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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
立ちはだかる猟兵
110/494

猟兵ここにあり

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 林の中を一人の男が走っていた。

 よたよたと力なく、今にも倒れそうなほど青息吐息。どこかを切ったのか、右腕を血で濡らしている。唯一無傷な左腕には、簡素な斧が握られていた。

 荒い息を吐く口からはみっともなく涎を垂らし、怯えきった瞳は血走って視線を辺りに彷徨わせている。


「くそ、くそ、くそ……!」


 悪態が漏れる。こんなはずじゃなかった。どうしてこんなことになったのか、と。

 追い詰められていた。男の所属していた集団は、突然の襲撃を受けてバラバラになり、一人また一人と仕留められていった。

 つい先ほどもそうだ。さっきまで男と一緒にいた相棒は、僅か十歩離れただけで餌食となった。断末魔の声がいまだ耳にこびり付いて離れない。

 そして――


 ――――ゥウウウォオオオオオオオオン……!


「ひぃっ!?」


 遠くから響いた遠吠えに、男は怯えきった悲鳴を上げた。

 ……まただ、またあの狼だ。

 あの黒い毛皮をした狼が、群れも連れずに襲い掛かってきたのだ。

 普通なら大した相手ではない。彼の所属していた集団は荒事に慣れている。群れからはぐれた一匹狼の一つや二つ、返り討ちにして毛皮にしてやることが出来ただろう。


 だが、今回ばかりは勝手が違う。

 まるで虎や馬のような体躯を誇る巨大な狼。夜闇にまぎれて襲い掛かり、集団からはぐれた人間を一人ずつ狡猾に仕留めていく。

 明らかに単独での狩りに慣れた狼だった。それも、人間のように集団を形成する生物に恐れをなす様子もない。

 一人ずつ、着実に、一撃で喉を喰いちぎって、反撃が来る前に風のように去っていく。

 男がその姿を目撃できたのも偶然に過ぎない。たまたま仲間が食い殺されているところを尻目に逃げだした。だからこうやって夜明けまで生き延びている。


 だが、それもようやく終わる。


「あぁ……!」


 走る先に林の終わりを見て、男は歓喜の声を上げた。薄暗い林と違い、その外はなんと光に満ちていることか。木々の隙間から差し込む昇りきった朝の日差しは、男の生還を祝福しているかのようにも感じられる。


 ようやく林を出られる。ようやくこの闇から脱出できる。

 林さえ出てしまえば、闇に紛れる一匹狼など恐れるに――


「――――――」


 あまりの安堵に言葉を失う。木々の間を抜けた先に、人影が見えた。男だろうか。何か家畜のような獣を連れていた。


 あれに助けを求めよう。きっと助かる。もしかしたら仲間の仇すらとってもらえるかも――


 刹那、男の肩に一本の矢が突き立った。


「が、あ。ぎぁあああ……!?」


 悲鳴を上げて地面を転がる。勢いで肩甲骨を貫いた矢がへし折れた。

 男は何が起きたのか理解できないまま、次の矢を警戒してせわしなく周囲を見渡した。


 ……後ろから射られた? どうして? 後ろの林には狼がいるというのに? 誰だか知らないが、弓を向ける相手を間違えている……!


「――これはこれは、ようこそ」

「……ッ!?」


 不意に背中にかけられた言葉に、男は弾かれるように振り向いた。ただの出迎えの挨拶。それなのに、その声がどうしようもなく不吉に感じられたのだ。


「なかなかいい狙いだろう? これがエルフの弓術。シルフの助けを借りて、短弓の射程と威力を大幅に上げるんだと」


 何でもないことのように言って、声の主は肩をすくめた。

 緑色の外套を羽織り、フードを目深に被った男だった。表情は見えず、皮肉気に歪めた口端が覗いている。


「た、たす……」


 助けてくれ、と男は声を上げようとして、次の瞬間凍り付いた。

 外套の男の手にある弩弓、その照準が男に向いている。


「――――悪いな。命乞いは三日前に済ませるべきだったんだ」

「ば、ま――――!?」


 冷酷な言葉とともに引き金が引かれ、ボルトが空気を切り裂いて飛翔する。

 眉間を精確に貫かれ、男の意識は断絶した。



   ●



「いやいや、今回はお世話になりました」

「楽な仕事だよ。今回は助っ人もいたことだし」


 その日の傭兵仕事を終え、報告のために村に戻ると、依頼人である村長が手もみしながら愛想を振りまいてきた。

 報酬を受け取りつつ、世間話に興じてみる。


 ――ここはコロンビア半島領都の東に位置する、一つの鄙びた村の一つ。

 最近現れて近辺を荒らし始めた山賊団を駆逐するために、俺たちは呼ばれていた。

 戦闘結果は圧勝の一言。夜闇に紛れて強襲し統率を失わせ、はぐれたものはそのまま討ち取り、集団は追い立てて弓兵の待ち構える林の外れまで誘導する。

 ……もっとも、勢子役が気張り過ぎたせいで林を抜ける前に相当数が討ち取られてしまったが。


「助っ人、ですか。あのエルフのご婦人のことでしょうか?」

「いや、それとはまた別だ」


 村長がやや離れたところでこちらを窺っているエルモを指すが否定する。あいつと俺、そしてウォーセは林の外で待機する役だ。


「――あれだよ。あの黒い狼」

「あれは……」


 村を外れて遠く離れたところ、その視界にようやくかかるかというところに、二つの獣の影があった。白い影と黒い影。どちらも四つ足で大の大人が跨がれそうなほど大きな体躯をしている。

 二頭の色違いの狼は四月の日差しの中、子供のようにじゃれあっていた。

 ……あれが小僧と同じ年に生まれた最後の兄弟だ。きっと、別れを惜しんでいるのだろう。


「さーて。少々話が変わるが、追加報酬のお話だ」

「な――どういうことですか!?」


 話が違うと村長が喚いた。……いや、でもねぇ。どうやらあの狼、ここの林が気に入ったらしいのよ。


「この村、ハスカールから少々遠くてね。定期的に傭兵を派遣するのは難しいんだ。無料サービス圏外ってわけですよ」

「そんな……」

「悪いがこっちも商売なもんでね。……追加料金を支払ってくれるなら、この村に魔物が近寄ることなどないと保障しよう」


 受けるも受けないも村長次第だ。今後の村の未来はその決断にかかっている。

 俺は弱り果てた表情の村長に、にやにやと笑いかけた。


「どうだろう。追加報酬は日給制。皮を剥いだ兎の肉を一羽分で手を打たないか?」



   ●



プレイヤー名:コーラル

種族:人間   Lv:38(↑1)   戦力値:626

HP:242/242(↑5)

MP:110/110(↑10)

SP:122/122


攻撃:174(↑9)

防御:149(↑2)

技量:250(↑2)

敏捷:196(↑2)

魔力:179(↑4)

抵抗:168(↑3)

HP自動回復:8/sec(↑1)

MP自動回復:9/sec(↑1)

SP自動回復:15/sec


水魔法:C 光魔法:C(↑)

闇魔法:D(New)


地形特性:中庸の民


保有スキル

  フィールド:疾走Lv6 耐久走Lv7

        軽業Lv13 登攀Lv11

        水泳Lv13 潜水Lv4

        鑑定Lv4

        夜目Lv12 遠視Lv8

        気配察知Lv14 追跡Lv12

        隠密Lv15

  学術:天文学Lv4 薬草学Lv7

  生産:採集Lv7

     皮革Lv11 解体Lv12

  耐性:水属性耐性Lv11 火属性耐性Lv7

     光属性耐性Lv7

     酸耐性Lv1 毒耐性Lv7

     麻痺耐性Lv12 幻惑耐性Lv4(↑1)

     疾病耐性Lv5 耐寒Lv13

     耐熱Lv8

     睡眠耐性Lv10 渇水耐性Lv1

     飢餓耐性Lv2

  戦闘:短剣Lv6(↑1) 片手斧Lv3

     片手剣Lv3(↑2)

     二刀流Lv4(↑2)

     両手斧Lv6 両手剣Lv3(↑2)

     長柄槍Lv5 長柄鎚Lv6

     長柄杖Lv7

     格闘Lv9 噛み付きLv5

     クロスボウLv15 投擲Lv8

     暗殺Lv8 強襲Lv4

     重装Lv7 軽装Lv8

     防御Lv6 受け流しLv9

     剛体Lv8 身体強化Lv10(↑1)

     雄叫びLv6

  魔法:魔力操作Lv13(↑1) 魔力放出Lv9

     魔力変換Lv6 魔力感知Lv13 

     瞑想Lv6 同調Lv6

  軍事:統率Lv5 指揮Lv4

     教導Lv1(New)

  特殊:死力Lv6 狂戦士Lv4

     明鏡止水Lv3


称号:えべっさん


Exp:15

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