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PHOENIX SAGA  作者: 鷹野霞
プロローグ
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その異色作

 週末に仕事を終えて帰宅。夕飯や風呂を済ませたあと、雑事を片付けて速やかに就寝準備。

 ベッドインの際、時計を確認すると20:45だった。

 ゲーム開始まで残り十五分。ぎりぎり間に合った。定時で帰れてよかった…。


 先週の日曜日に購入した新品のヘッドギアを装着し電源を入れる。


 ……さて、始めよう。


 柄にもなくワクワクする。こんな気分は学生時代以来だ。

 戸締りは確認したしガス栓も締めた。これから三時間寝たきりになるのだから、身の回りの心残りはすべて消しておきたい。

 ……あれ、麦茶は冷蔵庫にしまったっけ……?



   ◆


 ――――――Now loading...


 本ゲームは体感時間を10万倍にまで加速し、プレイ時間の3時間を30年以上に延長することによって、”もう一つの人生”、”もう一つの歴史”を、プレイヤー達と創り出すことを目的とした、VRMMORPGである。


   ◆



 ……何とも、人生観が狂わされそうなゲームだこと。


 ログインしてブラックアウトした視界に浮かび上がった、『ただいま混み合ってますよー』と言わんばかりに遅々とした動きを見せるローディング画面と、このゲームの趣旨を説明する簡潔な文章。それに対し、俺は複雑な心境で突っ込んだ。


 ―――3時間を30年にまで引き延ばす。

 すなわち、若く青い春を謳歌している大学生が何気なくプレイすると、翌朝には精神年齢50歳の枯れかけたナイスミドルが登校することを意味する。

 当然それが身体と精神のギャップの観点から、到底望ましいものではないというのは容易に想像できる。

 特に社会に出て仕事をしている人からすれば、プレイ時間30年など狂気の沙汰で、翌日以降の業務内容に必ず差し障りがでる。


 ……俺の場合、悠々自適な自営業で、きっと今後も単純なルーチン作業が百年続くような業務内容であるため、問題なかろうと判断したのだが……


 ただ遊んでみるだけで人生が狂わされるゲームなど、よく倫理委員会が通したものだ。実際、発売直後は大バッシングの嵐だったし、購入するだけで20枚を超える書類にサインを求められた。

 ……サインをしている最中、店員からモルモットでも見るような視線を向けられたが、自分でも半分くらいは死刑執行書にサインでもしてる気分だった。


 そうそう、規約書に書いてあることだが、このゲーム、始めてから一旦ログアウトすると、同じ時代に再度ログインすることが出来ない。さらに一度ログアウトすると1週間はログインできない。

 まあ30分離席しただけで5年経つようなゲームだから前者は仕方ないが、一週間のログイン制限は完全に世論の反感を買ったからだ。


 ……電気もネットもスマホもない中世ヨーロッパを旅してこい。現実時間にいる家族友人と連絡は取れません。風呂はないし施設の冷暖房は不完全、たまに盗賊が襲ってくる。―――そんな環境で十年以上過ごして、価値観や人格に影響が出ないとは限らない。……それが自称有識者たちの見解であり、一週間のログイン制限が『監察期間』と揶揄される所以である。


 ”リアリティ溢れるファンタジーのひと時―――否、一生を”


 それがこのゲーム―――〈PHOENIX SAGA〉のコンセプトであり、巷では”隠居後やることのない老人のセカンドライフ満喫用RPG”と称される所以である。

 そのあだ名をを聞いたとき、不覚にも納得してしまった。

 なるほど確かに一理ある。ゲームとはいえ仮初ながら健全な肉体で30年を満喫できるのだ。現実での人生の消化試合を、満足に動かない老いた体で過ごすよりよほど有意義ではないか。


 ……話がそれた。

 ローディング画面もそろそろ終了のようだし、いい加減キャラクターメイキングへと進むとしよう。

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― 新着の感想 ―
うぅ・・・もう4年も経つんですね また最初から読み始めます これ仮にゲーム開始時間に間に合わなかったら相当悲しいな 3時間以上後の次回組になるのかしら
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