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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
2章 蒔かれたよ、変の種
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いつまで作れる、幼なじみ



 そうして、お昼休みは、放課後昇降口に集まる約束をして、解散したのだった。

 わたしはバスケ部で、まほりはラクロス部に、幸太郎はサッカー部の蹴った球につられて走っていった。

 幸太郎、犬のまま部活する気かな。

 犬化の進んでいる幸太郎が少し心配だったけれど、部活に遅刻すれば顧問に怒られるので、体育館に向かった。


 練習はいつもどおりバレー部と体育館を二分して行われた。

更に男子部と二つあるバスケコートを折半だから、実質使えるコートは一つだけ。

女子部の面々は、そのコートの中でストレッチをする。

男子部は既にストレッチを終え、壁沿いをランニングしている。

そう言えば、穂波君も同じ部だったんだっけ。


屈伸をしながら、走っているメンツに目を向けてみる。

思えば、まともに男子部のメンバーを見たことなんてないかも。

軍団の中、穂波君は前のほうを走っていた。

わたしが見ていると、視線に気づいた様子で、目があう。

逸らすのもどうなのかと思い、とりあえず手を振ってみたら、何故か穂波君はつまずいて、転びそうになった。

同時に、

「本田あぁ!男子に色目使うんじゃないー!」

 顧問の金切り声と体育館履きが飛んでくる。

 何とか顔の前でキャッチして、投げ返す。

「ナイスキャッチ、ミサキー」

とチームメイトの由紀が耳打ちする。

 それにしても、色目って、古いよ先生……。



 練習後、

「それにしても、今日もワニセン機嫌最悪だったねー」

 更衣室で着替えを始めると同時に、女子バスケ部部長の今井先輩が、そう切り出した。

「ねー、お陰で穂波君良く見れなかったんだけどー」

「あたしなんか、大塚先生良く見れなかったー」

 すると先輩達がたちまち話に乗っかっていく。

 確かに、今日の鰐淵先生は一段と機嫌が悪く、よそ見をしようものなら、もれなく体育館履きが投げられた。

 わたしを始め、ひょっとしたら皆一通り投げられたかもしれない。

「ミサキなんか、色目使うなって言われてましたよー」

 と隣で着替えていた由紀も、会話に入っていく。

「ちょ、ユキ……っ!」

「本田が色目?珍しー」

「ていうか、本田って、人類に興味あったっけ?」

「先輩、さすがにそれひどいです……」

 人類に対して興味の範囲が狭いのは自覚あるけれど。

「それで誰誰!?誰狙ってるの?」

「ねらっ……ちょっと見てただけです!」

「誰を?」

 先輩の一人にロッカーを背に追い詰められる。

「先輩、近い、近いです!鼻息が……」

「抜け駆けは駄目だよ、本田。男子部のやつ、どんどんチア部と付き合っていって、在庫残り僅かなんだから!」

 人間を在庫にたとえるってどうなんだろ。

 それはともかく、この先輩、さっき穂波君が見れなかったって言っていた先輩だ。

 穂波君を見ていたって言ったら、どうなるかな。

「先輩、穂波君好きなんですか?」

「そうなの!カッコいいよね、穂波君。色素薄くてちょっと日本人離れしてるし!」

「高塚、話題そらされてる、そらされてる」

「あ、そうだよ。それより、本田、誰見てたの?」

 今井先輩が援護射撃をしてしまい、本題に戻される。

「穂波君って言ったら、どうします?」

 冗談っぽくそう言ってみると、高塚先輩の顔にさあっと影がさす。

 そして、

「握りつぶす」

 とどすの利いた声でおっしゃる。

「あ、ははは……」

「まさか、本田、穂波君を――」

「い、いやいや!い、犬見てました!グラウンドをかける犬を」

 嘘じゃない。

練習中何度か、開け放たれたドアの向こうに、ボールを追いかける犬が通り過ぎたのを見ている。

わたしがそう言うと、話に入っていた面々はみんなして溜息をつく。

「ま、本田はそんな感じだよねー」

「色気ねー。浮いた話ないのー?」

「ないの、て言われても……」

「でも、本田いつも男子と帰ってるよね。あの、2年の」

「あーあの」

 幸太郎が、あの、で表現されてしまうのは普段の行いが原因だ。

 最近だと、4月の朝礼でサッカー部が表彰されたとき、賞状を渡してくれた校長に、

「ありがとう、おじいちゃん」と言って全校を引かせたのが記憶に新しい。

 本人はまったく覚えていないらしいけれど。

「付き合ってんの?」

「幼なじみです」

 そう言うと、再び溜息をつかれる。そして、

「うわあ、つまんねー。幼なじみとくっつくパターンだ。チョー漫画的!」

「わー、つまらん!非常につまらん!幼なじみいないわたしは、どうしろちゅーんじゃ!」

「ていうか、幼なじみの定義って何?わたしも今から作れないかな幼なじみ!?」

「もう幼くないじゃん」

「うっそっ。まだ、幼さ現役ですけど?」

「幼さ現役でごじゃいましゅるー」

「いや、それ赤ちゃん言葉じゃないでしょ」

「幼なじみ欲しいでごじゃいましゅるー」

「しゅるー」

「アホか」

 と怒涛のスピードで会話が流れていく。

「あ、あの……」

 間を挟まないあたり、さすが先輩だ。

 付き合ってないって否定をさせてすらもらえない。

 何とか割って入れないか、とタイミングを見計らってみるけれど、そうしているうちに、いつの間にか会話の流れは、若手俳優の話に移ってしまっていた。

 でもまあ、わざわざ訂正するのも面倒くさいしね。



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