞ次。――それではトップバッターの登場です。辺境伯直属独立歩兵大隊『鋼角の鹿』団長、イアン・ハイドゥク!」

「え、俺から? どうせなら締めがよかっ――」

「嫁と子供城に残してこんな所で飲んだくれてるからだ。これ終わったらさっさと帰るんだよ!」


 横暴だ横暴だと喚き声を上げる団長など蚊帳の外。劇団員の一人が測定器と一本の細い針を用意し強引に手渡した。それでようやく観念した団長が指先を針でつつき、受け皿に血を垂らす――と、


「おおーっと? 『勇気』そして『栄光』が出たー! 『栄光』は英雄の素養がある人物に出やすい資質! 困難に立ち向かえる勇者の相! とても珍しい! けどストレート過ぎて面白味が無いネ!」

「まあ、確かに真っ当過ぎてリアクションに困るな」

「お前らひでえぞ!」

「だってこれに普通にコメントしたってただのおべっかになるジャン? そんなのウチの反骨の相が許さねー!」


 身も蓋もない感想である。どうせなら笑いに走った結果が出て欲しかったというのはわからないでもないが。


「はいはい団長、あとがつかえてます。さっさと終わらせましょう」


 不貞腐れる団長の横合いから長い手がぬっと伸び、測定器を掻っ攫った。紺色の髪に気苦労の滲む顔、我らが副団長は早く終わらせて帰宅したいらしい。


「――『勇気』と『秩序』。……これはどう判断すれば?」

「団長さんと相性ピッタリ! これはもう終生のパートナーですネ! ……はっ!? もしや夜の相性もぴった――ごびっ!?」


 あくまでピンク色の方向に走りたい座長の眉間に、無言で投げつけられた測定器がクリーンヒットした。声もなく食卓に突っ伏す馬鹿を一瞥し、副団長は盛大な溜息をつく。


「ああもう……。団長、気は済んだでしょう。帰りますよ」

「え、いやでも――」

「帰りますよ」


 襟首を引っ掴んでずるずると引き摺って行く。まだ途中なのにという団長の悲痛な声を丸無視して、うちのトップ二人は帰路についてしまった。


「開始二人目でグダグダとかほんとすごいわね」

「まったくだのう……」


 残された連中のうちドワーフとエルフは気楽なものだ。酒のつまみに炒った南瓜の種をぼりぼりと齧りつつ、今度は爺さんが計器を手に取った。


「『智慧』と『混沌』……壊れとるじゃろこれ。儂ほどこの街の文明化に貢献しとる開発者はおらんというに」

「いや爺さんはそれで合ってるだろ。何でもかんでも爆発させようとしたり内政チートとか言って変な薬品畑にまこうとしたりするし」

「そういえば地下王国からゴムタイヤを大量に輸入しようとしてたわね。……脱硫して火薬作ろうとしてるってガルサスさんに見抜かれてたけど」

「爺さん……」

「ち、違うぞい!? 儂は単に科学的見地からじゃな!?」


 科学的見地から何をしようとしたのだ。まるでどこぞの軍事国家みたいに抜け道通ろうとしやがって。

 周囲から向けられる呆れた視線に抗うように、ドワーフの老人は歯を剥いて反論した。


「そもそもじゃ! 王国がもっと軍事に力を入れてればゴムなんぞ必要ないわ! こんなまどろっこしい手法を取らなくとも石油なら湿地帯で取れるはずなんじゃ! 毒が混じってて使えんけどあとは浄化してみるだけって掲示板でやっとったもん!」

「いい歳こいてもんとか言うな気持ち悪い!」


 次、猟兵のエルモ。


「…………」

「うん? どうした?」


 ところがどうしたことでしょう。いそいそと計器に血を垂らしたエルフは、結果を見るなりげっそりした表情で黙り込んでしまった。

 非常に言いづらそうな表情でエルフは言う。


「…………やっぱりこれ壊れてるわよ。私がこんな結果なんておかしいわ」

「なんだ、何があった」

「だって、これ……」


 計測結果――――『混沌』『虚無』。

 実に中二心溢れるワードである。


「別に私、破滅主義でもニヒリズムにハマった記憶もないのだけど」

「イヤイヤイヤ! これは言葉通りでなく側面的なものと見ましたネ!」


 いつの間にか復活したのか、座長が唾を撒き散らして力説した。


「いわゆるアレですヨ! エルモさんの賭場における在り方を示してると見た!」

「なるほど、散々場を荒らしに荒らし、最後は何も残らない――と。上手く考えてるなぁ」

「そこぉっ! 私が毎回毎回負けてるだけみたいな言い草はやめてくれる!? ちゃんと勝ってる日もあるのよ!」

「勝ち分を次の日に持ち越してボロ負けするまでが流れじゃがな」

「ぐっは……!」


 ドワーフの容赦ない一言に倒れ伏すエルフ。灰のように真っ白になったさまはまさに虚無。なかなか馬鹿にできない計測器である。


「ハイ次! 猟師さん猟師さんあなたですヨ? ハリーハリー!」

「あぁもうわかったわかった。やるからいちいち急かすな」


 あと顔を近づけるな酒臭い。そして体臭が臭い。


 受け取った真新しい針で指先を傷つけ、受け皿に血を垂れ落とした。液晶のようなパネルがチロチロと明滅し、結果を表示する。

 現れた俺の資質は――


「――――ハ」

「む……?」

「――――コーラル?」

「ありあり? おにーさん?」


 思わず飛び出た嘲るような吐息を聞きとがめたのか、周囲の視線が俺に集まるのを感じた。


「……いや、何でもない。やっぱり壊れてるんじゃないか、これ。だいたいこういうのって得てして誰にでも当てはまる言葉が出てくるものだろう? でもそれにしたって六人中三人が外れとか、バーナム効果にしたってお粗末だ」

「むう……」

「それは……」

「あんた……」


 欠陥品を食卓に投げ捨て、南瓜の種を齧ってお茶を濁す。理路整然とした正論に座長やドワーフは納得した風に考え込み、エルフの方はじっとりと目を据わらせた。


「――――コーラル。あんた、適当なこと言って晒し者になるのを避けようとしてるわね」

「…………」


 何を言ってるのかなぁこの借金エルフは。あれ? こんな所に計測器(ゴミ)が落ちてる。あーあー駄目だろ食卓にこんなもの放り出すとか。これは俺が片づけておくからみんなは大人しく席について酒でも飲んで――


「――おいなんだお前らみんなして立ち上がって。こっちの机に肴なんてないぞ。何でじりじり近寄ってくるんだ何狙ってやがるこのピーピングトムめ――な、何をする貴様らぁー!?」


 跳びかかる飲んだくれ、逃げ惑う猟師。グダグダな飲み会は怒涛の勢いで二次会に突入した。



   ●



 対象者名:コーラル

 資質:『犠牲』『希望』

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