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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
寒村に潜む狩人
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飲みにケーションとかただのメルヘンですよ

 みなさんにも経験があると思う。食べ物が得られずひもじさが極まり、道端で見つけた蛇をとっ捕まえて焼いて食ったことが。

 え、無い? ああそう……


 とにかく似たようなことがあり、動物の死骸の解体にはそれなりに慣れていた。町内の爺さんが軽トラで猪を轢いた時とかも、村の若い戦力として数えられたものである。

 ……というかあのジジイ、腰が痛いならあんなもん運んでくるなっての。秋になると必ず事故るもんだから、最終的にバンパーがやたらとごつく改造されてたっけ。車検通す気あるのか。


 ……とにかく、数日かけて兎を五羽ばかり仕留めたのだが、剥ぎ取りナイフを使っては肉しか得られない。兎肉なんて食べられる場所も少ないし、こんな量スーパーで売ったって二千円に届くかどうか……。

 到底黒字とは言えない現状に頭を抱え、参考に冊子を開いたのだ。


『……もしあんたが俺より強い奴に会いに行く的な戦闘狂なら助言はしない。そのまま脳筋的に獲物を狩って戦闘スキルを鍛えるといい。だが金のために狩りをするなら、剥ぎ取りナイフでの簡易解体はやめておけ。

 ナイフを使って得られる素材は獲物一種類に対して固定された素材が一種類、しかも低質な物しか得られない。それにナイフを使うと解体スキルのレベル上げが大きく滞るようシステムが組まれているようだ。だから毒持ちみたいによほど触りたくない獲物じゃない限り、できるだけ手作業で解体することだ。

 かなりお得なもんだぞ。一つの獲物から肉、骨、革、角、牙、腱。……捨てる場所なしとは正しくこのことでな、手を汚す価値は大いにあるだろうよ』


 それを、先に、言え。


 この世界の解体業とは剥ぎ取りナイフを使ったものだけだと思っていたが、どうやら違ったらしい。冊子を読み進めていくと、剥ぎ取りナイフはログイン直後のプレイヤーにのみ所持させられるもので、本来この世界には存在しないオーパーツなのだと書かれていた。NPCにも解体を生業にしているものがあるらしく、そこに手数料を払って解体を依頼しても、ナイフを使うより収支的には上なのだとか。

 思うに、剥ぎ取りナイフは運営が用意した救済手段なのだろう。獣の解体などグロ耐性のない人間からすれば即刻ログアウト案件だし、何より手間がかかる。ゲーマーならチマチマと皮膚と筋肉の間の脂肪に刃を入れる作業よりも、次の獲物を狩りに行った方が爽快感も増すというもの。突き刺した途端に光の粒子となってアイテムに変換されるなら精神的にもお優しい。


 しかし、それでは俺が困る。


 俺がこの村から求められている役割は狩猟による肉と皮革、両方の供給であり、どちらかではない。魔物ひしめく山奥にも入れず、未だ麓をうろついて不運な兎を狩る程度の未熟な腕では、得られる獲物などたかが知れている。


 仕方がないと溜息をついて、仕留めた兎に刃を入れた。久々の皮剥ぎで慣れなかったのか、技量値60に満たない奴にまともな動きはさせねえとシステム的に妨害が入るのか、やたらと手元が狂った。最初の1羽の毛皮は完全に失敗で、使い道もないので首とともに山の入り口に塚を掘って埋めることにする。残りの4羽はどうにかまともな形で剥ぐことができて、なめし作業もその日のうちに終わらせることが出来た。


 ……終わったあとログを見て驚いたのなんの。スキル関係なく技量値が2も上がっている。おまけに『加工』や『解体』なんてスキルも生えていた。



『加工』Lv3

類別:生産  関連ステータス:技量

対象の形状や性質を加工するための基礎技能

加工作業全般における精度を向上させる。


『解体』

類別:生産  関連ステータス:技量

動植物の死骸から有用な部位を得るための解体技術

解体作業における精度を向上させる。

解体によって得られる素材の品質を向上させる。

各部位の機能、用途、そして危険性について熟知する必要がある。



 何ということでしょう。今回、スキルと合わせて技量値が6も上がっている。特に加工が3Lvも上昇するのだから、生産系スキル群とは経験値的にかなりおいしいものなのではないだろうか。

 せっかくなので今現在の俺のステータスを表示してみよう。

 因みに村に流れ着いてから本格的にステータスを見るのは実は初めてだったりする。

 今までため込んでいた8ものポイントは技量に振ることにする。これでクロスボウの狙いがぶれなくなればいいのだが。



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:6   戦力値:121

HP:85/85

MP:42/42

SP:108/108


攻撃:31(↑1)

防御:46

技量:50(↑17)

敏捷:45(↑7)

魔力:32(↑4)

抵抗:44(↑3)

HP自動回復:2/sec

MP自動回復:1/sec

SP自動回復:12/sec


水魔法:D


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:走行Lv3(↑2) 水泳Lv13 潜水Lv4

        鑑定Lv1(New)

        夜目Lv4(↑2) 気配察知Lv1(New) 追跡Lv1(New)

        隠密Lv3(New)

  学術:天文学Lv3

  生産:加工:Lv3(New) 解体Lv1(New)

  耐性:水属性耐性Lv2

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv2 麻痺耐性Lv4

     疾病耐性Lv1 耐寒Lv8(↑2)

     睡眠耐性Lv6(↑1) 渇水耐性Lv1 飢餓耐性Lv2

  戦闘:片手武器Lv8(↑1)

     格闘Lv5(↑1) 噛み付きLv2

     クロスボウLv3(New)

     剛体Lv2 身体強化Lv1

  魔法:魔力操作Lv4 魔力変換Lv2 魔力感知Lv3


称号:えべっさん


Exp:6



 ……つくづく、自分が何を目指しているのかわからない。

 ステータス上ではやや魔法寄りの敏捷と技量に秀でたタイプ。しかしスキルを見れば魔法何それな斥候タンクである。見た目のちぐはぐさが半端ない。

 流されるまま鍛えていればこうなるのも仕方ないか、と諦める。まだまだ序盤、いずれスタイルは定まっていくでしょう。


 称号には目を向けない。向けないったら向けない。なんなんだえべっさんって。



   ●



 村に唯一ある酒場で食事を頼む。代金はもちろん払った。それに加えてお近づきのしるしに兎の肉を二羽分渡したら、店主はわずかに顔を綻ばせて酒を一杯奢ってくれた。現金なもんである。

 食卓に並ぶのは固めのパンと豆と芋のスープ。わずかに香草が投入されている。兎はいらない。どうせ帰ったら散々食べる羽目になる。

 ……正直、現実の日本の食事に慣れた人間からすれば、それほど美味いわけではない。だが自宅には調味料が塩くらいしかないし、農園なんてないから野菜も手に入らない。そもそもこの村に来るまで携帯食料と生魚、そしてあの劇物スープくらいしか食べていない身としては、腹に沁みるほどだった。

 今後も来ようと心に決める。何かしら土産を持ち込めば心象もよくなるだろうし、今回みたいに一品追加してくれるかもしれない。でも毎回兎だと芸がないし……そうだ。


「店主、ここって山菜料理とかも取り扱ってるかな?」

「一応ね。山から採ってくるなら調理してやろうか? 灰汁抜きとか手間があるから次の日以降になるが……」


 専属契約が成立した。俺はこの店に来るとき、代金代わりに肉やら茸やら山菜やらを持ってくる。店主はそれを好きに使って他の客にも振舞う。……こちらの持ち出しが大きいようにも思えるが、他の住民と顔を繋げるためだと思えば安いものだ。持ち込みがないときは薪割りでいいとの言葉ももらった。


 ……なんやねん、人の厚意ってあったかいねんな……


 山菜の当てはある。昨日まで連日徹夜で山籠もりしていたんだが、その際に山菜らしき植物をちらほらと見かけた。そこを巡ってみるとしよう。

 ……泣き所は、山菜のあるところは大抵が草食動物の餌場であり、それを狙って狼やら魔物やらが群がってくるところか。

 一昨日もそれで死にそうになった。不意に嫌な予感とともに気配察知なんてスキルが生えたので、大急ぎで近くの木に登ったのだが、直後、見たこともない大きさの狼がその場を通り過ぎたのだ。


 目が合った。

 確かに目が合った。そいつは木の枝にしがみついている俺を一瞥し、わずかに目を細めて踵を返した。

 奴が遠くに去ったと確信した時、思わず尻から地面に落ちて小一時間悶絶したのだが、それもいい思い出である。


 ―――さて、どうでもいい話は置いといて、今は夕飯を完食するとしよう。

 パンをスープにひたして食べる。こうでもしないと硬くて食べづらい。……いつか内政チートっぽく柔らかい白パンを開発してやると心に決める。

 そんな時だ。


「―――おお、あんたが新しく村に来た猟師のアンちゃんか」


 不意に背後から声がかけられた。

人間関係は時として人の予想を上回るものです。

長老の誤算:酒場の店主がお人よし過ぎた

店主「この村の人間って、山菜採ってきても自宅で食うから店で出すほど在庫が出来ないのよね」

雑貨屋「なんでこっちに卸さへんねん!?」

主人公「いや、食べ物は食事処に卸すもんでしょ」

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