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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
4章 近づくもの遠のくもの

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舌足らずの喧嘩



 ?年前~魔法7日目(赤口)


 

 その番組を見ているとたいてい、わたしと幸太郎は喧嘩になって、しまいにはそれぞれがそれぞれの言い分を言い合いながら、泣き出す始末だった。


 原因は、わたしが好きだったキャラクターを幸太郎が気に入らないというだけの、些細なことだった。

 幸太郎はいつだって、情に厚く、熱血でちょっとバカという、多くのメディアの中で一般化しているヒーロー像にマッチするようなキャラクターが好きだった。

 わたしも特にそういうキャラクターが嫌いなわけじゃなかったけれど、その番組の場合は違った。

 一見クールに見えるけれど心優しい、いわゆるイケメンのキャラクターをカッコいいな、と思ったのだ。


 というよりもまず、そのキャラクターを演じる俳優をいいな、と思ったのが大きかったのだと思う。

 その俳優は端正な顔立ちをした青年だった。わたしは、その俳優が演技の中で時折みせる、優しそうな笑顔がいいと思っていた。

 もっとも、園児の頃のあやふやな記憶だから、そのときのわたしの目には本当はどんな顔に映っていたのかは分からないけれど。


 とにかく、どちらかの家でその番組を見ると、必ずと言っていいほど喧嘩になるので、別々に見なさい、と両方の母親が言い出すほどだった。


 今でこそ腐れ縁のように思うけれど、当時は仲が良かったこともあって、喧嘩したことも忘れて、一緒に見てはまた喧嘩を繰りかえしていた。

 今までそんなことはすっかり忘れていた。

 それなのに今思い出しているのは、さっきまでその喧嘩を目の前で再現していたからだった。


 目の前でまだ小さくて可愛い頃の幸太郎がまっすぐな眼差しでこっちを見ながら、怒っていた。

 幸太郎はぎゅうっと眉根を寄せて、

「ドッグブルーなんてかっこよくない!」と怒る。

 そしてわたしも、

「かっこいいもん!レッドなんかより、ずっとかっこいいもん!」と応戦する。

 この日は幸太郎の家で見ていたようで、幸太郎のお母さんがどっちもかっこいいわよ、と妥協案をあげるけれど、そんな心づかいも幼稚園児には届かず、喧嘩はヒートアップするばかりだった。

 わたしは昔から意地っ張りだったけれど、幸太郎はそこまで自分を押し通すことは少なくて、すぐにけろっと気分を転換させてしまうほうだったけれど、このやり取りだけは、なぜかいつも決まって喧嘩にまでなってしまった。

 わたしは、そんなやり取りを当時の自分の目線から眺めていた。


 お互い言葉足らずで、わたしはただ自分の好きなキャラクターの方がかっこいい、と言い、幸太郎はかっこよくない、というやり取りがえんえんと続くだけなのに、本人達は勝手にどんどん熱くなっていき、最後にはわんわん泣き出してしまう。


 ただ、幸太郎がブルーよりレッドの方がかっこいい、とは言わないのが不思議だった。

 幸太郎はその番組、“超犬戦隊(チョウケンセンタイ)ケンエンジャー”のドッグレッドが好きだったので、てっきりそう言うと思った。

 レッドのほうがかっこいいのに、ブルーがいいなんて変だ、という意味で怒っていると思ったからだ。

 けれど、いつだってブルーはかっこよくない、の一点張りだった。

 レッドのレの字も出さない。

 そしてなぜか、今こうして見ているだけのわたし自身の胸が痛くなるくらい、必死にそれを訴えかけてくる。

 何が何でも、レッドのほうがかっこいい、ではなくて、ブルーはかっこよくないのだ、と幸太郎はわたしに伝えたかったらしかった。

 及ばぬ舌で。


 当時は自分も今より遙かに小さかったから、気づかなかったけれど、今こうして見てみると、幸太郎はわたしに何か伝えたかったのかもしれない、と思う。

 そのドッグブルーというキャラクターを嫌がる意味がきっとそうなのかもしれない。


 ドッグブルー。

 穂波君を見て幸太郎がそう言ったのはまだ記憶に新しい。

 その時は、何のことだか思い出せなかったけれど、今なら思い出せる気がする。

 それは多分そう――――

 あの夢に繫がるのだ。

 目の前の小さな幸太郎の姿は靄の中に溶けていき、オレンジ色のいくつもの灯篭の光が目の前に現れた。




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