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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
迷走する仲人
197/494

あかるい都市計画:人材を適所に投入しよう

 本題に入る前に、ちょっとした中世時代のシステムについて話をしよう。


 村は都市に従属する。これはその地方が発展するためには避けられない社会構造である。

 都市とはすなわち、生産ではなく商いのための場所だ。点在する集落の中央に構え、村はその都市に特産物を持ち寄って自らの必要な物資を取引によって得る。

 必要な物とはその村では生産できない産物だ。たとえば鍛冶師のいない村は鉄製品を求め、周辺に森がない村は木材を買い求めるといった風に。


 村は不足分を都市で購入することで不向きな生産を行う必要がなくなり、自らの特産に特化することができる。

 都市は産物はないが取引の場を提供し、土地代や手数料と称して幾分かの差額を収入として得ることができる。そして中央に位置するという関係上、村同士の仲介や交渉の折衝役、全体の調停を担うことにもなった。

 地方と中央、それぞれがそれぞれの機能に特化し互いを補い合うことで発展を促す構造は、あたかも一個の生命体のようだといえるだろう。


 都市化とはすなわち周辺村落の従属化だ。役割を振り分け、分業によって効率化を図ったその社会構造は、地域経済の発展に不可欠なものである。

 しかし同時に、その変化は村ごとの自立性を損ね、商いによって都市から物資を得ることを所与のものとしてしまう。物資の直接な供給元である都市への依存を深め、自給自足が成り立たなくなるのだ。


 塩鉱や鉄鋼、海産物や養蚕業といった明確に独自的な特産がある村の場合はいい。その産物は希少性から重宝されるし、売り手優位な市場のもと、その村はひょっとすれば蓄財すら可能なほどの儲けを出すこともあるだろう。


 ――しかし、これといった特徴のない村落の場合は?

 鉄も掘れず粘土になる土もなく、辺境ゆえに海産物は保存がきかず、畜産を行う余裕もない。出来ることといえば隣の村と同様に、痩せた土地へ種を播き麦を育てる程度。……そんな限界集落はどうなるだろうか?

 答えは単純だ。彼らはなす術もなく、従属先である都市に貧農として搾取される立場となる。


 具体的な実例として、過去のハスカールを挙げることができる。

 いつかの話のように、あの村は本来都市建設のための物資を集積する一時的な拠点に過ぎなかった。当然、その立地に農耕も狩猟も採集も考慮されていなかったし、十数年の工期が終われば用済みとして廃棄される予定ですらいたのだ。

 平地は狭く、山は恐るべき狼が棲みつき、海は時化と魔物のおかげで遠洋漁もままならない。吹きつける潮風は塩害を引き起こし、万年不作の畑からは辛うじて食べていけるほどの麦が取れる程度だった。


 計画の初っ端から躓いた不良物件。何の取り柄もない限界集落。直轄領といえば聞こえはいいが、そもそも領都への納税のために十日近く重い荷車を引き摺って道中の魔物に怯えなければならない辺鄙な田舎。

 そんな村からやってくる粗末な産物など、いいように買い叩かれておしまいだ。むしろ都市に物を持ち込む余力すらなく、季節に数度やってくる行商に供給を頼る始末。食い物にされないと思う方がどうかしている。

 だからこそ、あの村は廃棄村とまで蔑称されてきたのだ。


 ――では翻るに、今や都市化が進み当初の計画を蘇らせ、交易都市としての一歩を踏み出そうとしている現状はどう捉えるべきだろうか。


 スタンピードによって流民化した北部半島民を吸収し、周辺の農耕可能地に植民させた。彼らが負うべき納税を肩代わりし、農具や家具等を融通して支援したのは同情もあるが、将来彼らが生産する食糧を優先的にハスカールが取引する狙いもあった。

 すなわち、俺たちは意識的に従属村を周辺に配置し、その首紐をハスカールで握るよう企図してきたのだ。

 目的はほぼ達しつつある。開拓した新田もようやく軌道に乗り始め、穀倉を増設する事態にまで至っている。その上大陸中央から食料を輸入する商人たちと競合を起こし、上手い具合に麦の値は下落を続けていた。

 このまま順調に推移すれば、急激に人口を増大させる交易都市の住民を充分に養うことができるだろう。


 ただし、やり過ぎには注意しなければならない。

 自由貿易による安価な製品は魅力だが、それは生産者の首を絞める状況でもあるのだから。

 必要に応じて各村で特産物の生産を推奨するなり、自給率が一定に達したら輸入を引き締める政策を布くなり、村の貧困化を抑える方向で動く必要があるのだが……それはまだ先の話だろう。



 さて、ずるずると前置きが長くなってしまったが、本題に入ろう。


 先のグリフォン討伐戦で、元傭兵団今辺境伯直属独立大隊『鋼角の鹿』は多大な犠牲を強いられた。

 被害の内訳は、負傷が40、死亡が50。

 これのうち、回復魔法等によって早期に復帰できたものは数に入れていない。

 つまりは、総数にして90人もの傭兵たちが二度と戦場に立てなくなったことを意味している。


 死亡したものについては、酷な話だが特に悩む必要はない。契約に従って遺族に死亡手当を支払い、所定の期間年給と称していくらかの金額を渡すことになる。

 懐は痛むものの、規則に従って機械的に手続きを進めていけばいいのだ。ある意味気楽なものともいえる。


 逆に、問題になるのは傷痍軍人の方だ。なにせこいつらはまだ生きていて、これからも食っていかなければいけないのだから。

 農村に移住させるなり、新たに畑を開墾させるという案もあった。なにせ防御の仕方はみっちり仕込んだ。剣は握れないとはいえ、障害としては軽度の人間が多かったのだ。

 指が欠けたり片目が潰れたり足を引き摺ったりはしても日常生活に問題はない。むしろそこらの農家よりも体力の有り余っている腕白どもだ。どんな荒れ地に派遣されても猛然と鍬を振るってくれることは容易に想像できた。


 しかし、本当にそれでいいのだろうか。

 彼らの中には猟兵――俺自身の部下もいる。読み書き計算が可能で、簡単な戦術を理解し、低位ながら魔法を操る人材を、ただ怪我をしたからと田舎に引っ込めてしまっていいのだろうか。


 解答は、彼ら自身が出してくれた。

 左親指を失い、剣を手放して村に戻ったある男に、とある農婦がこう言ったのだ。


「あらあら誰かと思ったら向かい隣りのタっ君(仮名)じゃない! 久しぶりぃ! しばらく見ない間に立派になったわねぇ! まあまあこんなに筋肉が付いちゃって……うわ硬いわぁ……!

 タっ君もう結婚はしたのかしら? ……あらしてないの? 駄目よ色恋は若いうちが花なんだからイロイロ経験しとかないと! ……あらあらそのイロじゃないわよいやらしいわねえ! そんないかがわしい所ばかり通ってないで、もっと素直な子と付き合ってみなさい。よく言うでしょう? 美人は三日で飽きる。醜女は三日で慣れるって。気立てがよくてご飯がおいしい女の子が一番! 具体的にいうとうちの姪っ子なんてどうかしら?

 ところで今日はいきなり帰ってきてどうしたのかしら? ……えぇっ!? 怪我で兵隊さんを首になったの!? どこを怪我――親指を!? あら酷いわねぇ……

 じゃあ今はお仕事何をしてるのかしら? ……何もしてない? 適当な畑でも耕そうと思ってる? ダメよダメダメ! グリフォン退治の英雄に土いじりなんてさせられないわ! タっ君は村の自慢なんだから、もっとこうどーんと構えててもらわないと!

 ……そうだ! いいこと考えたわ! タっ君二年前に里帰りした時に、傭兵の偉い人から勉強を教わってるっていってたわね。並んだ藁束の数を数えるのがすっごく早くて驚いたわ!

 だからね、最近建てた領主さまに収める麦の入ってる倉、あれの管理をお願いできないかしら? 長老様はもう歳で目が霞んで役に立たないし、頭が良くて計算が早い人って領都の方に奉公に出ちゃうのよね。――その点タっ君なら安心だわ! なにより元兵隊さんだから押し出しがきいてお役人様と上手く話せるでしょう? お役人様だって、グリフォン退治の英雄様を相手に悪いようにはしないはずだわ!」


 ――――こんな具合だ。それも帰郷した傭兵たちから次々と報告が上がってきやがった。

 穀倉の管理どころか、いつの間にか徴税人との交渉まで丸投げしやがる辺り、周辺の農村住民のなんとしたたかなことか。伊達にスタンピードを生き抜いたわけではないということか。


 こうして、退役した傭兵たちは急遽相談役として村落に駐在し、去年の収穫期に領都から派遣された役人と交渉を行うことと相成った。

 面白くないのは徴税人たちである。腐敗役人の代名詞である彼らが、間抜きを行う絶好の機会である収穫期に仕事を行おうとすると、すぐ傍で屈強な元傭兵(四則演算習得済み)が控えているのだ。たまったものではないだろう。

 不正を見逃すまいと目を光らせる元傭兵を前に、ある徴税人はこう吐き捨てた。


「そんなに我々が信用ならないなら、お前らが肩代わりしてみるか?」


 言質を頂きました。公職ゲットであります。


 副団長とドナート村長が作成した資料を基に団長が辺境伯に直談判。ハスカールの紐付きになった従属村に対してのみ、徴税や年貢の運搬等は退役した団員が面倒を見ることとなった。

 これぞまさに天下り……いや、天昇り? なんでもいいか。

 引き継ぎのためのあれこれのためや、年貢高の計算が合わずに俺やエルモ達が不眠不休で右往左往する羽目になったのはさておこう。


 とにかく、こういった都市化の手続きに追われるうちにいつの間にか月日は経ち、今や季節は春である。


 ディール暦712年四月下旬。

 『鋼角の鹿』団長イアンと、辺境伯親族のリディア・ミューゼルの結婚式まで、残りひと月まで迫っていた――



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:50(↑8)   戦力値:784

HP:302/302(↑40)

MP:135/135(↑20)

SP:126/126(↑2)


攻撃:210(↑23)

防御:211(↑41)

技量:295(↑26)

敏捷:244(↑34)

魔力:223(↑25)

抵抗:203(↑22)

HP自動回復:8/sec

MP自動回復:9/sec

SP自動回復:15/sec


水魔法:B(↑) 光魔法:B(↑)

闇魔法:D


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:疾走Lv9(↑1) 耐久走Lv8

        軽業Lv16(↑2) 登攀Lv13(↑2)

        騎乗Lv3(New)

        水泳Lv14(↑1) 潜水Lv4

        鑑定Lv7(↑1)

        夜目Lv14(↑1) 遠視Lv10(↑1)

        気配察知Lv15(↑1) 追跡Lv13

        隠密Lv17(↑1)

  学術:天文学Lv4 薬草学Lv8(↑1)

     地政学Lv3(New) 経済学Lv4(New)

  生産:採集Lv8

     皮革Lv12 解体Lv13

  耐性:水属性耐性Lv13(↑1) 火属性耐性Lv10(↑1)

     地属性耐性Lv2(New) 光属性耐性Lv7

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv7

     麻痺耐性Lv12 幻惑耐性Lv4

     疾病耐性Lv5 耐寒Lv14(↑1)

     耐熱Lv11(↑1)

     睡眠耐性Lv10 渇水耐性Lv1

     飢餓耐性Lv2

  戦闘:短剣Lv9(↑1) 片手斧Lv3

     片手剣Lv3

     二刀流Lv5

     両手斧Lv7(↑1) 両手剣Lv3

     長柄槍Lv7(↑2) 長柄鎚Lv8

     長柄杖Lv8

     格闘Lv12(↑2) 噛み付きLv5

     関節技Lv4(New)

     クロスボウLv17(↑1) 狙撃Lv2

     速射Lv3(↑1) 騎射Lv2(New)

     投擲Lv10(↑1)

     暗殺Lv10(↑1) 強襲Lv5(↑1)

     重装Lv9(↑2) 軽装Lv10(↑1)

     防御Lv10(↑2) 受け流しLv12(↑2)

     剛体Lv11(↑2) 身体強化Lv13(↑1)

     雄叫びLv8(↑2)

  魔法:魔力操作Lv15(↑1) 魔力放出Lv11(↑1)

     魔力変換Lv8(↑1) 魔力感知Lv13

     瞑想Lv6 同調Lv8

     召喚Lv1(New) 憑依Lv1(New)

  軍事:統率Lv7(↑1) 指揮Lv7(↑2)

     教導Lv4(↑1) 鼓舞Lv1(New)

  特殊:死力Lv8(↑1) 狂戦士Lv8(↑2)

     明鏡止水Lv4(↑1)


契約獣:ハティ・ロータ【ウォーセ】


称号:えべっさん


Exp:12

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― 新着の感想 ―
やっぱりステータス画面ってわくわくしますな しかし猟師の隠密・クロスボウとタメを張るタグロ君の騎乗すごい
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