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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
2章 蒔かれたよ、変の種
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まほりの、マユツバ魔法講座


 昼休み、中庭の東屋にわたしとまほり、幸太郎の3人(2人と1匹?)が集まった。

 まほりは木造のテーブルの上におびただしい数の本をばさっと広げる。


『東洋魔術全集』という重々しい表紙のハードカバーから始まり、『恋するおまじない』というファンシーの絵柄のものまで、色々な本がある。

すべてに共通するのは魔法、魔術関係ってこと。


「まほりぃ……こんなたくさんの中からどうやって探すの?」

「昨日、ぱらぱらって見てみて目ぼしいとこに付箋貼っておいたんだ」

「そうなの?」

 試しに一番近くに置いてあった『誰にでも出来る魔術~初級篇~』を手にとってぱらぱらめくって付箋が付いているページを開く。


☆服従の魔術☆

これで誰でも世界征服だにゃん。愚民よ、従うのにゃん。ファンシーな猫が頭の上の描かれているふきだしで、とんでこないことを言わされている。


それにしても、まほり、何でこんなとこに付箋貼ってるんだろう。

……世界征服したいのかな?

まあ、見なかったことにしよう。

そして、次の本を手にしようとして、はた、と止まる。

随分、幸太郎が大人しいな、と思ってぐるりと周囲を見回す。


そこには、ひらひらと舞うアゲハチョウを追いかける犬の姿があった。

尻尾ふりふり、楽しそうに飛び跳ねて蝶と戯れている。

「ね、ねえ、まほり……中身まで犬化が進んでいるみたい」

「ボール投げたら、きっと追いかけて取ってくるね」

「しゃ、しゃれにならないよ。早く戻す方法考えないと」

「だね。わたしは家にペットが増えるのは大歓迎だけどー」

「まほりぃ……」

「冗談冗談。それよりこれ見て、ちょっと気になること載ってる」

 そう言って、まほりは開いた本をわたしの方へ向けてくれる。

「えーと……意思の交錯による魔法の失敗例?」

「そう。それ」

「ど、どういうこと?」

 本には、四方八方からたくさんの矢印が人物に向かっている絵が描かれている。

「ここに説明があるね。なになに……人は生きている間、様々な意思に晒されている。特に強い意思は魔法による介入を大きく拒む場合がある。そのため、術者が意図した魔法がそのとおりに発揮されることなく、違った形であらわれてしまう場合がある。それが意思の交錯による失敗例である……だって」

「うーん……ちょっと分かりづらい。どういうことだか、まほり分かる?」

「たぶんこういうことじゃないかな」

 そう言いながら、まほりは本に描かれた人物を丸くなぞる。

「例えば、これが今回の場合、ミサ」

 それから、人物に向かう矢印の一つを指差す。

「そして、これが、わたしのかけようとした魔法だとするでしょ」

「うん」

「本当だったらこの魔法がストレートに効いて、ミサはモッテモテのはずなんだけどー」

 今度は別の大きくて太い矢印を指差し、その指で、

「他にミサに対する強い意思が向けられていた場合、この魔法は弾かれちゃう」

 もう片方の指を弾く動作をしてみせる。

 意思ってつまり、思いってことだよね。

「もともとおまじない程度の魔法だし、そんな強い意思がこもってるわけじゃないからね」

「なるほど」

「で、弾かれた魔法は、たまたま近くにいたコータロー君にかかってしまった、と」

「……なんか、間抜けなようなかわいそうなような……」

 目の端にジャンプし損ねて、背中を打つ幸太郎の姿を見る。

「完全なるとばっちりだね。あはは」

「まほり、それ聞いたらコータロー泣くよ……」

「だから、協力するってば」

「うん」

「わたし、これでも責任感じてるんだ。ちゃんとミサにモテモテの魔法かけられなかったって」

「そっち!?コータローのことじゃなく?」

「だって……コータロー君の場合、自業自得の要素あるよ」

「え?どーいうこと?」

「それは、さっき言った、ミサに働いてる強い意思――」

『ミサキ!飯食おう!』

 蝶を追うのに飽きた様子の幸太郎が戻ってくる。

「まほり、そう言えば何か言いかけてなかった?」

 わたしがそう言うと、口の端をあげてまほりはにやりと笑い、

「なんでもなーい。それよりご飯ご飯ー」

 パタンと開いていた本を閉じて端に置いた。

「変なまほり」

 わたしは周りの本をテーブルの端っこにまとめて積むと、カバンからお弁当箱を取り出して開く。

 エビフライと付け合せのレモンとパセリ、白米とマカロニサラダのシンプルな弁当。

「はい、これ。昨日言ってたプリンね。マミーの手作り」

 まほりは、紙袋の中からガラスのカップに入ったプリンを取り出して、テーブルに置く。

「あーそういえば、お詫びにどーとか言ってたっけ。まほりのお母さんの手作りプリンって美味しいんだよねー」

『お、プリン!ミサキ。半分こにしよーぜ!』

 幸太郎はそう言いながら、椅子からジャンプしてテーブルの上に載ってくる。

「却下ー。コータローにはパセリのプレゼント」

『うっわー……』

「ミサ。エビフライとハンバーグ交換しよ」

「オッケー」

『ミサキ、俺にもエビフライ!』

「しかたないなあ……」


 そんな感じに呑気にお昼を過ごしていたら、幸太郎を元に戻す方法について話し合っている時間はなくなってしまった。



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