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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
闇に踊る護り手
235/494

かつての刹那、癒えぬ悪夢

 見えるものは一面の地獄。見渡す限りの焼け野原。

 生きているものは何もいない。原形を留めているものもどこにもいない。

 ここは一切の生者を許さぬ灼熱の地。――――否、死者の魂の行方すら焼き捨てる許容なき業火。


 かつてない絶望の火が、その場全てを覆っていた。



 ――――――罪という罪、咎という咎は在らじ物をと、祓え給い清め給うと申す事の由を



「これは――」


 肉を焦がす臭いが鼻を突く。焼きごてのような乾ききった風が頬を撫で去っていく。

 バタバタと断続的に響く音は銃声だろうか。……考える余裕すら焼け付く熱気に、思わず呻き声が漏れた。

 火にまかれて目が眩む、あっという間に干乾びる。水分を奪われて目を開けることすら難しい。


 眼前に、黒い炭の塊があった。

 一抱えほどの大きさで、今もなおぶすぶすと黒い煙を悲鳴のように上げている。

 丸太や薪というには歪な形だ。たとえるなら、まるで人が蹲ったまま燃え尽きたような。



 ――――――諸々神の神等に、左男鹿の八つの耳を振り立てて、聞し召せと申す



「――――あぁ、そうか」


 不意に胸にこみ上げる何かを感じて、この炭が何であるかを悟った。

 胃の腑から突き上げるような憎悪、吐き気がするような憤怒。目の奥に火花が散るような、嗚咽すら枯れる嘆き。


 ……これは『何か』ではなく、『誰か』だったのか。


 記憶にない光景、覚えのない感情、他人事のような衝動。

 生々しく蠢く火炎の風景は、元より俺のものではない。俺の知りもしない、しかしどこか近しい誰からから流れ込んできたものだ。

 ゆえに他人事。

 目の前の光景も、胸に燻る感情も、しかし俺とは無関係なものだと割り切ってしまえるものに過ぎない。



 ――――――生膚断(いきはだたち)死膚断(しにはだたち)白人(しらひと)胡久美(こくみ)



 ……だって、割りきってしまわなければやりきれない。

 見て取るに、この炭の元の姿は十になるかの子供のもの。

 そんなものが、こんな無残な有様になるまで焼き捨てられたなど――



 ――――――己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪



 風が吹いた。

 びょうびょうと吹きつける、当たるものすべてを風化させるような、乾ききった風だった。


「――――」


 辺りを見回す。燎原は遥かに続き、反面空は不思議と蒼い。立ち込める黒炎は空まで昇るはずが、強い風に吹き散らされて色を失っていた。

 焼けた大地に積み重なるのは、燃え残った屍の山。地平から足元まで、見渡す限りに折り重なっている。

 投げ出した手足は炭化して、俺が足を踏み出し体重を籠めれば容易く粉々に砕け散る。


 ……これでは、一歩も歩けない。



 ――――――昆ふ虫の災、高つ神の災、高つ鳥の災、畜(たお)蟲物(まじもの)する罪、許多の罪出でむ



 なす術もなく立ち尽くした。

 この光景を見せて何をしたいのか、何をさせたいのか。なにもかも意味不明なまま打つ手もなく。

 踏みつける屍にも焼け残った骸にも、何かを返すということもなく棒立ちに。


「――――まったく、酷い話だ」



 ――――――何に祈る、何に願う。救いなどありはしない。報いなど夢の彼方だ。切れた糸を結ぶことはできても、燃え尽きた糸は戻せない。所詮はその程度の半端な力で、一体何を見つければいい。



 知るかよ、糞が。

 いつまで経ってもうじうじと、女々しいったらありゃしない。


 ――女がいた。

 手足のない、達磨のような身体をしていた。

 半端な長さの手足は、先端が黒くかさかさと乾燥していて、炭化した結果失ったものなのだと理解できた。

 顔には斜めに走る一本の傷。流れる血は留まる気配を見せず、顔の半分を真っ赤に染めている。

 壊れた人形のように身体を投げ出し、周囲の死体のように横たわる。

 意志の籠らない瞳は、茫洋とした視線を蒼い空に投げかけていた。


「……あぁ、駄目だな、これは」


 どうしてだろう。この女、見ていて無性に腹が立つ。……いつまで寝込んだ振りを決めてやがる。

 まるでコミケに落ちて無気力に陥った親父を見たときのような気分だ。なんというか、この呆けた面を張り倒してやりたくてたまらない。


 いや、必要のない我慢は精神によろしくない。よし殴ろう。


 そうと決めたら後は早い。死体を踏みつける感触を無視して女に歩み寄り、拳を固めて振りかぶる。

 そして――


「――――む?」


 振り被った右腕から、奇妙な音が聞こえた。

 ぎちり、ぎちり、かちかちかち。

 ぜんまい仕掛けの絡繰りのような音が、俺の腕から聞こえてきた。

 振り返ると、そこには火傷気味の俺の腕が――


「え――――?」


 剥き出しの生身、だったはずの腕。

 ぎちぎちとワイヤーが軋みを上げる。

 カチカチと歯車が回る。

 ごくごくと管が脈打ち、血液でない何かが中を通って行った。


 見るからにそれは、明らかに人間のものではなく――



   ●



「――ここで夢オチかよ……」


 目を開けると、いつもの古ぼけた天井が俺を出迎えてくれた。視界の正面を横切る古びた梁はいまだ健在で、もうあと三十年くらいは粘ってくれそうな勢いである。

 先代の小屋は物持ちが良すぎる。おかげでもったいなくて引っ越すにも引っ越せない。ここから新たな交易都市まで結構な距離があるというのに。

 身じろぎをすると、古びたベッドが軋む音がした。使い古したシーツは洗濯済みとはいえ黄ばみかけていて、纏まった収入が入れば買い換えようと思う。


 ……って、なんだか右肘がやけに冷たいような……


「……おい、お前……」


 傍らで白狼が鼾をかいて眠りこけていた。ついでに俺の右肘を甘噛みしてべとべとにするというおまけつきで。どうやらあの変な夢の一端はこいつのせいであるらしい。


 ……まぁ、仕方ないか。


 悪夢のせいで気分は悪いが、日の出を見るにもういい時間だ。今日のお仕事を始めるとしよう――



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:52(↑2)   戦力値:800

HP:312/312(↑10)

MP:140/140(↑10)

SP:127/127(↑1)


攻撃:215(↑5)

防御:219(↑5)

技量:302(↑7)

敏捷:254(↑4)

魔力:227(↑4)

抵抗:212(↑9)

HP自動回復:8/sec

MP自動回復:9/sec

SP自動回復:15/sec


水魔法:B 光魔法:B

闇魔法:D


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:疾走Lv9 耐久走Lv8

        軽業Lv16 登攀Lv13

        騎乗Lv4(↑1)

        水泳Lv14 潜水Lv4

        鑑定Lv7

        夜目Lv14 遠視Lv10

        気配察知Lv16(↑1) 追跡Lv13

        隠密Lv17

  学術:天文学Lv4 薬草学Lv8

     地政学Lv4(↑1) 経済学Lv5(↑1)

  生産:採集Lv8

     皮革Lv12 解体Lv14(↑1)

  耐性:水属性耐性Lv13 火属性耐性Lv10

     地属性耐性Lv2 光属性耐性Lv8(↑1)

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv8(↑1)

     麻痺耐性Lv13(↑1) 幻惑耐性Lv5(↑1)

     疾病耐性Lv5 耐寒Lv14(↑1)

     耐熱Lv11

     睡眠耐性Lv10 渇水耐性Lv1

     飢餓耐性Lv2

  戦闘:短剣Lv10(↑1) 片手斧Lv3

     片手剣Lv3

     二刀流Lv5

     両手斧Lv7 両手剣Lv3

     長柄槍Lv8(↑1) 長柄鎚Lv8

     長柄杖Lv8

     格闘Lv12 噛み付きLv5

     関節技Lv4 組打ちLv2(New)

     クロスボウLv17 狙撃Lv2

     速射Lv4(↑1) 騎射Lv2

     投擲Lv10

     暗殺Lv10 強襲Lv5

     重装Lv10(↑1) 軽装Lv11(↑1)

     防御Lv11(↑1) 受け流しLv13(↑1)

     剛体Lv11 身体強化Lv13

     雄叫びLv8

  魔法:魔力操作Lv15 魔力放出Lv11

     魔力変換Lv8 魔力感知Lv13

     瞑想Lv6 同調Lv8

     召喚Lv1 憑依Lv1

  軍事:統率Lv7 指揮Lv7

     教導Lv4 鼓舞Lv1

  特殊:死力Lv8 狂戦士Lv8

     明鏡止水Lv4


契約獣:ハティ・ロータ【ウォーセ】


称号:えべっさん


Exp:19

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