ヒイロ part#2 この世界は……
Introduction4 〈城 part〉
Introduction4 〈城 part〉
今日もすずへの報告を終えて、のんびりとご主人様のお帰りを待っていたら……羽ばたく音と、すさまじい力を感じた。
……ご主人様のお仕事が始まったみたいだね。
「これは……すずへまた報告しないとね」
ご主人様の仕事があった時は、ちゃんとそれについて報告しないといけない。なんでも、そのためにすずは僕にいろいろ報告させているんじゃないかと思っている。
ああ、ご主人様、どうかご無事で。
ただ、世界の奴隷となることを選択したご主人様。
誰もあなたをほめたたえません。それがあなたの選んだ道です。
ですけど……僕だけは、僕だけはあなたがどれだけのことをしているのか知っています。だから、あなたは独りぼっちじゃありません。
僕とご主人様で、ふたりぼっちです。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「やれやれ……」
急いで異界力の高まっていた現場へ行くと、そこでは二人の男女が倒れていた。
その二人を触って確認すると、呼吸はシテイルものの、超高熱。たぶん、50度とか60度くらいはあるだろう。人体の温度じゃない。……ああ、完全に異界力にあてられてる。これは助からないだろうな。
「悪い、助けられなかった……」
俺に出来ることは、楽にさせてやることくらいしかない。しかし、状況がそれを許さない。
「ガルルグゥ……」
手には大きな爪、顔は虎みたいだが、牙は尋常じゃない長さになっている。
二足歩行していて、体は毛におおわれている。パッと見は、人狼とかワーウルフとかそういう感じの生き物に見えなくもない。
異界獣か……ってとは、そこそこ大きい異界門が開いてるな。厄介な。
「ゴァァァァァァ!」
人狼型の異界獣――もう人狼でいいか――が、俺に爪を振り上げて襲いかかってくる。
俺は背中の運命を振り払うもの(ルールアウトサイダー)を広げると、飛翔してそれを躱す。
急いで周囲に「世界の狭間(W・D)」を発動して、いわゆるご都合主義空間――この中のことは誰にも近くできず、また壊れたりしても現実世界に影響を起こさない空間を作り出す。
「くそっ……お前を相手にしてる暇はないんだがな」
手に異界力を集めて、弾丸として発射する。人狼はそれを危なげなく回避するが、俺はそれを二発、三発と撃ちだす。
人狼はそれの連射を嫌がり、後退していくが――その逃げ道を予測して、人狼の足に命中させる。
さして効いてはいないだろうが、足が一瞬止まったことは確か。
その瞬間を狙い、加速と同時に指先に異界力を集めてその部分を強化。
そして人狼が、こちらが加速したことに気づく前に、人狼の頭を指先で打ち抜く。
「ギガッ!?」
「悪いが、この世界にお前らみたいなものは邪魔なんだよ」
俺の背の運命を振り払うもの(ルールアウトサイダー)に異界力を流し、際限なく異界力を高める。
「世界の狭間で己の罪を贖え」
そして指先から放たれた異界力のビームが、人狼の頭を消し飛ばした。
首から上が吹っ飛び、倒れる人狼。
それを放っておいて、異界力の高まっている元凶を探すと……いた。というか、あった。
「中位……うん、中の下ってくらいの異界門か」
紫色で、楕円型の何かよくわからないものが宙に浮いている。
直径はだいたい縦に2メートルくらい、横に1メートルくらいだろうか。
この中から、尋常じゃないほどの異界力があふれているのを感じる。これからさっきの人狼は出てきたんだろうな。
「さて、『世界の狭間(W・D)』もそこまで長くもつわけじゃねえからさっさとするか」
俺は背の運命を振り払うもの(ルールアウトサイダー)を解除し、手の上に異杯を顕現させる。いや、正確には異杯を模した、これから発動する異法術の一環のようなものなんだが、勝手に俺は異杯と呼んでいる。
まあ、それはさておき、異杯は、手のひらサイズで、金色のワイングラスって感じの見た目をしている。
「『乾杯(TST)』」
そして、異杯をその異界門に近づけると――異界門が異界力の液体となって異杯の中にすべて入る。
それに俺は口をつけて、グッと飲み干す。
途端、俺の中で異界力が暴れて――俺の異界力と混ざり合い、体内の異界力の量が増加したのが分かる。
だいぶ、レベルアップしたな。昔だったらさっきの人狼でも苦労していただろう。
「ふう……これで完了、と。ったく、最近は多すぎるんだよな、異界門が開く頻度が」
ついでなので、俺はさっきの人狼に近づいて、「乾杯(TST)」を発動して人狼の異界力も液体にして、飲み干す。
さっきの異界門を飲み干した時ほどではないが、体内の異界力が高まるのが分かる。
最後に――さっき倒れていた男女のところへ行く。さすがに、もうこと切れていた。
(また――助けられなかったか)
これは異界力中毒といい、体内に異杯を持っていない人間が、異界力に中てられるとなってしまうもので、よほど素早く発見しないと助からない。
俺のように異杯を体内にもっているのなら異界力を液体にして流し込んでも平気なんだが、そうでないものは気体状態の異界力でもこうなってしまう。
たぶん――さっき異界門が開いたときに、そのすぐそばで異界力を吸ってしまったんだろう。そして、ふらふらと動いてさっきのところで倒れていた、と。
「ああ、くそっ……リンカ、また助けられなかったよ」
俺は久しぶりに、もういない――二度と会えない、幼馴染の顔を思い出しながら、空をにらみつける。
――世界というものは、どうにも残酷に出来ているらしい。
~~~~~~~~~~~~~~~~
ご主人様が帰ってきた。とても悲しそうな顔……たぶん、またリンカちゃんのことを思い出しちゃったんだろうな。
ご主人様が時折取り出す昔の写真に写っている女の子、リンカちゃん。
僕がどれだけ頑張っても、彼女の代わりにはなれないんだよね……
「にゃー」
僕は、ご主人様の足にすりすりと頭をこすりつける。こうすると、ご主人様は笑って僕を抱き上げて、抱きしめてくれるんだ。
ニコリと笑ったご主人様は、僕を抱き上げる前に何か懐から取り出した。
そ、それは猫じゃらし!
「にゃー!」
僕の本能が叫ぶ。それを追いかけろ、と。
心の中の声に従って、僕は追い掛ける。ああ、やっぱりご主人様は優しい。だって、こんなにも僕と遊んでくれるんだもの。
(大丈夫ですよ、ご主人様。ご主人様が寂しい時は僕と遊びましょう)
そういえば、鈴はリンカちゃんと似ているような気がしたんですけど……気のせいでしたか。
テスト前になると違うことをしたくなる症候群の城です。テスト目前ですが学業と両立頑張っていこうと思います。
私のメンタルは鍛え上げられているので、辛口なコメントお待ちしております。当然飴をいただいたら全力で頑張りますが!