ヒイロ part#1 阿久緋色の仕事
Introduction 2 〈城 part〉
僕のご主人様の名前は、『緋色』という。ご主人様は一見乱暴な人なんだけど、実は心が優しくて、僕が寂しい時は、いつも傍にいてくれる。
……まあ、僕が寂しいのはいつものことなんだけど。
僕が朝起きると、ご主人様はたいてい寝ている。一人暮らしを始めてだいぶ経つくせに、いまだに朝は苦手みたい。
基本的に目覚まし時計では起きないので、いつも僕が遅刻する前に起こしてあげないといけない。のしかかって「構えー!」って言うと、必ず起きてくれる。
そして起きてからは、ご主人様が僕のご飯を用意してから、一緒に朝食を食べる。朝は動く元気がないからか、ご主人様は僕と同じようなご飯を食べる。たまに朝ご飯を抜こうとするから、僕の朝ご飯をあげようとするんだけど、断られてしまう。朝ご飯は食べたほうがいいのにね。
そして朝はおしゃべりの時間。ご主人様と一緒にテレビを見ながら、昨日起きたことや、今日のこと……そして、二人のお仕事の話をする。
その後、ご主人様は身支度を整えて、お出かけの準備をする。
今日はお仕事が……うん、ありそうだね。
僕もお仕事のための準備をしつつ、ご主人様がお出かけするのを見送る。凄く、すっごく寂しいけど、もしもお仕事があったら僕は足手まといになっちゃうから、一緒には出掛けられない。
そして一通りの家事をする前に、必ずやらなくちゃいけないことがある。
それは――報告だ。
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俺の名前は阿久緋色。趣味は小説を書くことや、小説を読むこと。昔は漫画やアニメも嗜んでいたものだが、最近は忙しくて全然それも出来ていない。
得意なことは特にない。強いて言うなら中学時代やっていたバレーボールだが、それも高校でやめてしまったので、基礎をかじったことがある程度のものでしかない。
幸い、勉強はできないわけじゃなかったので……地元じゃ有数の進学校に通い、進級は出来るくらいの成績をとり続け、この春なんとか都内の一流半くらいの私大に入学できた。まあ、ここなら高校の奴にも中学の奴にもそうそうバカにされはしないくらいのところへ入れたと自負している。
地元……というか俺は親が転勤の多い職業だったので、一つの土地にとどまったことが無いため、高校のある県を地元と言っていいのかは分からないが、まあとにかく地元は田舎だったため、俺が入った大学に入った奴は少ない。
それが寂しかったからというわけじゃないが……家で飼っていた猫を、一人暮らしをするにあたって、こちらへ連れてきてしまった。
もっとも、さっきも言った通り俺は引っ越しが多かったため、昔この辺に住んでいたから……友達が完全にゼロなわけじゃないんだが。
その猫の名前は「ナイト」という黒猫で、こいつがなかなか気の利くやつなのである。
俺は朝が弱いんだが……こいつが毎朝起こしてくれるせいで、今のところ大学に遅刻したことは無い。朝になると、こいつが俺の胸の上にのしかかって、「ニャー!!」と叫ぶのだ。俺が起きないと爪をたてられることもある。天然の目覚ましはありがたい。
大学生になって変わったことと言えば……朝起きる時間が高校時代よりも遅くてよくなったことと、人にはなかなか言えないような仕事を、親の気兼ねなくできるようになったことだろうか。
朝になると、基本的にナイトと一緒に朝飯を食べながら、昨日の出来事とか、今日の予定とかについて一方的に話す。俺は朝が弱いため、シリアルとかで適当にすませるが、どうもナイトのやつは俺と同じものを食べていると勘違いしているのか、俺が朝飯を抜こうとしたらキャットフードを俺に差し出してくる。いや、それは俺には食えないから……。
遅刻ギリギリに俺は家を出て、昔はチャリで登校していたからか、いまだに慣れない電車での登校のために、駅まで走る。
制服じゃなくなったからか、凄く走りやすくてありがたいんだが……鏡を視ると、制服の方がきまっていたかな、と思ってしまう。これでも気は付けているんだが。
そんなどうでもいいことを考えながら、毎日、激しく変わっていく、凸凹で波乱一日をスタートする。
……俺がいなくなった部屋で、何をしてるんだろうな、ナイトは。
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部屋の仕事をする前に、僕はベランダへ向かった。ベランダからは空が見える。僕はその空に向かって前の日にあったことを話すのが、生まれた時からの仕事。
小さいころ、それこそご主人がこの辺に住んでいたころに、夢に《黒い何か(カッコよくないぼく)》がやってきて、『鈴』という女の子に、僕の感じたこと、前の日にあったことを話すように頼んできた。
僕はその時ご主人様以外に話す相手がいなかったから、ご主人様がいないときに寂しさを紛らわせられるかもしれないと思って、その申し出を受けてしまった。
結果、今に至る。最初はただお話ししていただけだけど、日が経つと気づくことがあった。
……あれ? 僕、寿命が延びてる?
それどころか、体も丈夫になって、力も強くなった。他の子のことはあんまり知らないけど、どうやら僕は昔とぜんぜん変わっていないらしい。
おかげで僕はご主人様と長くいられるし、話し相手はいるし。ホントに、あの時申し出を受けていてよかったと思う。
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大学の講義が終わり、バイト先へ行くと、彼女――すずがいた。
俺のバイト先は、知り合いの親が経営している喫茶店で、すずはそこの常連なのだ。喫茶店バイトと言えど、まだ飲み物は入れられないので、主に掃除や皿洗い、給仕なんかがメインだが。
昔、昔……俺がこの地域に住んでいた時、どうやらすずと俺は知り合いだったらしく、この喫茶店で働き始めの時、彼女に出会って「緋色君?」と声をかけられ、以来この喫茶店で、お客のいないときに限るけど、喋ったりするようになった。
彼女はどうやらここで勉強をしているらしく、いつもノートを広げている。話を訊くと、どうやら予備校生らしい。
詳しくは聞いていないが、実家を継ぐために医学部を目指しているんだぞうな。立派なもんだ、俺なんて何を勉強するかなんて全く知らずにこの大学に入ったんだから。
今日は割とお客さんが少ない日だったので、彼女とカウンター席で軽く話しながら、バイトを終えた。彼女はこれから家に帰ってもう一勉強するらしい。俺が現役の時、そんなに勉強していただろうか。
すずと別れ、さて、俺も家に帰るか……と思った時に、異界力が強まる気配を感じた。
(……あーもう、疲れてるのに、仕事かよ)
ため息をついていても始まらない。俺は少し面倒さを感じながらも、異界力で自らの周りに「人払い(IP)」の結界を張り、そして異界力を自らの異杯に流し、起動させる。
そして俺の魂の波長にあった形――翼型の異杯、運命を振り払う者を発動する。
ふと、脳裏に浮かぶのはすずの顔。別に好きとかそういうことじゃなく――こうして異杯を使うと、必ず彼女の顔が浮かぶのだ。もしかしたら、彼女も何か異界力にかかわっているのかもしれない。
……こうして、阿久緋色は、日常から、非日常へと足を進める。
初めまして、K城の城です。小学生時代から腐れ縁の《K》と共同執筆で小説を書くことになりました。
私自身はすでに別サイトで個人的に小説を上げているので、興味のある方は探してみてください。基本的にファンタジーモノを書いています。そのことについては後々紹介できたらいいなあと思います。
Kの方はどういう風に進めるのかは知らないので、是非次回更新にご期待ください。