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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
立ちはだかる猟兵
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あかるい都市計画:初期構想をねろう

 膨れ上がった人口。各地から集まる物資。エルフとの交易路と制式化された装備を揃える傭兵という明確な武力。

 これだけのものを揃えておいて、ハスカールをただの村落だと強弁するのは不可能。遠からず都市化は免れられない。

 ――それが、我らが村長クラウス・ドナートによる見立てである。


 いずれやってくる通過儀礼のようなものだと覚悟していたことだが、まだスタンピードから十年も経っていない。いささか展開が早過ぎて性急にすら思える。

 だがやらなければならないことなら是非もない。見事この元廃棄村を立派な都市に仕立ててやろうじゃありませんか。


「――だからって、嫌々司会やってる俺に当たるんじゃない……!」

「仕方がねーだろ。ハンナさんが産休入っちまったんだから、他に板書に慣れてるのって『客人』のお前らくらいだし」


 役場の会議室で謂れのない中傷を受けて肩を震わせるウェンターを、団長がどうどうと宥める。


「とはいえなぁ、こういう行政仕事はめんどくさくて正直やりたくないのう」

「確かになぁ。俺だってただの猟師だ。熊の首を落とすくらいなら簡単なんだが、設計からの街作りなんて専門外過ぎる」

「儂も昔はシ○シティとかよくやったんじゃが、建物の配置が無茶苦茶になって途中でリセットしてばかりじゃったわ」

「わかるわかる。無職の女ばっかり余っていつまでもその世帯が貧乏脱出出来なかったりとか」

「それ多分違うゲームじゃろ」

「――そこ! 人に厄介な仕事押し付けてなに駄弁ってんだ!?」


 隣の爺さんとかつてのシミュゲー暦を披露しあっていると、副団長からお叱りの言葉を受け取った。……それはいいんだがキミ、まだ商品化されていない試作段階の白墨を握り潰すのはやめなさい。


「……なあ、ちょっといいか?」


 と、そこで議席の端からおずおずと挙手する男が一人。

 誰あろう、前村長代理の鍛冶屋ミンズである。


「これ、村の配置を整理するための集まりだよな? 領都みたいに商業区だとか工業区だとかでくくって管理するための」

「うむ。それで間違いないはずじゃが」

「だったら俺関係無くないか!? とっくに村長代理なんて役職解かれてるんだぜ!?」


 いきなり血迷ったことを言い出す鍛冶屋だ。こいつがいなければ話が始まらないというのに。


「俺はただの村鍛冶! 燭台やら金具なら作れるが街なんて造れねえよ! 役人仕事なんて専門外にも程があるだろうが!

 確かに村を何とかしたいってコーラルに持ち掛けたのは俺だがな、ここまで話がでかくなるなんて聞いてねえっての!」


 机を叩いての鍛冶屋魂の叫び。この年明けから本来の業務に戻ったというのに、新年度早々会議室に引っ張り込まれてご立腹らしい。

 だが――――うむ。そこまで話を理解しているなら、次の理屈も飲み込めて頂けると思う。


「往生際が悪いな、鍛冶屋。言い出しっぺは最後まで付き合うもんだ。いち抜けなんてさせるものかよ」

「ぐぅ……っ」


 長老が亡き今、村興しの初期メンバーは俺と鍛冶屋だ。いけるところまで見届ける義務がある。俺はあと二十年ちょっと。鍛冶屋は……十五年くらい? さすがに引退後まで責任を持てなんて言えないしなぁ。

 俺の言葉に止めを刺されて、鍛冶屋はがっくりと項垂れて席に着いた。……こういう重苦しい場が嫌いなだけで、何だかんだでやることが決まると精力的に働いてくれる男だ。すぐに立ち直ってくれるでしょう。

 ……そんな男だからこそ、俺もこいつに付き合ったのだが。


「――区画整理の必要性は、役場としても認識している」


 議長席についたクラウスが淡々と言った。


「特に問題なのは、民家から見て、賭場や娼館のような荒くれ者の集まりやすい施設があまりに近い点だ。揉め事に民間人が巻き込まれる可能性があるし、なにより子供の教育にもよろしくない」

「確か昨日も賭場で騒ぎがあったわね。原因は働き先目当ての流れの傭兵だったみたいだけど」


 最近は賭場に入り浸っているエルモが言った。……こいつは自分の借金を手っ取り早く返そうと、一攫千金を狙って博打に嵌り始めたのだった。結果は見事に惨敗中。おかげで今頃普通に返せるはずだった借金は利息と負け金で凄いことになっている。

 ……そんな調子で彼女が現実に帰った時、ちゃんと社会に復帰できるか心配でならない。


「――それに、役場自体も手狭になってきている。識字率も上がって順調に人員が増えてきているが、今度は場所が足りなくなってきたのだ。いつまでも長老の家を流用するわけにもいかない。……去年増築した倉庫も、二年後には書類で溢れかえるだろう」


 商取引が増えれば役場の受け持つ役割も増えてくる。多忙を極める行政官筆頭の切実な訴えだった。

 ――ちなみに現在、役場の仕事は村長の直の部下であるゲイル氏が肩代わりし、獅子奮迅の活躍で書類を捌いている。当然無理は祟るもの。決壊は日暮れ前とみた。


「むむ。施設の拡張なら鍛冶工房も広くしたいのう。ようやく儂も師匠より一人前のお墨付きを頂いたことじゃ。ここはひとつ体育館並の広さの実験場を建ててはどうか。できれば船の模型とか浮かべるプールもつくとなおよし」

「それじゃただの爺さんの都合だろ」

「何を言うか! 科学の進歩には公共による投資が必要不可欠。これはあくまでその一歩よ!」


 勝手な言い分で私欲を満たそうとするドワーフ。二年前に火薬を暴発させて以来、どうにもこの爺さんが危ない方向に行ってしまいそうで恐ろしい。


「――そういう意味合いでしたら、私にも希望はありますよ」


 それまで席の端で沈黙を保っていたノーミエックが口を挟んだ。


「大森林への航路が開通したのに、現状交易用に使用している港では村から遠すぎます。これを機に村の桟橋にスペースを取ってもらえませんか?」

「漁師のおっさんが怒るんじゃねえか? 最近ただでさえ訓練の掛け声で魚が逃げるようになったって嫌味言われてるんだぜ?

 そんなもんよりもっと広い練兵所が欲しい。なんつーかこう、三十対三十で模擬戦が出来るくらいの!」


 我田引水とはこのことを言うのか。一人が切りだすと他の人間が我も我もと自分の分野に利益を誘導しようと、あからさまに主張してくる。こんなありさまで話がまとまるのだろうか。


 ……あ、クラウスがこめかみを押さえた。


「……意見は出そろったな? 無秩序な拡大のせいで村の各所で弊害が起きている。今後の発展のためには場所の整理が必要不可欠。役場のスペース的にも限界が近く、専用の庁舎が必要。各部署も今後を見据えると規模を拡大したがる意見が多い、と」


 カツカツカツ、と副団長の手元の白墨が黒板で踊り、問題点とそれぞれの要望を書きだしていく。そうやって何だかんだで要点を纏めてくれるその小器用さが、彼を苦労人たらしめている一員なのではあるまいか。


「いやしっかし。欲を言うときりがねえな、ほんと!」

「あんたが言うのか……」

「じゃがのう。皆の意見を全て通してしまうと、区画整理なんて規模では収まらなくなるのではないかの?」

「だから、あんたが言うのか……!」


 こらえろ、ウェンター。お前の試練の場はここだ。


 うちの無責任コンビにいいように扱われて拳を震わせる彼の姿に合掌。だが助け舟は出してやれない。悪いがほんとに専門外なのよ。


「……区画整理っていっても、こういうのって建物を取り壊してから建て直すんでしょ? 仮設住宅とかがいるんじゃないの?」

「基本、住宅区を先に造ることで対応することになる。役場を中心にして円状に拡大させると、周囲に住宅地、さらに外側に商業区や工業区、倉庫区画等を分割して配置することになるだろう」

「……ほとんど原形が残らなくなるわね。これなら別の場所に一から造った方が手っ取り早いんじゃない?」

「へぇ…………」

「ふむぅ…………」

「ふん…………」

「それは…………」

「やっぱりか…………」


 ……あー、そう来ちゃう? 何となくそうなるんじゃないかなーと予感はしてたんだが。


「――え、なに? 私変なこと言った?」

「いーや。借金エルフは至極真っ当な発言をした。――――そうだよな、鍛冶屋」

「…………ああ」


 一変した周囲の反応に狼狽えるエルモにフォローを入れつつ、言い出しっぺに声をかける。鍛冶屋はしかめっ面で唸りながらも、どこか納得したような表情で頷いた。


「……歪な栄え方をしちまったが、ここはもともとそういう村だ。所詮は繋ぎに過ぎねえのさ」

「村を栄えさせるっていうあんたの望みは、ここで一応の一区切りになるわけだ」

「馬鹿言うなよ。村ってのは土地じゃねえ。人が築き上げるもんだ。人が続く限り、俺たちの野望は潰えてねえよ」


 ――未練はあるが、(とき)が来たということなのだろう。

 そういって、鍛冶屋はやや目を伏せた。今までのことに思いを馳せているのか、微かに瞼が震えていた。


「……どういうことなの、コーラル。新参の私にも事情を教えて欲しいんだけど?」

「どうもこうも。――お前はハスカールとしか知らんだろうが、もともとこの村の通称は『廃棄村』だったんだ。

 時が来れば棄てられる、一時凌ぎの仮の拠点だ」

「……左様」


 ギムリンが髭に覆われた口端を吊り上げて言った。


「よく覚えているとも。……師匠は言っとったな。この村は新たな都市をつくるための物資集積所に過ぎぬ。本来は街づくりにもっと適した場所がある、と」


 ぴょこん、と席から飛び降り、ギムリンは机を乗り越えて会議室の中央に立った。その眼にはどこか愉快そうな、これから見る夢に胸を滾らせるような、そんな火が灯っていた。


「気張れよ、奮え。そして気遅れるな。大仕事じゃ皆の衆。三百年前、志半ばで終わった征服王の事業を、我々が引き継ぐのじゃ。

 ――――ここに、伝説を蘇らせようぞ」

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